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夢の続き7

変わらない自分に嫌気がさして、変わろうと望んだ自分がいた。だけどいくら頑張ろうが、努力をしようがすべてが遅すぎた。すべての決意を無駄にするようなぐらいに僕の周りの環境は変えることができず、すべてが地に落ちた。失意にのみ込まれながらまた僕は閉じこもる。だけどそれが僕を変えるきっかけを作ることになったのは皮肉に近いだろう。


繋いだネットの画面に映った一つのゲーム機。これがすべての始まりと言っても過言ではない。僕の人生はここから始まったといってもそれは間違いではない。それぐらいに僕は変わったのだ。といっても変わったのは現実の僕ではなく、仮想の中の僕でしかなかった。いくら仮想の中の僕が変わったと言ってもそれが現実に反映されることはなく、変わることのない日常。相変わらず人の視線に恐怖する毎日。


結局変わったの僕ではなく、電脳世界に作られた仮想の|自分(僕)。でもそれだけでもよかったと僕は思った。現実がもう現実ではなく、仮想が現実として近くなった僕にとってはそれはささいなことと言ってもよかったのだろう。だから








逃げた国家魔術師バロウスを追ったバルビレドが帰ったきたころにはすでに盗賊たちの姿はなくなっていた。取り残されたイリヤとエレノディアの被害がいくことなく盗賊の残党を追い払えたのはリリアスが上手く彼らを刺激せずに戦ったおかげだろう。すでに絶望し逃げ腰になっていたのだから、そこまで煽る必要はなかったのだ。後は少しの恐怖で背中を押せば勝手に逃げ去ってくれる。しかしここでやりすぎてしまったのなら、やけになり死の覚悟をして立ち向かってくる可能性もあった。


やけになった人間ほど危険な存在はいない。彼らは死を恐れてるからこそ抗うのだ。どんな手段をとっても彼らは死にたくはないのだ。


だからこそリリアスは上手くやったのだろう。彼女もすでに限界近いというのに。


「今回は役立たずだったねわたし……」


バロウスの放った魔術で炎上していた馬車もすでに鎮火しており、黒焦げになった木材とかした馬車の亡骸をぼうっと見つめながらエレノディアは呟いた。馬車は燃えてなくなったが運良く馬車に繋がれた馬にまで火の被害はいってなかった。


馬車と馬を繋ぐ手綱が炎によって焼き切れたことによって馬たちは無傷とまではいかないが、多少の怪我を残して生き残っていた。


「イリヤ殿から多少のできごとを聞きはしたがそこまで嘆くことではないとわたしは思うんだが?」


「ううん。今回は完全にわたしが足をひっぱていたよ。イリヤにも迷惑かけたし……」


「そもそもあなたはエルフだ。森の中でこそ真価を発揮できるその身だろう。ここは平野だ。仕方ないといっても過言ではないのではないか?」


仕方ないと言って慰めるリリアスだが、エレノディアの瞳の中には両の足に包帯を巻いたイリヤが映る。仕方ないですますことができてもイリヤの両足はすぐに治ることはないだろう。そもそもエレノディアは力があるにもかかわらず、彼女は使わなかった。自分の正体が知られてしまうことを恐れてだ。


今彼女の身体に残ってる力は限りなく小さいがそれでもたかが国家魔術師に後れをとるほど魔王というものは弱くない。もし周りに誰もいなく、エレノディアただ一人だった場合だったとしたあの場にいた盗賊含めバロウスだろうが、全て灰に返すことぐらいはできたのだ。


にもかかわらず彼女はそれをしなかった。人を殺すことに恐れてるわけではない。すでに彼女は数え切れないほどの人を殺している。だがエレノディアは恐れてしまった。自分魔王であることを知られてその刃を自分に向けられてしまうことを恐れてしまった。


たった半日程度。知り合ってそれぐらいのイリヤとバルに。一日と少し共に過ごしたリリアスに。自身が大量殺戮者の人類最悪の存在ということを知られてしまうことを。“紛れもない現実”であるこの世界で多少なりとも仲良くなってしまったのが仇になってしまった。


「さてよ、馬車は焼けちまったが馬はいる。相棒は足を怪我してるから俺が後ろに乗せてやりたいところだがどうにも俺の武器が重すぎて馬に負担かけちまうからな……」


肩に担いだ巨斧をチラつかせながら困ったようにいうバルビレドだがその表情に落胆したようなものはなく逆に楽しそうである。それに同意するようにイリヤも苦笑し自身の隣に置く大剣に視線を移す。


