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リア充は異世界では生き残る事ができない。(イケメン編)

作者: コウ

誤字、脱字があるようでしたら、優しい表現の御指摘をお待ちしております。

『落ちこぼれ』 それが日本における僕の立場


暗記は苦手でテストの点は落第スレスレ、スポーツは苦手、実家の鉄工所は零細企業なので貧乏

ルックスは加もなく不可もなく平均点で目立たない。

僕こと「斉藤 一也」はクラスの底辺にいて居心地の悪い中、日々を過ごしていた。


「おーい オタ斎藤 掃除当番メンドクセーからお前 代わりにやっとけ」

「パシリ2号 視聴覚室に行って英語の授業の準備しろって先生が言ってたぞ」


リア充達はチートみたいな圧倒的なまでのコミュ力を駆使して、自分たちに居心地がいい様に学校の生活環境をアップデートすることができる。家庭が裕福でない、兄弟が多いので仲を取り持たなくていけない等の自己主張が中々出来ない環境で育った者はあっという間に餌食になってしまう。



だが、僕たちは唐突に異世界に『召喚』された。


テンプレ通りならギルドに素材を持ち込んで一攫千金、先輩冒険者に絡まれる、美人受付嬢との出会いが起こるはずだが、この世界には魔物などいないので当然のごとく冒険者ギルドなど無く


ただあるのは、現代日本よりも強欲な勝者の饗宴と押しつぶされる敗者の悲鳴だった。



生活保護なんて夢のような制度など一切無いこの異世界では、稼げなくなる事は死ぬという事と同義語で借金は奴隷に堕ちると同義語なのだ。

警察機構など賄賂でどうにでもなるから犯罪に巻き込まれる可能性は高く一般庶民の命の価値は

路傍の石よりは重いが、オリーブの木に比べると軽い。

俺TUEEE小説では、チート能力を神様からもらって異世界無双になるけど僕たちの場合は言語翻訳能力がある位で生活するには微妙に役に立たない。おまけに読み書きの内、書く方が駄目ときた。


仕事を貰いに行った先で判明してしまい、恥をかいてわずかに残っていた「異世界に行けば自分が主人公ヒーロー」という甘い期待は打ち砕かれた。


宮殿?らしき所から出てきた時に貰った金が尽きる前に自分で生活できるくらい稼げる仕事を探さなくてならない。

大変なので有名な大学生の就活など生温い事態になっている。何しろ生死がかかっているのだ。


僕たちは「中国人の三刀」に習ってどの国でも需要があり簡単な理髪業を始める事にした。




- * - * - * -


この世界 いやこの地域の人は、朝一番に奴隷以外の男は他人にヒゲを剃ってもらい、仕事に出かけてお昼くらいで仕事を終える。

後はコロシアムで殺戮ショーを見物したり公衆浴場に行ったり、演劇鑑賞をしたりとゆったりと過ごす。

但しこの行動パターンは裕福な部類に入る人達で、解放奴隷、貧困層はひたすら日没まで働く。



異世界でも いや異世界だからこそ「勝ち組」「負け組」にハッキリと分かれているのだろう。



青空が目に眩しい昼下がり ジリジリと照り付ける太陽を心の中で罵りながらひたすらに仕事をしていると、二度と会いたくない部類に入る奴と遭遇した。


『あれ、斉藤じゃん。なにやってんの?』『おーい 無視しなくてもいいじゃん』


真っ新なトーガ(高級な服)を着込んで、呼びかけているのは、お客様扱いで権力者宅に居候している『向井 かける

元クラスメイトで、ジャニーズ系のイケメン 奴もこの世界に来ている。権力の中枢の近くにいると後々厄介事に巻き込まれると判断した僕たちと違ってずっと権力者のお世話になっているみたいだ。


「聞こえてますよ。商売の邪魔になるから後にしてくれないかな。それとも売上に貢献してくれるの?」


『ぷっ なにそのバリカンで丸坊主にでもなれって?』

『見てみろよ このバッチリきまった髪型 魔法・・・で整えてもらったんだぜ。俺の理想にピッタリで日本の美容室でもこうはいかないだろ。それに何故、お前ごときに協力してやる義務があるんだ』


