2-6.イメージ
「なーんか噛み合わないな」
そもそも子供の扱いなんて知ったこっちゃないし、構う必要も無い。
突如舞い降りた非日常に戸惑うばかりだ。
何がなんだかさっぱり分からない。手の平に在る銃の重みだけが現実を匂わせている。
俺は暫しの間、金色の銃を眺めた。
中空から現れた綺麗な銃。やはり本物にしか思えない。
俺は見様見真似で銃を握り、真っ白い壁に銃口を向けた。
それは単純な興味に違いない。幼い子供が見たこともない玩具を手に入れた様な感覚。
しかし扱い方は知っている。少しだけ心臓が高鳴る。俺は人差し指でゆっくりと引き金を引いた。
「……あれ?」
カチャカチャと金属の擦れあう音だけが微かに聞こえるだけ。
中に在るはずの鉛玉は出る事無く、ただの玩具が其処にはあった。
「あはは、出ないよ」
いつの間にか布団から顔を出していたエウが、笑いながら話した。
「なんで?」
「言ったじゃん、魔法だって」
そんな可愛い笑い顔して言われても困る。俺が人間だから駄目なのか?
「エウなら撃てて、俺には撃てないって事?」
「ううん、誰にでも撃てるよ。ただイメージが出来てないだけ」
「イメージ?」
「そう、魔法ってのは心の力なんだよ」
とたんに胡散臭くなってきた。
なんだよ、宗教の勧誘か? そんな俺の不満そうな思いが顔から滲み出ていたのか、エウは布団から這い出し、手に持っていた銃を奪い取った。
そして何の躊躇いも無く、引き金を弾いた。
「うおっ!」
バンっと音がする前に俺は慌てて耳を塞ぎ、頭を伏せた。
その瞬間、鈍い音が部屋中に響きわたる。
「ね」
エウは誇らしげな顔で俺を見下ろす。確かに銃弾は部屋の壁を貫いた。
「エ、エウさんエウさん……」
「?」
だが、そんな事はもうどうでもよかった。
「ふ、服を着ろー!」
布団からはいでたエウは全裸だった。
幼い少女が何も纏わず、生まれたままの姿で目の前に立っている。
その姿はまるで彫刻や絵画の様に美しい。そう、彫刻や絵画の様に……。
「どうしたの?」
「見れるかー!」
そんな紳士の様にはなれないわけで、俺は慌てて箪笥からシャツを取り出しエウに被せた。
「おら、服を着ろ!」
「え~もしかして欲情しちゃった?」
「んなわけないだお!」
「お?」
「う、うるさい! 早く着てくれ」
エウはにやけ顔でゆっくりと服を着始める。
天使と思った俺が馬鹿だった、こいつは悪魔だ。
もしも誰かに通報されたりしたら、俺はすぐさま塀の中だろう。
ああ、恐ろしい。なんでこんな悪魔が家にいるんだ……。
「あ、美味しそう」
「待てぃ!」
俺は何故か擦り寄ってくるエウから素早く離れた。エウの目が眠たそうにとろけている。
こんな目をした女は危ない。いや、まだ女じゃないんだが……。
どんどん頭の中が混乱してくる。ちょっと深呼吸でもして落ち着かなくては。
「……ふう」
俺はゆっくりと息を吐き、気持ちを落ち着かせた。エウはその間布団にちょこんと座っている。
俺が落ち着くのを待っていてくれている様だ。
だがシャツ一枚で布団の上に座るエウを見ると、少しどきどきしてしまう。
俺はもう一度深呼吸して、エウに話しかけた。
「わかった、落ちつこう」
「私は落ちついてるよ」
そんな事はわかっている。さて、いちいち反論していては進むものも進まない。
まずはエウの話を真実だと思って聞くことだ。俺は壁にあいた穴を指差して呟く。