1-1.プロローグ
「お疲れ様でした~」
誰も居ないオフィスに、俺の疲れた声だけが小さく響いた。
時刻は既に零時を回っており、返してくれる人などいない。電灯のスイッチを切ってオフィスを出る。
「おっと」
部屋を出る前に、俺は首から下げているICカードを機械にかざした。
タイムカードを見ると、ここ数ヶ月の残業時間が酷い事になっている。
不景気なのにこの忙しさ、俺は毎日訪れる山の様な仕事と格闘しているのだ。
仕事は減ってきているのに、仕事量は上がっていく。
不景気だからって人を切りすぎたせいだ。社員というだけで奴隷の様に扱われちゃたまらない。
俺は胸の内から沸きあがる文句を押さえつけながら、階段を下りて外へ出た。
「あ~だるい、だるいだるい」
夜道を独りで呟きながら歩く。誘蛾灯の様に光っているコンビニへ立ち寄った。
「なーんでこんな会社に入っちまったのかな~」
シールが貼られた弁当を手にとる。
深夜のコンビニが、最近値引きを始めたのは地味に嬉しい。
俺は五十円引きの弁当を持ってコンビニを出た。
とぼとぼと歩く姿は、まるで行き場のない浮浪者の様に見えるかもしれない。
家に辿り着いたのは午前一時を回ったところ。
ただ寝に帰ってくるだけの古い二階建てのアパート。
たった六畳一間の小さな城、その寂れた階段を気だるそうに上る。
「あちゃ~点いてる」
部屋の明かりが漏れていた。誰も居ないはずなのに、家の明かりが点いている。
こんなボロアパートに泥棒ってわけでもないだろう、きっと電気の消し忘れだ。
ドアノブを捻ると慣れた鍵の引っかかりを感じる。
俺はほっと胸を撫で下ろした。俺は鍵を取り出しドアを開けた。
だが、安心するには早すぎた様だ。