どうやら、自分の境遇を自慢したかった為に声をかけたらしい。

「ああ、そうですね。元々違う世界・・・・・にいるんでしたっけ?じゃあ さよなら」


奴がうっかりして喋った内容に周囲の暇人たちが一斉に反応している。その眼差しに写るのは欲望か羨望だろうか。現代日本に例えるなら私は髪を散髪するのに世界的に有名なスタイリストを呼びつけているセレブと言ったに等しい。

この地方では金持ちにタカって奢ってもらうのはごく一般的な事、恥でも何でもないのだ。


やりとりを聞いていた客が、興味津々な様子で聞いてきた。

「坊主、お前の持っている珍しい道具は ばり・かん というのか?どこの属州の道具なんだ?」

「オジさん ばり・かん じゃなくて バリカン ね。どこの属州で売っているのかは商売上の秘密ね。

 はい 散髪終わり 小青銅貨3枚になります。」

「おう坊主の仕事は相変わらず早いな。ところでお前はあの羽振りのいい男娼と同じ出身なのか?」

「さあ~どうかな~ オジさんそんな趣味あったんだ?」

「俺にはそんな趣味ねえよ。ほら見てみろよ、リッポ家のくだらない茶番劇が始まるぞ。」


オジさんに示された場所を見てみると、如何にもチンピラという男数名と美少女、その親らしい中年男性がいる。そして向井イケメンとお供達の前で何やら揉めている。


「おら、借金が返済できないなら娘を奴隷商人に売ってもらおうか」

「お願いします。止めてください。少額でも返済しますから」

「こっちはそうやって何度待ったと思っているんだ。利子替わりにこの子と遊ばせてもらおうか」

「いやー 助けて」


『止めろ その娘は嫌がっているじゃないか』


「なんだ、お前は!男娼のくせに偉そうだぞ。借金の取立ての邪魔をするな」

「それともお前が払ってくれるのか?銀貨50枚を」

「ハハハ! 無理だろう尻をホられるのが仕事の奴には」


向井イケメンのお供達はうんざりした顔で茶番劇を眺めている。上流階級に仕えている彼らはこの手のお涙頂戴は日常茶飯事なのだろう。だが、向井イケメンには違っていたらしい。


『この娘は俺が連れて行く。文句があるなら宮殿にきて元老院議員のアントニウスさんに

言ってもらおうか。その時に俺を男娼扱いした弁明もついでに聞く』


元老院議員の名前を聞いて真っ青になったチンピラ達とは違って弾けるような笑顔を見せる少女

イケメンの腕をとって胸を押し付けている。だらしない顔をした奴は満足そうだ。


そして向井イケメンが去っていった後、借金をして立場の弱いはずの中年オヤジが怒りのあまりなのか真っ赤な顔をしてチンピラ達を棒で殴り始めた。


「オジさん、あれどうゆうことなの?」

「リッポ家にとって最悪の事態になったのさ。金持ちをお涙頂戴で騙して金をむしり取る手筈が、娘をタダで持って行かれた形になるからな。おまけに娘は貴族さまに仕えるようになればこんな所には戻ってこないしな。あの若い衆を殴っているのが当主さ。」

「でも家族でしょ?血の繋がりがあるから同じ家に呼ぶとか」

「ああ、普通ならあるかもしれないが、でもあの娘は酒場で働かされていたからな」と言ってオジさんは卑猥な事を意味する手振りをした。


えっと、テンプレ通り『美少女が奴隷市場に売られる前に救出』かと思ったが、全然ちがっているみたい。さらに僕に起こったイベントでは無くてイケメンに起こったイベントというのが何だか腹立たしい。