「僕の武器も重いからバルとの相乗りは無理だね」


「むうそうか……だがイリヤ殿を一人にするわけにはいかないな」


「おうよ。だから嬢ちゃんたちのどちらかと相乗りさせてやってほしいんだが、馬も三頭いるしな」


「いたしかたないか……エレノディアでは少しきつそうだな。ならばわたしがイリヤ殿を後ろに乗せるとしよう」


だからこそのバルビレドの表情だった。恥ずかしそうに困ったように(こうべ)垂れるイリヤを尻目に見ながらニヤニヤと嫌らしく笑うバルビレド。


「いらぬところを触ればすぐに振り落とすとは言わないが、ビハインドに着けば説教が待ってるから気をつける様にイリヤ殿」


苦笑しながら了承するイリヤに不敵な笑みを浮かべるリリアス。さきほどまで殺伐としていた戦場だったというのにこの穏やかな空間。だがそこから離れる様にエレノディアは三人を見つめていた。


「」


そんな彼女の小さな呟きを聞いた者は誰もいない。










馬を走らせて数刻。少しの休憩を挟みながらも日が沈む前にはビハインドに着くことができた。結果的にバルビレドとイリヤの武器商としての大事な商売道具である大量の武具は燃え尽きた廃材となった馬車の中に置いてくることになってしまったが、それもしょうがないと言える。


積み荷として馬車の中に置いて置いたために馬車と一緒に燃え尽きたわけではないが、どれも売るに値しない物にまで落ちてしまったのだから。


「しかし、さすが商業国家としてのことはあるな」


歩く街並みを物珍しそうに見ながらリリアスが言う。もうすぐ日が落ちるというのに今だ街の喧騒は収まらず、街行く人皆開かれた露店に足を止めて見入ってる。商人が集まる国として有名なビハインドならではの光景だと言えよう。どの商人が開いてる露店にもどれもこの地方や国では物珍しいものばかりが置かれてる。


バルビレドに背負われたイリヤがリリアスの呟きに答えるかのように言った。


「ここは大陸中の商人が集まるからね。他国の珍しい食べ物や、便利な魔道具なんて物がよく集まるんだ」


「まあ俺たちみたいな武器商にもありがたい場所でもあるな。珍しい武器を求めて来る旅人も少なくはねえからな」


露店の物を値分みするように見ながらバルビレドが呟き、イリヤがそれに賛同するように頷く。しかしだからと言って必ず売れるわけではない。ただ珍しいだけで売れる物などほんのわずかである。食物なら、食べて気にいれば、さらに飛ぶように売れるが、魔道具や武器は別だ。どれも少なからずは値がはる物であるために、お試しで買うというわけにはいかない。


特に武器というものは自身の身を護る大切なものだ。珍しいだけではなく役に立つことも含めなければ売れることは少ない。


「だがまあ今回は露店は開けねぇな」


「そうだね。持ってきた武器が全部焼けちゃったからね」


「あー親方に怒られちまうな……」


嫌だ嫌だとぶつくさ言いながら頭を掻くバルビレドに苦笑するイリヤ。そうは言っても二人は別段と問題のない顔をしている。


「して二人はこれからどうするのだ?」


露店から離れ、イリヤとバルビレドに問うリリアス。ビハインドまでは同行する予定だったためにリリアスにとっては二人のこれからの予定を聞いておく必要がある。彼らになにも予定がないのならこのまま、自分に同行してもらい、馬車に同乗させてもらったお礼をしたいところがリリアスにはある。


まあそれも彼女が帝国と連絡がとれてからになるのだが。


「あー、そうだな。どうするよ相棒?」


「うん。まあ僕たちにはまだお仕事が残ってるからね、ここでお別れかな」


「むう、そうか……。それならばいたしかたないか」


二人の答えに残念そうに言うリリアスだがまだやることがあるならば仕方のないこと言える。そもそもお礼はしたいところだがいつ帝国と連絡がとれるかわからないこの身なためにいつまでも同行させておくわけにもいかない。


「まあ僕たちはまだ当分ビハインドにはいるから縁があればまた会えるよ」


「そうか。わたしとエレノディアもここの宿に泊まるつもりだが、まだ宿の場所を決めてないからな。うむ、イリヤ殿の言うとおりまた縁があれば会えるか」


そう言い。イリヤ達と別れたのは空が暗くなった後になった。








結局また日が沈んでから宿を探す羽目になったのはリリアスのせいとも言えよう。いくら露店に飾られた物が物珍しいからと言って色々夢中になられて本題を放って置いてはこうもなるだろう。だが今回は幸いにも宿が閉まっているわけではないために宿探しは比較的に楽に終わった。リリアスが持っていた残り少ない路銀を考慮してかなり休めの宿だが、それでも寝る場所があるだけましといえよう


