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夢の続き

夢を見た。それはわたしがここに来ることのきっかけの一部になった出来事。血のような紅い夕暮に真っ赤に燃え盛った大地。そこで踊った二人の夢。その一人は紛れもなくわたしだ。もう一人は誰だったか?詳しいことはもう覚えてない。


「早いな……もう一か月にもなるのか」


わたしがここに来て既に一月たった。最初こそ動揺はしたが、今に比べたらかなりましになっているだろう。最初こそあちらの世界が恋しくて仕方なかったと言えるが、今となってはこちらのほうが愛着がわいてきたぐらいにわたしはここに馴染んでしまった。もう戻れないと言われてもわたしは気にもしないのかもしれない。








古びた小屋の扉が開かれる。そこから出てきたのは白髪の少女。今だ幼い顔立ちを残す少女が一人、ぼろぼろで苔だらけの今にも崩れてしまいそうな小屋から出てきた。


朝焼けの光をふんだんに浴び、うぅっと可愛らしい声を上げながら身体を伸ばす。その光景は見てるものを魅了してしまそうなほど幻想的で、だがこの周辺に人の姿はなく。なぜならここは人一人訪れることが稀にしかない森の奥。


「ふあぁぁ……」


呑気に欠伸をし、瞳から零れ出た雫を器用に指で払いのけながら少女は不意に空を見上げた。


「……嫌な感じがする。森がざわついてるってやつかな?」


少女の感覚に同意するように木々は一層ざわめき、風もない無風のこの地帯に枝を揺らした。


「……森を守るのもエルフの務めって?まあここに住まわしてもらってるのは感謝してるんだけど、はぁー……。どうせあれでしょ?人間がやっかい事背負って来ただけでしょ。無視したらいいじゃん無視無視」


まるで森と語るかのように喋る少女。だが木々は答えず、ただ少女はじっと森を見つめるだけ。それだげで何かを悟ったのか少女は諦めたのようにため息を一つ吐き、煩わしそうに木々を見上げたあと森の奥へと一人脚を進めた。


朝焼けの光で銀色に輝く髪の毛からチラリと見えた耳は人のそれとは違い、尖るように伸びていた。


「ほんとエルフ使いが荒いんだから……」


愚痴愚痴と文句のような愚痴を零しながら、少女は森の奥へと消えていった。それに応えるように木々が揺れたのは一瞬のことで、少女も気づかなかった。







逃げてた。迫りくる追っ手から自らの命を守るために数々の犠牲を払ってまでもわたしは逃げた。森の中を必死に駆ける馬の身体に落ちぬよう力いっぱい抱きつきながら……。


ガサガサと草や木々の枝を掻き分けながら駆け抜ける馬に疲労の色が抜けず、今にも脚は倒れてしまいそうで、わたしは心配の色を隠せないでいる。走れど走れど森からは抜けられず、まるで森が意思を持ってわたし達の行く末を邪魔しているようにまで思えた。


だけどきっとそれはわたしの感違いなんだろう。森に意思などがあるわけがなく、ただたんにわたし達はこの深い森の中に迷い込んでしまっただけでそれ以上の意味はないのだと。


「……っ、少し休もう。あなたもわたしも疲れている、特にあなたはわたしと違って走りっぱなしなのだから」


今だ森を駆ける馬の首に優しく手を置いて撫で上げる。ただそれだけで頭のいいこの馬は意味を察したのか、走るのを止めてゆっくりと歩き始める。


「……ずいぶんと深いとこまで来たな」


緑のカーテンで遮られた森の奥地。大きな木々達の枝や葉に遮られ、光など数える程度にしか入ってこられず、日が昇ったばかりのこの時間だというのに今だ夜だど思えてしまえるほど。


「ブルルルッ」


「ああ、ここで一休みしよう」


馬の鳴き声に答えるようにわたしは馬の背から降りる。ざっと土を鳴らす音が脚下から響き、わたしは大地に降り立った。ただそれだけで今まで溜めた疲労が襲ってきたのか視界を揺らすように目眩がし、眠気がわたしを襲う。


