2-4.イメージ
「んぐ」
「おーよしよし。怖かったでちゅか~?」
親が子供をあやすかの様に、俺は頭を抱き寄せられ撫でられる。
くすぐったさと柔らかさにとろけそうになるが、俺はなんとか踏みとどまった。
このままじゃ何も進まない。俺は両手で幼女の脇を持ち、そのまま布団へと座らせた。
俺の拒絶が気に入らない様で、幼女は頬を大きく膨らましている。
「なによー」
「なによー、じゃない。とにかく訳がわからん。名前は? 君は一体どこの子なんだ? どうして俺の部屋にいる?」
「はーい、質問はひとつにしてくださーい」
どうやら俺の質問に全く興味が無い様だ。
幼女は布団を着たまま本棚に手を伸ばし、漫画本を読み始める。真面目に答えて欲しいものだ。
じゃないと俺は今から警察に行くことになる。俺は溜息を吐きながらひとつひとつ質問した。
「じゃあ、名前は?」
「ん~長いからエウでいいよ」
長いって事はニックネームみたいなものか。
海外では宗教や文化的な理由でミドルネームをつける人も多いらしいからな。
それに外見はどうみても日本人には見えない。
「そんじゃ……」
「ん」
エウと名乗った幼女が俺の言葉を遮り、人差し指を向ける。
「あ、ああ。俺の番か。俺は佐崎悠太ってんだ」
「ゆう?」
「呼びやすいならそれでいいよ」
「ゆう……ゆう……」
エウは俺の名前を反芻している。発音しにくいのだろうか。
でも此処まで流暢に日本語を話せるんだ、そんな事はないだろう。
エウは繰り返し俺の名を唱えると、笑顔を見せてこういった。
「うん、悠。よろしくね」
それはエウが見せてくれた最初の笑顔だった。天使の様な笑顔って、本当にあるんだな。
「って違う! 何がよろしくなんだ!」
「えーなによー。気に入らないの?」
こ、こいつは俺を丸めこもうとしているのか?
厄介ごとしか見えないエウという幼女に近づきたくない。
だが、もう巻き込まれているのは目に見えていた。
だって放って置けるわけないし、なによりもう一人の俺の身体がいつの間にか消えているのだから。
「こほん。とりあえずエウちゃん? エウちゃんの家は何処かな?」
「家? 家は……」
エウはゆっくりと人差し指を中空へ向けた。俺はそれを見て首を傾げる事しか出来ない。
そしてエウはとんでもない事を言った。
「分かりやすく言うと。魔界、かな」
「は?」
思わぬ返答に少しのあいだ息が詰まったが、
「ぷ。あっはっはっは。そうか~そんな遊びが幼稚園で流行ってるのかな? それでも親御さんに知らない人から聞かれたらそう言いなさいと躾されてるのかな~」
「お口が騒がしいようね」
エウは先ほど取り出した銃をいつの間にか手に持ち、俺の口元へと近づける。
「すいません、すいません。許してくらひゃモゴモゴ」
「反省してる?」
エウがサディスティックな目で俺を見下ろす。舌に当たる冷たい金属が銃の存在を認識させる。
冗談の様にも聞こえるが、冗談で殺されるなんてたまったもんじゃない。
俺はひたすらに謝り続ける事になる。謝り続けているうちに、ふっと煙の様に銃は消え去った。