第19話 旅立ちと小さな約束と
お久しぶりです円男です。皆様お盆はどのようにお過ごしでしょうか?私は残念なことに休みがほとんど潰れました。
まあ私のことはいいですね。続きをどうぞ。
あの後外が暑かったから潮風亭に帰ってきた俺は部屋で寛いでいた。いたんだが、突然バタンと部屋のドアが大きな音を立てて開く。どうせまたメルナちゃんだろうと思った俺はレンはいないという事を伝えるためにドアの方を見た。
しかしドアの前にいたのは笑顔の眩しい少女ではなく、息をきらせて此方を睨む鬼だった。まあ綺麗な女の鬼ではあるが……。
そいつはツカツカと此方に近付くと、人差し指でビシッと俺を指差し怒鳴った。
「ナナシ!置いて行くなんて酷いじゃないか!しかもあんた店の外にいるとか言っておいて何で潮風亭に帰ってきてるんだい!?おかげで色々探し回る羽目になっちゃったじゃないか!」
そういえばそんな事を言った気がする。まあでも暑かったんだから仕方がない。
「太陽が自重してくれなかったからな。仕方がないさ。怒るなら今も俺に追い討ちかけてくるアレに言ってくれ」
俺はダルさを全面に出しながら窓の外から照らしてくるソレを指差した。自分でも酷い屁理屈だと思うがそれほどまでに今日は暑いのだ。アチラの夏なんて比べ物にならないほど暑い。多分40度超えているんじゃないかな。
「まあ置いてったのはスマン。忘れてた」
ポロッと零れてしまった最後の言葉でレンは更に怒ってしまい、くどくどとメルナちゃんが夕御飯をどうするか聞きに来るまで説教食らったのは本日最大のミスだったと思う。
「はぁ…はぁ…分かったかい?もう金輪際ああいう事はやめておくれよ」
どうやら終わったと思っていた説教はまだ続いていたらしく、今やっとそれが終わりを迎えたらしい。当然終わったと思っていた俺は夕飯を食べているが、早く食べないと冷めるぞ?
「おいレン、終わったなら早く飯食え。昼間は暑いから夜出る予定何だから早くしろ」
「えっ?あっ、うん。……じゃなくてナナシィィィー!」
また説教が開始されそうだったが、ダンさんに他の客の迷惑になるから少しお静かにと怒られてしまったのもあり、レンの熱も冷めたようだ。残念ながらレンの夕飯も冷めたが。今日の飯美味かったのにな。
「ちょっとダンさんと話してくるからお前は飯食ってろよ?」
「分かったよ。全くあんたは……」
何か呆れた様に言って飯食い始めたレンはとりあえず放っておき、ダンさんがいるであろうカウンターに向かった。
「ダンさん」
「ああ、ナナシ君。どうかしたかい?」
「俺達今日の晩で宿出るんでそれを言いに来たんですが、宿代は足りてますか?」
「それはいきなりだね。何かあったかい?」
少し驚いたように聞いてくるダンさんに首を横に振り、否定の意を伝える。確かに怪我はしたけど、此処の人達は好くしてくれたし感謝してるしな。
「そうかい?それで宿代だけどまだ二日分に少し足りないくらいは残ってるから今から持って来よう」
「いえ、シーツを何枚も駄目にしてしまったし、色々世話になったんでそれ位なら取っておいて下さい」
「そうかい。それならありがたく貰っておくよ」
俺がそう伝えると、ダンさんは柔らかい笑みを浮かべ礼を言ってきた。用件はこれだけなので、会釈で返して部屋に戻る。
「レーン、食い終わったか?」
「そんなに早く食べ終わる訳ないだろう?飯くらいゆっくり食べさせなよ」
部屋に帰るとまだレンがパンを齧っていた。それはもう豪快に。お淑やかさや女らしさの欠片もないな。これが冒険者か。
「ご馳走様でした。さて、あたしは何時でも行けるよ」
今の今まで飯食っててよく言うよ。
「そうか、防具は着ないのか?」
今は俺の作った防刃シャツに防刃ソックス、それに短めのパンツを着ている状態だ。街道を通るだろうとはいえ今から外を歩くのに無防備過ぎるだろう。
「へっ?いや、今から着ようと思ってたところだよハハハ」
笑い声が乾いてんぞ。あと目も泳いでるし。本当に大丈夫かコイツ。いそいそとボディアーマーと手甲、脛当を身に着ける護衛を見て更に不安が加速するのを感じた。
「防具良し、道具良し、全部良し!ナナシ、今度こそ行けるよ!」
どうやら確認が終わったようだ。そこまでやらんと駄目かね。まあいいや。俺は細かい事を考えるのをやめ、気持ちを入れ替えるように一度目を閉じる。そして目を開けながら深呼吸を一つ。
「よし、行くか」
「ダンさん、色々お世話になりました」
「いえいえ、またのお越しをお待ちしていますよ」
「メルナちゃん、じゃあね」
「お姉ちゃんたちもう行っちゃうの?」
悲しそうな顔でレンの顔を見上げながら不安そうに言う。こうなるだろうとは思ってたけど、どうしようかな。
「また、来てくれる?」
「ああ、きっと来るよ。ねぇナナシ?」
「ん?ああ、メルナちゃんがもう少し大きくなって仕事が出来る様になったらまた来ようかな?」
「本当!?ならメルナね、凄い頑張るよ!だからまた来てね?」
俺とレンがそう言うとパァッと花が咲いたような笑顔を浮かべてそう言ってきた。これは本当にもう一回来ることになりそうだな。
「それじゃダンさん、もう一度お世話になりました。そういうことになったんで何時かまた来ます」
「ええ、よろしくお願いします」
「ご利用有難う御座いました!」
メルナちゃんの慣れていないような業務的な挨拶を背に俺達は潮風亭を後にした。
「うーん、やっぱりこの位の時間になるとだいぶ涼しいな」
「そうだね。この時期は森の魔物達が活発になるけど、海の魔物は深い所に潜ってる筈だから海沿いを行こうか」
どうやら魔物にも季節の好き嫌いがあるらしい。まあ暑いの嫌いな奴等もいれば暑いのが大丈夫な奴等もいるのか。その辺は普通の動物と変わらないな。
「んじゃ、そろそろ次の町目指して頑張りますか!」
「ああ、でも魔物が出ないわけじゃないからあんまり張り切りすぎてあたしから離れないでおくれよ?」
「分かってるよ。さすがにそんな馬鹿なことはもうしないさ」
前例があるだけにあまり信用が無いとは思うが町の中に魔物が入ってくるとは夢にも思わないだろう?ああいうのはノーカンだから。
「全く仕方ないねえ」
「文句言うなよ。恨むんなら俺に買われちまった自分を呪いな」
「別に恨んでなんかいないよ。それどころか感謝してる」
「何か言ったかー?早く来ないと置いてくぞー」
「あんたは先に行くなって言ったそばから何してんだい!?」
少し先を行ってた俺には聞こえなかったから聞き返すが、帰ってきたのはまた説教だった。
マレの村の最後はレンとの鬼ごっこという残念な旅立ちになった訳だが、まあ湿っぽかったりするよりはいいしこういうのもアリだろ。
「待てナナシー!」
円男先生の次回作にご期待下さい。
冗談ですすいません。とりあえず今回でやっと一区切りです。
第一章終了ってところでしょうか。
次からはイヴネス到着までが第二章です。
これからもどうかよろしくお願いします。