プロローグ
その日は空が燃えてるように見えた。赤い赤い夕焼けに連動するように大地は燃え盛り、足元には瓦礫とたくさんの人間だったもの。真っ赤な水溜りの中で俺はただ一人目の前に息絶え絶えで相対している騎士を目の前にただ狂ったように笑みを向けるだけ。
「……流石としか言いようのない、な。これが日本一の力というものか」
構えた無骨な剣を息を吸うのと連動させながゆっくりと上下させる騎士。俺と違って高い背丈に、真黒の漆黒の鎧を身に纏った彼ですら、俺には及ばない。それは単純なレベル差からくるものでもあり、俺との実力差からくるものでもある。
本来魔法使いである俺が前衛もなしに前衛職でもある剣士の上位職の騎士なんかと相対しようものなら、確実に殺られるのは俺であって彼ではない。完璧な後衛職である魔法使いでは騎士相手に魔法の詠唱すらしてる暇など与えてくれないとか、他にも色々と理由が上げられるが、そのどれもが俺には当てはまらない。
「しかし、まさかこの国家戦争で魔法使い一人相手を相対して負けるなんてな……。前代未聞だ」
チャキっと軽く金属音が響いた。息を完全に整えた彼が剣をしっかりと構えたのだ。数千人を軽く虐殺すように葬った俺相手に彼はたった一人で戦うようだ。っと言っても彼の味方は誰ひとりともこの空間にいないのだからそれは至極当たり前の行為。
これは戦争だ。どちらかが殲滅されるまで終わりはしないのだから。
「構えるといい破滅の魔女よ。流石に俺一人で君を倒すことはできないが、油断しているその身……もしくは刃が通るかもしれんぞ?」
その言葉に俺はさらに笑みを深くした。
◇
VRシステム。それの導入と同時に現代に現れた新たなジャンルのゲーム。それがVRMMORPG。
電脳空間に確立させた仮想空間にヘットギアという特殊な機械を頭に被ることで、意識を電子の世界へと同調させる。
今ではそのジャンルには様々なものがあるが、やはり一番人気なのはアースマジック・オンラインという単純にいうと剣と魔法の世界が確立されたゲームだ。誰だって昔は魔法が使いたい、物語の英雄のような存在になりたいと思ったことはあるはずだ。その夢を叶えるのがこのゲームである。
このゲームには大小様々な国々が10以上あり、初期設定の時にどの国の出身にするかによって始まり方が様々なパターンが用いられる。まるで一つの人生のような。
各国々の主要都市や町にはギルドいう施設が設けられ、このギルドには初期設定で必ず登録さすことになっている。
冒険者ギルド、ハンターギルド、商業ギルドの三つに別れ、ギルドに関してはいつでも所属を変えれる。
キャラメイクに関してはプレイヤーに全権が得られる。ほとんどのゲームはネカマ防止など、本来の性別を変えてプレイヤーをからかう輩のために性別に関しては登録された情報を読み取ってキャラメイクの段階から、本来の性別で現れるが、このゲームが自由度が高いのか、それともまた別の理由か……。性別から身長、髪の毛、声までとありとあらゆるとこまで設定が可能だ。女性キャラに関しては胸のでかさも変えれる。全国の胸の小さな女性に関しては嬉しいことだろう。
そしてこのゲーム一番の醍醐味。国家戦争……。初期設定で選択した国を起点に他の国へと戦争がしかけることができ、だが戦争を行うには同国を起点とするプレイヤーの半数以上の賛成意見が必要とされる。
◇
真っ赤な空の下、紅い大地の上。まるで悲鳴を上げるかのように二つの金属音が鳴り響く。
「バトルメイジ……なんとやっかいだな。魔法使い職であるいえの固定砲台という役目を無視して、移動砲台にさらには近接戦闘もこなす」
ギャリイっと金属を滑らすように、俺は彼の剣を受け流しながら彼の言葉を聞く。両手に装備したガントレットはこれまでの彼の剣戟によってかなりのガタがきている。どうせ一撃も貰わないどろうと安めのを買ったのが裏目に出たようだ。
「そしてその異常な魔力のステータス。本来ならさほど筋力値のないエルフだというのに俺の剣戟に対応するなどありえることではない」
一合、二合と薙ぎ払われる剣を受け流しながら彼の言動を待つ。彼はどうやら俺の秘密に気がついたようだ。
「魔力強化……その以上な魔力を使ってステータスを底上げしているというわけか」
「……フレイムボム」
ギンと高鳴る金属音と同時に小さな爆発音が響く、彼の剣が拳に触れたとこで俺が発動させた火属性に連なる魔法。威力は下位魔法の中でも大きいほうだが、所詮は下位。ただ小規模な爆発を起こすだけの魔法。
だが使い方によってはその力は跳ね上がる。爆発で勢い良く弾かれた剣。引っ張られるように彼の大勢も崩れ、見事にその胴体が晒される。
「あまりべらべらと喋ることではないと思うよ?そうやって醜態を晒されたくなかったらね」
俺の言葉を鍵に世界は光に包まれた。
最後に彼が見たのは俺の背後に展開された数々の魔法陣の群れだっただろう。