「できれば明日には連絡魔境を借りて連絡をよこしたいところだが、問題はどうやって魔境を借りるかだな」


ビハインドは一つの国として成り立っているためにこの街にはビハインドを納める王が住む城が建っている。他の国と比べればそこそこ小さな城ではあるが、そこはやはり王が住む城であるために警備や城の守りにぬかりなどあるはずがない。王に合うためにも謁見の予定をあらかじめ伝えておく必要もある。


だがまあ今回は謁見ではなく城に置かれてる連絡魔境の貸出のことを伝えたいだけなのだが、それだけでも難しいといえよう。


「まあリアの身分を知らせるものが剣一つしかないっていう状況だしね。少し難しいかもしんない」


「そうだな。正直わたしも剣一つで信じろと言われて信じることは難しい……」


身なりのいい恰好をしているためにどこかの貴族だということは信じてもらえるだろうが、その服も今は傷だらけで着れたものではない。今では目のやり場が困るといったイリヤがローブを買ってくれたためにその服もローブの下で隠れている。


お互いに部屋に二つ並べられたベットに腰掛けながらうーんと頭を唸らせながら考えるがいい案はでてこない。なにも考えずに城へ行こうにもきっと追い返されるだけで終わるのが目に見えた。


「一番いいのは魔境を個人で買うことだが……」


「そうだね。ちらっと魔道具を売ってる露店を覗いたけど破格な値段だったもんね……」


その意味は聞く人が聞けばそれは安かったのかと言う人もいるだろうがここでは違う。彼女たちが見たその値段は恐るべきほど高かったのだ。リリアスが持つ今の手持ちの路銀などまったくもってほど足りないほどに高かったのである。安い宿をとるだけで手一杯のこの状況でどうそれを買えというのか。


「困ったものだ。そもそも本来のわたしの予定としてはすでにビハインド城で王との謁見を済ましていたはずだったのだというのに……」


「もしかしてリアはもともとここに来る予定だったの?」


「ああそうだ。少し視察に来る予定だった。そのこともビハインド王には伝えてある」


それが狂ったのも盗賊もとい、魔国騎士団に襲われたためにだろう。リリアスを護衛していた騎士全てが帰らぬ人となり、リリアスは運良くエレノディアに助けられ今ここにいたるのだから。護衛騎士に持たせていた魔境はすでに物言わぬ塊になり果て、一日一回は通信を帝国にいれる約束も今は守れてない。


心配したリリアスの父、つまり帝国国王が暴れまわる王室がリリアスにとって不安でたまらない。きっと今頃は宰相が胃薬や頭痛薬を飲んでるに違いない。


「お父様が乱心する前に早く連絡をよこさねばならないというのに……」


「うーん。とりあえず明日ダメ元で一回行ってみる?」


「ああそうしようエレノディア」


乱心した実の父親を想像して頭を痛くしたのか、頭に手を置きながら唸るリリアスに苦笑ししながらエレノディアは頷いた。









時間は深夜になりすでにビハインドの街の住民のほとんどは寝静まってるであろう。現に隣のベットで寝ている金髪のどこかいいとこのお嬢様であることが予想されるリリアスは完全に寝いってる。いつも大事そうに腰に掲げられた、戦闘時にも使われるよくある形をした無骨なロングソードもベットの横に立てかけられてある。


完全に無防備な状態だ。ここで敵に襲われれば一瞬にしてリリアスの命は散ってしまうことになるだろう。そもそもなにをどうしてかの理由で追われていたかは知らないが、リリアスは魔国の騎士団に狙われたのだ。寝るときにももう少し警戒心を持ってほしいものだ。


そう頭に思い浮かべながらベットの上に座るエレノディアはリリアスの顔を覗くのを止めた。


「体調は良好……とまでいかないか」


ハッとため息を吐きながら自らの手を持ち上げる。そのまま頭の上まで上げて、エレノディアはぼすっと音をたててベットに背中から倒れ込んだ。


「回復した魔力はだいたいニ割程度……。四百年前の全盛期に比べればかなりの弱体化だね(わたし)?」


まるで自分の中の誰かに語りかけるような物言い。だがそれに答えるものはこの部屋には誰もおらず、なんの返答も得られない。


「やっぱり証拠隠滅だったとはいえ、わたしの最大“魔法”である千の雷を使ったのが悪かったかな?魔力の回復が著しく悪い……」


だがあそこですべて焼き払うかのように闇に返さねば、もし生きてる人物がいたとすればエレノディアとしてかなり危ぶまれる。(ブロア)との会話をどこかに持ち帰られてしまってからでは遅いのだ。下手に魔王であること国に知られるのはまずい。今だ活動してない、なりを潜ませてる魔王達に知られるのはまずい。


