2-5.イメージ
「落ち着いた?」
「はい……」
とりあえず笑いを忘れるくらいには落ち着かされた。
それにしても、魔界……か。
俺はまた笑いそうになるのをぐっと堪えた。
「その……魔界とやらから何のようで?」
「話すと長いけど、しばらくの間お世話になるね」
「はぁ、もう反論する気も失せてきたよ」
どうせ嫌だとか言うと先ほどの様な目に合わされるのだろう。
エウは俺の言葉に満足したようで、本棚においてある漫画本を手に取った。
俺は決して納得したわけじゃない。これは脅迫に近いな、いや紛れも無く脅迫だ。
俺は大きく溜息を吐き、床に寝そべった。
布団はエウに占領されており、手足を曲げないと寝転ぶことすら出来ない。
「あ」
俺はふと思い立ち、布団の周辺を探す。
エウが何故持っているのか分からないが、結局は物騒な銃さえなければいいのだ。
漫画に夢中になっているエウを横目に辺りを探すが、見つからない。
「どうしたの?」
流石に不審に思われたか、俺はすかさず用意していた言い訳を放つ。
「いや、さっきエウが持ってた銃。綺麗だったから見たいなって思って」
「ふ~ん、ほい」
エウが中空に手をかざすと、何も無い空間に綺麗な金色の銃が姿を現す。
まるで手品のようだが、一般人には分かりそうも無い超常現象に俺は首を捻るばかりだ。
「もしかして……ま、魔法……とか?」
魔界とか、普段日常で使うのは中学生ぐらいだろう。
しかしエウからはそんな言葉がさらりと出てくる。俺はなんとなく連想した言葉を口にした。
「ぴんぽーん」
「え、マジかよ」
嘘から出た真って言うのか、エウは魔法という言葉を隠す気も無く当たり前の様に呟いた。
そして金色に銃を俺に手渡してくる。
「どう?」
「どうって言われても……結構重いな」
俺の手の中にあるのはどう見ても本物の銃だった。
いや、本物なんて触ったことは無いが、この重さと金属の冷たさは本物の様な気がしてならない。
「これ本物?」
「ん~本物って……なに?」
「はぁ?」
本物は本物だけど。ああ、そういうことか。
ようは偽者かどうかって事だろう。しかし実際に撃ってみないと分からない。
「撃ってみれば?」
「おいおい、こんな平和な国で銃声とか響いちゃ駄目だろ」
「……ふぁぁ」
エウは俺の反応がつまらない様で、小さな口を思いっきり開けて欠伸をした。
それが合図だったのか、エウは布団を頭まで引き上げ、蓑虫の様に丸まって寝てしまう。
部屋には手に持った銃と対峙する俺だけが取り残されてしまった。