- * - * - * -


周囲が薄暗くなってきたが借りている部屋に辿りついた。昨日から家賃の値上げで揉めている上の階の住民はまだ払ってないらしく木製の階段が外されているままになっている。

今は順調だが、手持ちのお金が減っていくだけの時には外された階段を見ると明日は我が身かと

ビクビクしている時もあった。


南京錠がかかってないので、ノックをしてから合言葉をいって鍵を開けてもらった。

「マック!」「て・り・や・き!」


「おう、一也おかえり」「一也さん、お帰りなさい」 今日は仲間の中川君と幼馴染の優子は

先に帰ってきていたみたいだ。商売が軌道に乗るまでは一緒に理容業をしていたが、現在は

得意分野の商売をする為の準備期間として別々の仕事をしている。


「今日、向井 翔に会ったよ」「「!!」」途端に二人とも嫌な顔をした。


向井イケメンの傍若無人ぶりは高校に入ってからは大人しくなってきたが 中学のとき一緒だった優子は嫌な目に幾度となく遭ってきた。中学時代、奴の自尊心は「俺に惚れない女子は異常」と断言する位に歪に膨らんでいた。「君なら俺に惚れてもいいよ」というアピールを無視した優子はイジメを受けるキッカケとなったらしい。


「男を見る目が無いネクラなオタ」としてレッテルを貼られ無視される原因になったのだ。


僕が先輩にカツアゲをされている現場に通りかかって助けてくれた縁で仲良くなった中川君は

その現場で見なかった事にしてコソコソと逃げる向井イケメンを目撃していた。

僕を助けてくれた後で奴を詰問した中川君は


『なんで俺が底辺の人間に関わらなければならないんだ。住んでいる世界が違うんだし』

と言い放った言葉に唖然としてしまい二度と関わるまいと誓ったらしい。


そして僕はというと、先生から言い渡される雑用、掃除当番等を押し付けられる立場にいた。


通常なら異性のウケがいい奴は同性の激しい嫉妬、嫌がらせに襲われるはずだが、向井イケメンは意図的にクラス全員の虐める相手を提供する事によって自身に向かう悪意を逸らしていたのだと思う。執拗なまでに僕に雑用を押し付けてきたのもその為だろう。



今日あった出来事を話していると中川君が不意に奇妙な事を言い始めた。

「奴はもう終わりだな。生活魔法と贅沢に慣れきって追い出されたら生きていけないだろうし」


「えっ 何で追い出されるって解るの」


「俺が集めた情報では奴も俺たちと同じように読む事と最低限の言語能力しかないらしい。つまり、この世界では俺たちと同じ無教養で後ろ盾の無い外国人にしか見えない。そんな役立たずがお世話になっている人の家名を使ってやりたい放題。さすがに奴隷頭の堪忍袋の緒も切れただろう。」


「奴隷頭ってそんなに偉いの?」


「そりゃ当たり前だ。一般社員はコキ使って使い捨てるブラック企業でも専務や常務と名のつく役員は大事にしているだろう。それと同じさ」


「ふーん そんなもんなんだ」


「それにこの世界では奴はイケメンじゃなくてホモ扱いだからな。日本では脳筋とかガチムチとか言われて嫌われるレベルの筋肉が最低限ついていることが一般的な美形の条件の一つだし」

と言って中川君は二の腕についた力瘤を見せつけ始めた。


眼付きが鋭く彫りが深い顔立ち、190cmを超える長身、実戦空手により鍛え上げられた体

この世界では一般的な美形の最低条件はクリアしている中川君はモテているらしい。

日本での私服は安っぽいジャージだった為か、田舎によくいるダサいヤンキーに分類されてモテていなかったはずなのに・・・


「ハイハイ あんな奴の行く末なんてどうでもいいから 早くお金を貯めて奴隷を買わないと市場に買い出しにいけないから私の料理の腕は発揮できないわよ」


優子が過激な意見を主張しているように聞こえるが、徹底的な男尊女卑の社会では「女性がお金を持って買い物に行く」ことすらタブーに触れるのだ。家の金は男が管理するのが当然という社会通念らしい。


貴族階級、富裕層では行動的な女性は賞賛されるらしいが、一般庶民がやると「旦那に言えない商売をしている」とか「離縁される寸前、男遊びが酷い」というような噂を流されてしまう。

