第7話 宿屋の看板娘
なんかいつも通りランキング巡回して新しい小説を発掘しようとしたらこの小説が日間で20位くらいになっててちょっとちびった。
いろんな人が見てくれているようで凄く嬉しいです。
「レン、どうだった?」
やはり帰ってくるのが早すぎたようで、レンが戻ってきたのは俺が待ち始めて三十分程経ってからだった。
「すまない。待たせたかい?」
「いや、構わないから早く宿に向かおうか」
「そうだね。こっちだよ」
そう言ってレンはすたすたと前を歩いていってしまった。うん、別に気にしてないけどもう少し俺を敬ってもいいと思うんだ。しかしこんなことを考えていても仕方が無いと頭を振り、少し肩を落としながらレンの背中を追った。
「ここだよ」
案内された先には古くはあるものの、しっかりとした造りで建てられた一軒の宿屋があった。外観は潮風に当てられたのか多少傷んではいるが港町の宿としてはそれもそれでどこか味があるように感じられたし、屋根の色が鮮やかな赤色というのもインパクトがあって分かりやすい。
「うん、じゃあ入ろうか」
目で先に入るように促してくるので、それに従って先に入る。中は外とはガラリと変わり、皹どころか汚れ一つ無い白い壁に小さいがこの空間にあった雰囲気のカウンター。階段はシンプルだが磨いてあるのか部屋の上部に付けられた少し大きめの窓から入る光が反射して清潔感を感じさせる。前は外泊などほとんどしたことは無く、あっても学校の行事くらいだったがそこで泊まったどの宿よりも高級な感じがした。まさかとは思うがこのレベルがこの世界の普通なのだろうか?
「どうかされましたか?」
入り口を入ってすぐに立ち止まった俺達を不審に思ったのか、カウンターの中にいた四十歳位の身形のしっかりした男性が話しかけてきた。この宿屋の主人だろうか?身形を見るに結構儲けてるんだろうなと思いながら彼の質問に答える。不審者で泊められないなんて言われたら困るし。まあ流石に見た目貴族の人間を不審者扱いはしないと思うが。
「いえ、センスの良い内装に少し惚けてしまいました。二人なんですが泊まれますか?」
「それはありがとうございます。この内装は先代、私の父が拘ったものでしてね。なるべく壊さないようにしているんです。そのお蔭で外装に手が回らないんですがね。と世間話は置いといておきましょう。メルナ、お客様を案内して差し上げて」
「はい!」
主人がそう言うと高く快活な声と共にカウンターの奥から一人の少女が現れた。おそらくメルナという名前は彼女のものなんだろうが大丈夫なのだろうか?メルナちゃん、明らかに五歳くらいなんですが?
「お客様!お荷物をお持ちします!」
しかし本人はやる気満々のようで、小さく細い腕を両方差し出してくる。言葉通り荷物を渡して欲しいんだろうが生憎手荷物など無いのだがどうしたものか。
「レン、先に部屋に行っていてくれ。俺は主人と話したいことがある」
「そうかい、なら先に行くよ。メルナちゃん案内してくれるかい?」
「うん!こっちです!」
子供が好きなのか知らないがレンもニコニコしながらメルナちゃんと手をつないで歩いていった。階段を上っているのを見ると部屋は二階のようだ。
「それで、話とは何ですか?」
「どこで俺が貴族じゃないと気付きました?えーと……」
「ああ、申し遅れました。この宿屋『潮風亭』の亭主をしている『ダン・カグリア』と申します。どうぞ御贔屓にお願いします」
ここはどうやら潮風亭というらしい。それは置いといてダンさんはおそらく気付いていたと思う。貴族の機嫌を損ねたくなくて平民は諂ってるようだからあんな小さい子に荷物持ちさせるとか気がふれているとしか思えない。
「それは従者の方と並んで入ってきた時点で大体。あとは長年の勘ですかね?私も七つの頃から手伝わされていましたし人を見る目はあると自負してますから」
別に貴族らしく振舞ってるつもりは無いが見る人から見れば一目で分かるっていうのが知れただけでも儲けだな。
「そうですか。勉強になりましたよ。それで部屋はどこになりますか?」
「貴族ではないのにそのような上等な服を着ているあなたに興味が沸いたのですが、あまり詮索するものではありませんね。部屋は二階に上がって右手にある部屋です。どうぞごゆっくり。ああ、そうでした食事は何時に食べたいか言って頂ければこちらで合わせますので」
「わかりました。とりあえず銀貨10枚払っておきますね。足りなくなったら言って下さい」
何日滞在するか分からないので10枚銀貨を渡した。これで一週間分位はあるはずだし少しゆっくりできるだろうなどと考えながら、俺はもう一度言われたごゆっくりを背中で聞きながら言われた部屋に向かった。
「何をやってるんだお前は……」
部屋に入って開口一番、俺の口から出たのは溜め息と呆れを含んだ言葉だった。
「何って、ねぇ?」
「ねー!」
ねぇ?じゃないだろ。バツが悪そうに苦笑しながら言うレンと、元気に続くメルナちゃんに少し頭が痛くなり、こめかみを押さえながら改めて部屋の惨状を見る。シーツはぐちゃぐちゃで枕は俺の足元だし埃は舞い放題だし……。ダンさんと話した限りでは凄く丁寧な印象だったから部屋の掃除からベッドメイキングまで完璧にしてあったと思うんだ。それなのにこの惨状はどういうことだ?なあ、レン?
「レン、言いたいことがある。ちょっと来い」
小さい頃から人の家では良い子にしなさいと言われて育てられた俺はこういうのは我慢できなかったりする。だから少し説教だ。
「そうそうお客様。まだお名前をお聞きしていませんでした……ね」
宿屋なので宿泊者名簿みたいなものが当然あるんだろう。名前を言ってなかったのでダンさんがわざわざ聞きに来てくれたようだが部屋の惨状を見て絶句した。そして申し訳なさそうにこっちを見たが俺の目を見て言いたいことが分かったのだろう、一度頷きメルナちゃんを見た。ちなみに俺もダンさんの言いたいことがなぜか分かった。
「レン」「メルナ」
「「こっちに来て正座しなさい」」
レンは真っ青になりながら震え、メルナちゃんはもう既に泣きが入っている状態でそれぞれ目の前に来た。
「お客様、ではまた後ほど伺います。娘が申し訳ございませんでした」
「いえ、こちらこそ。まだ小さいのですから余り叱らないであげてください」
俺の言葉を聞いたダンさんはもう一度頭を下げると部屋を出ていった。廊下でメルナちゃんが「叩くの!?お尻叩くの!?いやー!」と叫んでいたのでおそらく良くやらかすことでいつもの罰が尻叩きなんだろうと思いながらとりあえず合掌しといた。
「さて、俺の言いたいことは分かるか?」
と聞いてみたものの、さっきからレンの様子がおかしい。身体を小刻みに震わせながら肩を抱いて俯いている。いつもの様子なら「悪かったよ」なんて軽口を叩いているからだ。一体どうしたんだ?そう思っても話が耳に入っていないようだし落ち着いてから話すか。そうだな、そうしよう。なら一緒にいてもどうすればいいか分からないししばらく一人にしてやったほうが良いかもな。そんな結論に達し、部屋を出ようとすると服の裾をレンに掴まれた。
今回は特に話も進まずダラダラしてしまいました。
次はレンの心情というか何と言うか今の不安定な状態についてメルナちゃんと暴走した辺りから書きます。