第4話 剣の無い女
特に書くことが無いんで本編をどうぞ。
牢屋の中には様々な容貌をしたモノ達が居た。俺と同じ人間や、先ほど見たエルフ族どうやら知能が凄く高く研究者などの多くはこのエルフ族らしい。他には人間に角の生えたような容貌の有角人種、角の数や場所は違ったりするが有角人種と一まとめだそうだ。普通の人間と比べると力が強い程度で特に人間と大差ないらしい。後は様々な動物の特徴を持ち、人間より遥かに優れた身体能力を持つ獣人族など、この世界には本当に多種多様なモノ達がいるようで、この他にもまだまだいろんな種族がいるらしい。そして―――。
「あの牢には何がいるんですか?」
俺の目の先にあるのは周りにある石造りの牢屋と比べると格段に頑丈そうな鉄でできた牢屋。興味を抱いた俺は、中にいるモノについて男に尋ねた。
「あそこには『剣腕族』の女が入っています」
剣腕族?先の説明には出てこなかったから今まで見た石造りの牢にはいなかったんだろう。
「剣腕族、というのは?」
「剣腕族は読んで字のごとく剣の腕を持つ一族のことでさ。その剣技もさることながら、恐るべきはその身体能力と剣腕の頑丈さですわ。鉄なんかとは比べ物にならないくらい硬い材質でできているらしく、一族の者でしかその剣を折ることはできないとかで。ここに入ってる女はどうやら異端とか言われて一族に剣を折られた挙句、村を追放されたそうで。」
「それで捕まったと?でもその剣腕族は身体能力が凄いんでは?」
「へえ、それなんですがどうやら奴等は剣が折れると本来の力を出せないようで、今じゃ人間と変わりありやせんよ」
どうやら剣腕族というのは某愛と勇気が友達なヒーローの顔が濡れると力が出ないのと同じで、剣が折れると力が出ないらしい。
でもそれなら獣人族とかのが危険なんじゃないのか?主に脱獄的な意味で。
「なら獣人族を鉄の牢に入れたほうがいいんじゃないですか?というか全部鉄の檻に変えればいいのでは?」
「それができればいいんですが。ここ十年位で製鉄技術は発達してますがまだまだ鉄はそれなりに高くてこっちに回って来やしないんですよ。この辺りに鉱山が少ないのもありやすが……」
ポリポリと恥ずかしそうに頬を掻きながらいう男に、この世界の世知辛さを垣間見た気がするがいい情報を聞いた。どうやらこの世界は製鉄が多少の発達している様だが、鉄はそれなりに高いらしい。口振りからしてある所にはある様だが、それもおそらく軍隊とかだろう。要するにタダで鉄を生み出せる俺はこれで一儲けできるかもしれないってことだ。
「それでナナシの旦那。何か買っていきますかい?」
先ほど少し世間話をしたところではどうやら魔物というおそらくモンスター的なモノが出てくるようなので出来れば獣人みたいな強い仲間が欲しいところではあるが、残念なことに金が無い。奴隷を買うということに少し罪悪感というかなんというか言い知れない気持ちにはなるが、自身の命と天秤に掛ければどちらに傾くかなどいうまでも無い。しかしもう一度言うが俺には先立つものが無いのだ。
「悪いんですが今持ち合わせが全く無いんですよ」
「でも旦那が懐に入れてるのは銭袋ではないので?」
男は俺の右胸辺りを指差して言ってくるが生憎これは水筒である。いくら貴金属が貴重といってもこんなに小さな水筒一つで人一人買おうなどとは甚だおかしい話だ。
「これは水筒なんですよ。旅の水を入れて持ち歩いているんです。一応銀で出来てはいますが」
俺はスーツの内ポケットから水筒を取り出し男に見せた。すると男の目が変わった。
「銀!?そんなしっかりとした形の物は見たことがねえ。しかも入っているのは綺麗な水で?」
確かに曲線は多いがそんなに難しい形ではないはずなんだが……。
「そんなに珍しいですか?あと中の水は綺麗ですよ?」
キャップを空けて中の水を少し地面に垂らす。
「あぁ!?もったいねえ!綺麗な水は結構貴重なんですよ!」
どうやら水のほうも貴重らしい。
「先の戦争でこの辺りの湖が片っ端から汚れちまいましてね。綺麗な水はそれはそれは重宝されてるんでさ。あとはその水筒ですが他のは魔物や家畜の胃袋とかを洗って中に水を入れて歩いてます。昔はもっと貴金属があったようなんですが最近は戦争が多いせいで平民のところまで貴金属類どころか鉄製品ですら少ないのが現状でさ」
「そんな訳で旦那、その水と水筒を譲ってもらいたいんですが、奴隷一人でどうでしょう?」
「こんな水筒一つで一人ですか?」
「へえ、さっきも言ったように銀は当然で鉄ですらそれなりに貴重なんでさ。それ程の銀を使ったものなら売る所で売れば銀貨20枚はくだらねえ」
「それなら腕っ節の強いヒトを一人。種族は問いませんのでお願いします」
「了解でさ!ちょっと待っていてくだせえ」
銀貨20枚がどれ程の価値かは分からないが奴隷一人の最低価格がそれくらいなのだろうか?まあ俺からすれば願ったり叶ったりな提案であるので、断るなんてありえないがそれだと何か悪いので男がいない今のうちに同じような水筒を三つほど創っておくことにする。
十分ほど経って男は帰ってきた。なにやら泣きそうな顔でテンションが凄く低いが……。
「旦那、申し訳ねえ。獣人はみんな売約済みで有角人種はガキしかいなかったんだ。あとはこいつくらいしか……」
そう言って男が連れてきたのは右腕に包帯を巻いた女だった。年は同じくらいだろうか、顔立ちはキリッとしていて綺麗だが目は少しつり目でどこか戦う女性といった空気を出している。身長は女性にしては高く180cm近くある俺より少し低いぐらいなので170cm位だろうか、体つきは凄く女性らしく出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる感じだ。綺麗だったであろう銀灰色の髪はぼさぼさだが肩辺りまで伸びている。服装はただ体に布を巻きつけたようなボロボロの物で、彼女が奴隷だったというのが見てとれる。
「彼女は?」
「こいつがさっき言ってた剣腕族の女でさ」
ああ、この人が剣の折れた剣腕族の人か……。でもその剣も俺の力で何とかなりそうだし別にいいかな。
「別にかまいませんよ。彼女が問題なければですが」
一応仲間になる人だし険悪な雰囲気なのは嫌だからな。
「あたしは別にかまわないよ」
「だ、そうなんでどうしやす?」
「それならお願いするよ。名前は?」
「レン」
「そうか。よろしくレン」
そう言って手を差し出した俺に驚いたように目を見開くが、すぐに手を出して握ってくれた。
「それじゃ水筒は渡します」
俺は合計三つの水筒を男に差出し、受け取るように促す。しかし男は目を見開き固まって動かない。
「だ、旦那?こここれは?」
「レンの代金だけど?いらない?」
「いいいえ。大事にもらっておきます」
「じゃあ行こうか」
男と同じく驚いているレンを連れて、俺はさっさとここを出ることにした。
どうでしたか?
今回は仲間第一号の登場です。
次はレンの剣を直してあげたいところですね。いや、その前にこの話をレン視点で書くかも。