3-1.死神
「はぁ」
俺は大きく溜息をする。時計を見るとすでに九時を回っていた。
何もすることがなくなり、朝ごはんでも食べようかと思ったとき、
いきなり携帯が大きな音を部屋中に撒き散らした。
「げっ」
聞こえるのは某RPGゲーム、魔王戦のBGM。
会社の上司から電話だ。この時間なら朝礼も終わって仕事に取り掛かっている時間だ。
おそらく上司は無断欠勤だと思ってることだろう、実際そうなのだが……仕方がない。しかし、
「死んでるのに電話に出れるのかな?」
俺が思ったのは純粋な疑問だった。今日は朝からおかしいことばかりだ。
死んでいるならこの世に居るはずもないし、幽霊なら物には触れないだろうし、声も届かないはず。
俺はこれが全部夢だろうと、淡い期待を持って電話を手に取った。
「取れた……はい、佐崎です」
『お、電話に出た。どうした、病気か? それとも事故か?』
「え、えーっと。それが病気のような、事故のような……。申し訳ないんですが、今日は会社には……」
『あれ? もしもーし、もしもーし』
「え、もしもーし。聞こえてますか?」
『こりゃ留守電か、まったく仕方ねぇなぁ……』
ブツッとした切断音と共にお決まりのトーン音が聞こえてきた。
「え……聞こえてないのか……?」
俺はリダイアルで会社に掛けなおす。
『はい、株式会社キューエンです』
「あ、お疲れ様です。技術部の佐崎ですが、上司の森川さんお願いします」
『もしもし? もしもし? 間違え電話かしら……』
ガチャリと電話を切られた。どうやら聞き間違いや、携帯の故障ではない。
携帯電話の操作は出来るが、俺の声は届かない──。
この意味不明な状況に思わず汗が流れた。
背筋に伝わる冷たい感触に、身体が思わずゾクゾクと反応する。
「し、死んでるのか? マジで……」
俺は自分の手足を睨みつけるように見入った。
足はちゃんとついてるし、幼いころ怪我した傷あともしっかりと残っている。
胸に手を当てれば心臓の鼓動さえも聞こえてくる。
「死んでねぇよ、生きてる。生きてるはずだ……」
きっと何かの間違いだ。
考えたくもないけど、会社ぐるみのいじめかなんかだ。くそ、あのブラック企業め。