「っと、大丈夫だ……心配するな」


本当にこの馬は賢い。目眩にバランスを崩したわたしを支えるように身体をわたしに預け、今の状況を解っているかのようにわたしの眼を伺ってくるのだから。


馬の身体に支えられるように倒れた身体を持ち直し、わたしはしっかりと大地に脚を打ちつける。ここで倒れてられるような状況ではないのだ。


「と言っても、少しは睡眠をとらないとダメか……」


丸一日とは言え、ずっと馬の背の上に跨っていたのだ。走っていた馬同様とはいかないが、わたしにもかなりの疲労が溜まっている。どこかで休憩をとらなければどこかで支障をきたす恐れがあり、それが戦いの際であれば、かなり最悪になってしまう。


「わたしには生きる義務がある。死ぬわけにはいかない……」


それがわたしを助けるために囮となっていった彼らを報いられることの一つ。


生きて国に戻らねば、王女というこの身体にはそれだけの義務と価値と使命がある。たとえ土と泥と血で汚れた身体であろうとな……。








大木に身体を預けるようにもたれ、その場に座る。フカフカのベットなどはこの際気にはしてられない。例え寝床が堅い木の幹だろうが生きてられるなら儲けものである。


腰に掲げていた無骨なロングソードを自身どうよう大木に預けるように置いてふと考える。寝ている間の見張りはどうしようかと。今現在この場にいるのはわたしと馬である一人と一匹だけで、奥深くとはいえここは森の中。どんな外敵がいるかは定かではないだろう。そんな中一人無防備で寝るなど命知らずにもほどがありすぎる。


閉じかけていた瞼を開け、起き上がろうとするわたしに馬はそれを(たしな)めるように頭をずいっと伸ばす。


「あなたが見張りをすると言うのか?」


もし馬である彼が人間の言葉を喋れるならそう答えただろうと思えるほどに馬は優しげな瞳を向けて、ブルルと一声鳴いた。


「あなたも疲れているというのに……」


肉体的疲労で言えば、一晩中走り続けだった彼のほうが大きいというのに。だが撤回する気はないというのか彼はその場から動こうとはしない。ここは彼の心気に甘えて少し眠るとしよう。森の奥地まで来たのだ、追っ手もすぐにはわたし達を見つけることはできまい。起きた後に少し彼の休憩を挟んで出発するとしよう。








さあっーと心地よい風が頬を撫でる。風に呼応すように木々の枝が揺れ、気持ちのよい子守唄のように聞こえた。薄っすらと開けた瞼から馬とじゃれあう様に遊ぶ少女がその瞳に映った。


甘えるように頭を擦り付ける彼と、それに応えるように彼の顔を撫でる少女。緑のカーテンから零れ出た木漏れ日が彼らを照らすことで、それが酷く幻想的に見えた。血のような真っ赤な瞳と白髪の少女。


(……背はわたしより少し低いぐらいだろうか?)


起きたばかりで働かない思考がそう考えだす。木漏れ日に照らされて銀色に輝く白髪を揺らし、ふと少女はこちらに視線を向けた。


所々薄く汚れた白いマントを風にはためかせながら、少女は口を動かした。


「感謝するといいよ」


ただその一言にわたしは意識を強制的に戻らされざるをえない。なぜ“子供”がこんな場所に、と。そして少女の言葉は続く。


「本当なら叩き起こしてよかったんだけど、この子がどうしてもって言うから起きるのを待っていたんだから、さ」


「……あなたは」


「ほんと感謝してほしいね。本来なら獣たちの餌にでもしてよかったんだから」


ぱさりと顔にかかった白髪を払いのけるように手で払う少女。舞い上がった白髪とそして垣間見える少女の“耳”。それだけでわたしは理解した。理解せざるをえない。


少女が“エルフ”だということを。


「……エルフ」


「ん?あー今ので見えちゃったか。ま、でもなんでわたしがこんな場所にいるかは理解できたでしょ」


説明するのってめんどくさいんだと付け足す少女を見つめながらわたしは驚愕を隠しきれない。なぜこんな場所にエルフがいるのだと。人里近いとは言えないこの森にエルフがいないとは言い切れないものだが、それでもエルフというものは集落を作って生活するものだ。