だがそれ以上にリリアスに知られてしまうことがエレノディアにとっては恐ろしい。


「相も変わらず現実の(わたし)は臆病者だ」


嫌われるのが怖い。恐れられるのが怖い。離れられるのが怖い。そして……敵対してしまうのが一番恐ろしい。きっと戦えない。


「だから。わたしはリア……。あなたから離れないといけない。でもあと少しだけ……これが終わるまで……」








幾分かの時間が過ぎ、夜の時間は終わりをつげ、日の光が空へと登る。そんな太陽が昇って間もない時間にエレノディアは起床した。


隣のベットで眠るリリアスは今だ熟睡しているようで、まだ当分起きる気配はないようだ。


どうもエレノディアは昔の癖である遅寝早起きがすっかり板についてるためにどんな遅くに、早くにも寝ようとも、こんな太陽が昇ったばかりの時間に目覚めてしまう。


昔はこうしてよく無茶をしたもんだと懐かしみたいところだが、やはり充分な睡眠がとれてないと眠気が全然覚めないようで、ついつい大口を開けて欠伸をしてしまう。


このまま眠気のまどろみに任せて二度寝と行きたいところといきたいが、今日の予定を詳しく練らないといけないので眠気眼を擦りながら身体を起き上がらせ、そのままベットに腰掛けることにした。城に赴くことにエレノディアとして異論はない。だが考えなければならないことはその後だ。


ビハインド王に謁見の約束を取り付けるにしてもそれは今日中にとは難しいだろう。


なにせアポもないのだ。ただ頼み込むだけでは追い返されるのが目に見えてる。今日アポを取りつけることができたとしても、それがいつになるのかもわからない。


やはりそれなりの理由をつける必要があるだろう。しかし問題はここだ。


“それなり”というには兵士も納得し、王も納得できる内容でないといけない。つまり重要性の高さが要である。これを蔑にしてしまえばエレノディア達がビハインド王へと謁見できる可能性が少なからず消えてしまう。


ただ兵士の伝達で済ませられる重要性レベルの内容か、それとも参考人が必要なほどの重要性レベルかである。


だが生憎にもエレノディアにはそんな重要性がある情報を持ち得てない。いや、それは間違いだ。在るには在るのだ。


だがそれは。


(自分の情報を売るってことになるのよね……)


ズンとのしかかる様な思いに溜まらず溜息が出る。


つまりはそう。自分の情報、“魔王”の情報である。国にとってこれほど価値のあるものはないと思われる。


思いだすはリリアスを襲った魔国の騎士団長であるブロア。最後に自分の正体に気付いた彼はけして魔王という存在を知らないわけではなかったのだろう。だからこそ最後のあの少ない情報ヒントでエレノディアの正体を見抜くことができた。


