2-3.イメージ
天使のような笑顔を見てしまうと、こちらも頬が緩くなってしまいそうだが、
右手に握られた鉄の塊で目が覚めた。
騙されん、騙されんぞ俺は──。
言いたい事は山ほどある。
しかし銃口を突きつけられている今では、大人しく幼女の言うことを聞くしかなかった。
「とにかく、貴方は昨日コレで死んだの」
「……死んだって。俺、まだ生きてるし……」
「ん~幽霊?」
「まじかよ」
俺は横目で俺だった物を見る。嘘だと信じたいが、毎日洗面所で合う顔と同じだ。
俺は自分の両手足を触って確かめる。でも幽霊って言われても、全く実感がない。
だって俺の生身の手や足は此処に在るのだから。
「全く持って訳が分からない。これは夢なのか?」
「貴方がそう思いたいなら、そう思ってくれてもいいよ」
目の前の幼女は興味が無くなったかの様に、手に持った銃を放り投げ、寝ぼけ眼を擦っている。
夢、か。なんだか改めてそう言われても実感わかないな。
「はぁはぁ……」
「ん?」
俺の後ろでなんとも嫌な、それでいてむさ苦しい男の吐息が聞こえる。
いや、男かどうかも分からない。俺はゆっくりと振り向いた。
「エウさん、もういいすか? 持って帰っていいすか?」
「あ、もういいよ~」
「え……う、うわあああ!?」
俺は驚きの余り、腰を抜かしたまま後ずさりしてしまう。
なぜならそいつの格好が、あまりにもおどろおどろしい死を想像させたからだ。
全身真っ黒なローブ。人間の頭蓋骨の様な仮面に、肩から膝まで伸びた、長い大鎌。
それは誰もが想像しつくしたような、死神というに相応しい格好だった。
「こ、こっちも貰っていいすか?」
死神は興奮しながら俺に鎌を向けた。
「駄目よ。こっちは私が使うから。肉体だけで我慢しなさい」
「エウさんそりゃ無いっすよ。人間貰えるって言うからわざわざこんな臭いとこまで来たのに」
「く、臭くて悪かったな……」
喉から出たのはそんな見っとも無い言葉だけだった。
目の前の状況に全くついていけない。後ろには俺を殺した幼女。前には俺を殺そうとしている死神。
「……」
か、帰りたい。田舎に帰りたい……。
俺は心底そう思った。どうも俺という人間は窮地に立たされると冗談しか思い描けないタイプの様だ。
なんの解決にもならない。でも、そんな冗談が俺を少しだけ冷静にさせてくれる。
俺の足りない頭で考えた結果、幼女にすがる事にした。
まるで犬の様に手足をばたばたさせ、四つんばいで幼女の後ろに隠れる。
「ね。ほら、早く帰りなさい」
「なら……、また来るっす」
「来ても何も無いわよ?」
「うう、上司に無理行って出張させてもらったのに……」
そんな情けない、ある意味共感できそうな言葉と共に、死神の姿はゆっくりと薄くなり、
ついには消えてしまった。一気に部屋の中が静まり返る。
俺は二人きりになった事を確認し、ようやく一息つけた。