人里から離れ、森の奥地でひっそりと生活するのが彼らの習性でもあるが、別に交流していないわけではないのでエルフがいる集落がある森はしっかりとこの頭の中に叩きこんである。


だが、この森は“違う”。エルフがいるなど聞いたことなどない。


「わたしがここにいるのがそれほど不思議?実際そうだろうね、いわばわたしははぐれエルフと言えばいいのかな?集落に身を置かず、一人ひっそりと生きている。それがわたしってわけ」


「……そんなエルフが」


「いるんだよ。実際にあなたの目の前にその一人がいるのだから」


確かにないとは言い切れなかった。少女の言うことが真実ならば実例が目の前に、わたしの前に存在しているのだから。だが、しかし……


「そのはぐれエルフとやらがわたしに何の用だ……」


起きて覚醒したての身体を起こし、すぐにでも立てるように足腰に力を入れ、隣に立てかけていたロングソードへと手を伸ばす。もちろんいつでも抜けるように鞘から少し刀身を出しておく。


「んー、ぶっちゃけて言うとね。森の災いの種を取り除きに来たって言えばいいのかな?」


「災いの種?」


「そう、あなたの連れでしょう。彼ら森を破壊しながら必死に探しているみたいだけど?はっきり言って迷惑……。せっかく一人ゆっくり生活しているこの森を壊されるの。……森もわたしに助けを求めてくるし」


ジロリと睨むように視線を向けてくる少女にわたしは申し訳なくなるが、正直わたしの言い分によれば仕方がないとしか言いようがない。彼女がここに住んでるのなんて知らなかったし、それにわたしは彼らに捕まるわけにもいかない。


「それで?」


「だから彼らに撤退してもらうために元凶を取り除こうかなって、でもね」


充分だった。その言葉だけでわたしが刃を向けるのに。


「っはあ!」


飛び上がるように大地を蹴り、鞘から少し出した刀身を惜しみなく抜き放つ。一閃。少女の身体を断つように放ったその一撃は轟っと大気を断ちながらもしかし、少女の身に届くこともなかった。


「っく!?」


マントの内側から出た。細い子供のような腕。だがその腕に装備された傷だらけながらも今だ白銀の輝きを忘れることのない少女には似合わないと言わざるをえない篭手(ガントレット)


大きな金属音を打ち鳴らし刃は少女の手の甲で止まる。怖じけもせず、ただ少女はその刃を止めた。


「せっかちだねぇー」


「……せっかちで結構だ。わたしはここで死ぬわけにはいかない、あなたを斬ってでもわたしは生きてここを出る!」


例え幼き少女だろうとわたしの敵というならば斬って捨てるのみ。いや彼女はエルフだったな。その見た目通りの年齢とまではいかないのかもしれない。


ギンと刃が少女の手から弾かれ、同時にわたしは彼女ら距離をとるために軽く大地を蹴って後ろに飛ぶ。わずわらしそうに少女は顔を歪めて、一つ溜息を吐いた。


「あなたは勘違いをしてる」


「なにが間違っていると言うのだ。あなたはわたしの敵で、わたしを排除するためにこの場にいるのだろう?」


彼女自身がそう言ったのではないか。災厄の種を取り除きに来たっと。すなわち森を破壊して周る追っ手の奴等を追い出す材料にわたしを差し出すのだろう。しかし、それはいただけない。何度も言うが、わたしは捕まるわけにはいかない。ここで追っ手に捕まれば、わたしのために命を張った彼等にどう誠意を示せばいいのだ。


「そこからまず間違ってるよ」


呆れたように溜息を吐く彼女を尻目に見ながらわたしは剣を握る手に力を入れる。今度はあの細い腕ごと叩き切る具合で、最初のように油断につけ込んだ斬り捨てるような軽い一撃ではない。一撃必殺をその身に叩き込ませてもらう。


「まず前提から。わたしはあたなを彼等に渡すつもりもないし、殺すつもりもない」


「世迷い言を」


「わたしは最初に言ったよね?感謝するといいよって。よく考えてみるといいよ。寝ているあなたを運ぶことだってわたしにはできたんだし、殺すことも同様。親切丁寧に目の前で宣言するわけないでしょう?」