警察機構すら存在しないこの世界では犯罪がおきれば、自警団という名の私兵達が怪しい噂が多い奴を捕まえてから拷問で自白させてしまう。周囲の住民が全員一致で怪しいと認めると問答無用で犯罪者に仕立てられてしまう。

魔法というファンタジーな手法なら真実を探るのは容易いらしいが、魔道士への相談料は金貨10枚が相場らしい。相談しただけで庶民の年収が吹っ飛ぶ計算だ。


そう「お前らとは違う世界に住んでいる」と主張する元クラスメイトに関わっている場合ではないのだ。病気にならないように栄養豊富な食料を毎日入手して元気に働いて稼ぐ このサイクルを維持するだけでも難しいのだから






- * - * - * -


理容業の仕事をしていると色々な噂が飛び込んでくる。

異世界だろうと日本だろうと噂話はみんな大好きなのだ。


その中に、中川君の予想通りに向井イケメンが元老院議員の屋敷を追い出されたというのがあった。


その後も継続して噂を集めていると色々やらかしているらしく面白い位に集まってきた。


軒先を提供している家にシャバ代を払わないで商売をしようとした為、家主達に総スカンをくらって露天商が出来なくなったとか

ホモみたいな容姿の男が富裕層の女性に声をかけて護衛役の奴隷にボコボコにされたとか

食堂で「虫が入っている」と真顔でいって代金を踏み倒そうとしたとか

買い物の代金にあちこち欠けた貨幣を出しておいて1枚の価値があると言っただの


未だに日本でしか通用しない価値観で行動しているようだ。


ある日、汚れたトゥニカ(普段着)にボサボサの髪で薄汚れた向井イケメンが僕の前に現れた。


『よう斎藤、元老院議員の知り合いが欲しくないか』


「その嘘がバレて借家を追い出されたってのは本当だったんだ」 『!!』


(動揺しているな。困窮しているみたいだし過去の経緯を謝罪させてから雇ってやるかな)


『なんだバレているのか。今まで色々とちょっかい出して悪かったな。俺、金無くてハラ減ってんだ なんか喰わせろや』


「それって助けてもうう人の態度じゃないよね?まずは過去の謝罪が先じゃないかな」


『は?さっき謝ったじゃん。とにかく俺はハラ減ってんの』


その瞬間に僕は理解した。こいつにとって僕たちに対するイジメ、嫌がらせは「悪かったな」の一言で済ませることができる位どうでもいいことなのだと。『底辺の人間は別世界の人間』と本気で信じていて人間扱いすらしていなかったと・・・


怒りで体が震えるているのを自覚したが、必死になって叫びだして殴りかかりたいのを抑えた。

「真摯に謝っていないよね。もういいよ、とりあえず知り合い・・・・・の所に案内するよ」



『ヒュ~ さすがパシリ君 話がわかる』 「ただ、そこでは真摯に謝罪したほうがいいよ」

『謝る 謝る 土下座でも何でもしてやるよ~』

「君の知り合いの娘さんの家だよ」

『? こんなボロ屋ばっかりの所に知り合いなんていないけど まあ、俺に一目惚れしてしまうとは見る目のある娘なんだろうな』


僕は奴を知り合い・・・・のリッポ家に案内してあげた。


当主は自分の娘をタダで持っていった奴の顔を忘れてしまう事はなかったらしい。

怒りの為か真っ赤な顔をして奴を凝視している。

さあ、彼の真摯な謝罪は稼ぎ頭を無くした人に通用するだろうか?

困惑する奴を邸内に引きずりこんだ後、玄関の扉がギィーと不気味な音を立てて閉まっていた。




外見が最重要視される時代、国に生まれてチヤホヤされ続ける容姿を持ち

歪んだ人格で問題を起こしても学校関係者が醜聞を恐れて隠蔽する天運にも恵まれた

現代日本ではチートレベルの存在でも 異世界で生き残ることはできなかった。



                 -完-














復讐の描写はヌルいと感じる方は多いかもしれませんが、筆力不足の為と思ってもらって構いません

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