四百年という長い年月の中で魔王とはすっかり御伽話の中のような存在となりつつあるが、やはりまだ知っている者は知っているのだ。


特に人とは違う長寿種などは特にだろう。そして一国の重要部分を預かるものも知っていても可笑しくはない。魔王とはまさしく人災という災害なのだ。


それがたかだか四百年活動していなかったといって、消えたと安心するには早い。実際にエレノディアは“目覚めて”活動しているのだ。


他の魔王も動きだしているに違いない。と、まあ少し脱線しかけてるがそういうことなのである。


魔王という貴重な情報を売れば、王との謁見など簡単であろう。


だがやはり悩みどこである。売るのは自身の情報。売るにしてもばれない程度に、怪しまれない程度に抑えなけばならない。


またそこが難しい。


「ま、でもこれは最終手段ってとこかな」


ともかくは魔王の情報(最終手段)を使わずに王と謁見することが好ましい。


そうするにはやはりリリアスの協力が必要となっていくだろう。元々はビハインド王と謁見の予定があったことを昨日聞いたことから可能性がないことはない。


問題はどうやってリリアスを帝国王女(・・・・)と認めさせるかが鍵だ。








太陽が真上へと登りきった時間。つまり昼ごろになってやっとリリアスは目を覚ました。


「ふぁーあ、すまないどうやらよく眠っていたようだなわたしは。今何時(なんどき)かわかるかエレノディア?」


大きな欠伸をしながら起き上がるリリアスに苦笑し、エレノディアは答えた。


「お昼だよ。少し寝すぎじゃないリア?」


「ふむ。そうか、やはり少し寝すぎた感はあるがこう……疲れがとれきれてない感があってな。わたしを治療したエレノディアとしての意見を少し聞きたいな」


どうやらリリアスの身体の疲れは完全にとれきれてないようだ。だがそれについての答えは簡単だ。素人でもわかる。


そんなリリアスに苦笑と溜息を附属させながらエレノディアは言う。


「わたしの反対意見を振り切っての戦闘行為。そしてまだ回復しきってない魔力を使った反動」


「ふ、ふむ。やはり無茶があったと言うことか?」


「そうね」


「うぐ………」


わかっていて無茶をしたのかというエレノディアの冷たい視線に耐えられるほどリリアスは強くはなかった。


仕方なかったといってもバルビレドへの応援はその実力を見た後から言えば必要はなかった。だが、あの状況で動かないリリアスでもなかったのだ。


知り合ってまだ日が浅いが、エレノディアはリリアスのそういうところを予想ができていたので深く追求はしないが、やはり罰は受けて反省はしてもらいたいものだ。


「わかったわかった。謝るよエレノディア……。わたしが悪かった」


「それでよし」


一国の王女が、友人の前では型なしである。


「して、今日はやはり城へと?」


「うん、そうだね。やっぱりリアの剣を使うのが最善策。でもそこからが大事。いくら家紋が刻まれたそれでも、今のリアを信じてもらうのは少し難しい」


「ううむ……やはりそこが問題点となるか」


見てくれ金髪美少女のリリアス。確かにその顔、髪質、そして作法の心得があるリリアスは完璧に上流階級の人間だ。それは間違えることはない。


だがその服装が全てをダメにしてる。今はローブの下に隠してはいるが、破れに破けたドレスにそれを隠す、見た目質素な安いローブ。


そしてお伴には怪しいエルフ少女一人だ。どこをどうみても貴族には見えない。見えたとしても没落貴族がいいとこだ。


「だからリア。わたしたちはその剣を利用する」


「む?だからそれは難しいとそなたは言ったではないか」


「確かに今のリアを本人とするのは難しい。でもそれ以外なら案外簡単なのよね」


つまりはこうだ。リリアス達は設定上旅人、又は冒険者とする。そして旅の途中で寄った森の中に落ちてたこの剣を拾ったこととする。そしてこの家紋付きのこの剣。落とし人がいるかもしれないかと王に謁見を用いる。


そしてリリアスはその家紋を兵士又は王に見せつければいい。


「リアは昨日言ったよね。今日ビハインド王と視察で謁見する予定だったって」


「確かにそうだが」


「だったらむこうが勝手に勘違いしてくれるわ。来る予定だったものが来なく、そしてその家紋がついた剣を持つ者が城に来たことで」


「なるほど。わたしたちは参考人として王と話す可能性が出てくるわけか」


「そういうことね。後はなんとか話をこじつけて魔境を借りれば成功クリアね」


「だが、そう上手く話が進むのか?」


リリアスの言い分は最もだ。だからこそこの計画の中で注意しなければいけないのは計画外の異常イレギュラーと王宮の者たちに怪しまれること。


失敗すれば盗人へと間違われて職業変更ジョブ・チェンジすることになりかねない。


そうなれば手にお縄を頂戴(逮捕)されるはめになってしまう。だからこそ言葉一つでも考えに考えて発言しないことには怪しまれて即アウトだ。


「だが、それ以外に良い案はわたしに浮かびそうにはないな」


「ま、賭けごともたまには悪くないってね」


「ならば今日は城に行く前にギルドへと赴くか」


「へっ?」


「なんだ?冒険者として赴くならばそれ相応のものも必要ではないか?」


ただ一つのエレノディアの誤算。


「ならば冒険者ギルドに登録しておくべきだろう」


「うわぁー……」


それは冒険者ギルドの存在だったろう。


失念も失念。ここに来てからも、森に籠っていただけだったのでエレノディアは存在を確実に忘れていた。


「行こうかエレノディア」


「ウン、ソウダネー」


「なぜ、そんな片言なのだ?」


エレノディアの心はただ一つ。


(流石に四百年前の情報なんて残ってないよね……?)


不安が過ぎるエレノディアであった。

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