「う…ううむ……それは」


至極当たり前のことだ。だが、その言葉が罠だと確証はないわけで、彼女がわたしを騙すために言ってる可能性もないわけではない、が。


「わかった。信じよう」


「だからねって、ええ!!?」


わたしの言葉に驚く少女。わたしを説得するために数々の言葉を用意していたのだろうが、呆気なくわたしが彼女を信じたためにそれは無駄になった。


しかし侵害だ。なぜこうも驚かられねばならんのだ?確かに勘違いして襲ったが、わたしは別に彼女を殺したいわけではない。殺さずにすむならそうしたい。誰が好き(この)んで、幼い少女を殺したいと思うのだ。


「……わたしが言うのもあれだけど、本当に信じるの?」


「なにを言う。そもそもあなたが言うように機会はあったはずだ。だがわたしはこうして五体満足、無事でいるわけであなたが嘘を言ってるわけではないことが証明された」


それにエルフは潔白症だ。嘘や騙しごとは好きではない。いくら住みかのためだとはいえ、嫌なことを自らすることはないだろう。あと……。



なぜか彼女が嘘をついてるわけではないと確信できた。直感に近い考え方だが、言うだろ?女の勘はよく当たる。









「して、これからどうするのだ?」


金髪の女性が白髪の少女に問う。泥や砂で多少汚れはしているが、いまだ輝きを失わない彼女の髪はそれだけで彼女が身分の高い者なのだと伺える。


それ以外にも着ている服はところどころ血や泥で汚れているとはいえ高そうなドレスだ。そこまで派手な作りではないとはいえ、使われた生地から高級感が溢れている。


そんな彼女がなぜここに、と白髪の少女は疑問に思った。上流階級の者で、しかも乗馬に向いてないドレスでこんな森の奥深くまで。だがそれはすでにしれている。“彼”からだいたいの理由は教えてもらい。さらにそれに拍車するように追っ手という彼女を追う存在がこの森にはいるのだ。


答えはもうわかりきっていた。


「(そんな性質(たち)じゃないんだけどね。たまには人助けもいいかな?)決まってるよ」


白髪の少女はその血のような真っ赤な赤眼を傍目かせながら良い笑顔で彼女に答えた。


「まずは森を破壊するバカたちを懲らしめないとね?」


知らず知らず。その笑顔に金髪の彼女も顔を引き攣らせ、ぎこちない返答を返すことしかできなかった。










森の大地を強靭な四つの脚が踏みしめていく。どこでまでも駆けていくようなスピードでその四本の脚は進む。


大地を駆ける馬に跨りながら金髪の女性は白髪の少女とした先ほどの会話を思い出していた。


『まずは森を破壊して動き周るバカ達を外に誘導しないとね』


彼女が出てくる要因となったのは森が破壊されたことからだ。彼らを追い払うにしても森の中で戦えば、森に被害がいく。それをよしと少女がいうわけもなく、まずは追っ手の連中を森から出すことから始まった。


『申し訳ないけどあなたには囮になってもらうよ?わたしが彼らの下へ行くよりそれが一番効率がいいもの』


確かに少女の言葉は理に適ってた。追っ手はこの馬に跨って森を駆ける女性を追っ手この森に辿りついた。そして彼女を追い詰めるかのように森を破壊して、今も尚この森の中を進んでいる。白髪の少女が彼らの前に出たところで、彼らがそれを追うわけがないわけではないが、一に大事なのは|彼女(白髪の少女)ではなく、|彼女(金髪の女性)なのだ。


『安全を保障するとはいかないけど、最短ルートでの森の出口は教える』


そう言われて今なわけだが、森への出口は今だ教わっていない。どうやって誘導するつもりなのかのは彼女の定かではないが白髪の少女は自身をもってそう言ったのだ。信じるしかないのだろう。


「……見えてきたな」


白髪の少女が言った通り。彼女は少女が示した方向にこれまで迷いなく馬を走らせていた。森の中間地点。少し開けた広場のような大人数での休憩や野営には最適な空間。そこに追っ手はいた。


「ここからだな。……ミスは許されない」


一度彼らの前に姿を現して充分に煽ってから、着かず離れずの距離を保って逃げなければいかない。今自分は弱っているのだとアピールすることも忘れてはいけない。弱った獲物を追い詰めない狩人はいないのだから。


「だが皮肉なことだ」


狩人は彼らではなく。白髪の少女と金髪の女性だということに今だ気付かない。彼らはまず知らないのだから。







野営のためのテントが数個に、見張りが4人。捕獲対象である帝国王女の身柄を追う内に彼らはこの森の中へと迷い込んだ。近くにある町や村からもよく知られていないこの森だが、王女を逃すわけも行かず、彼らはここまで追っ手来た。この森に帝国王女がいることは確かで、馬の蹄の跡もこの森へと続いていた。だが一向に見つかる気配がないこの状況に煮えを切らし、この森のどこかに潜んでいるだろう王女を炙りだすために森を破壊しだしたのはつい数刻前のことだ。


この任務に失敗は許されず、失敗はすなわち死をどころかたちまちそれ以上に厄介なものを運んでくる。それは戦争という災害だ。


人が起こす最悪な災害。


ピクリと見張りの一人が反応した。だんだんと近付く蹄の音に気がついたのだ。そして彼にも彼女にもその姿がお互いに見えた。


響く怒声。同時に一人の女性と一匹の馬が広場に脚を踏み入れる。


キンっと軽い金属音を鳴らして、女性は腰に差したロングソードを抜き、彼らを見据えた。








ここからが本番だった。白髪の少女は緊張したその身を震わせながら彼らを見ていた。その瞳に映るは一人の金髪の女性とそれを囲むようにいる男たち。どれも軽装だが立派な剣を腰に掲げ、薄くも分厚くもないプレートアーマをその身に纏わせている。


鎧の肩部分には少女も知る一つの紋章。剣の鞘にもその紋章は刻まれている。二匹の蛇が絡まるように螺旋を描くその紋章。まさしく三大国家が一つ魔国を示す紋章。彼らは魔国に属する騎士なのは一目瞭然だった。


「……これって一国に喧嘩を売ってると変わらないかな?」


握った手のひらからは手汗が滴る。それだけでこの少女がどれだけ緊張しているのかがわかるだろう。だが相手が国と言ったところで少女の選択肢は変わらない。後悔したとこで遅いのだ。彼らが魔国だということはすでに知れていた。それでも少女は彼女を助けるという選択肢を選んだ。


「……わかってる。そんな性質(たち)じゃないことなんて」


少しぐらい夢を見たっていいでしょっと誰にでも話すわけでもなく。少女はただそう呟いた。









「まさかあなた側から来ていただけるとは思いませんでしたよリリアス帝国王女」


金髪の女性。リリアスを囲む中、一人彼女に語りかける青年。彼はこの部隊の隊長であり、リリアスの護衛達を数多く葬った一人。今だ二十を少し超えた年齢で一つの部隊を預かるとこから、彼は優秀な部類なのだろう。


「何を言っているのか知らんがわたしは貴様らに捕まりに来たわけではないぞ」


「ほほう?しかしこの状況からどう逃げるというのですか。すでに退路は断たれ、あとは僕の号令一つであなたは無様に呆気なく捕まるだけですよ?」


「面白いことを言うな貴様。貴様達は今だ誰の相手をしているかわかってないようだ?わたしは帝国王女……王の中で唯一武王と呼ばれた彼の娘だ!」


リリアスから真っ赤なオーラが立ち上る。身体を伝い、剣を伝い、その炎のような赤のオーラは近付くもの許さぬように彼女の周りを囲む。


「たかが一介の騎士ごときに後れをとるわたしではないのだよ!」


ドンとまるで爆発したかのように足音が響き、今まで脚を止めていたリリアスを乗せる馬が動く。急なその動きに誰も反応することができず、馬は騎士達の間を上手く擦り抜けて駆けていった。


「……また逃げるのですか。なにか策があるのかもしれませんがたかが一介の王女ごときに破れる騎士ではないのでね。狩らせてもらいますよその身……多少傷を付けても問題はないと上からは言われているんですよっ!」

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