第12話 人は見掛けじゃない
お久しぶりです。なんか今迄で一番期間が空いてしまったような気が……。
「亭主!医者を!早く!」
あたしはほとんど取り乱した状態で潮風亭に飛び込む様な形で中に入った。あたしはダンさんに助けを求めると共にナナシを壁を背にして座らせる。未だに弱弱しい呼吸を繰り返すだけで、一向に意識を取り戻す気配は無い。
「レンさん、大丈夫で……ナナシさん!?メルナ、急いでサーナさんとビリスさんを呼んで来なさい」
「う、うん!」
ダンさんの言葉を聞いて、メルナちゃんは潮風亭を走って出て行った。サーナとビリスが誰かは知らないけどこの村のことをよく知らないあたしに出来るのはこの村の人間に助けを求めることだけだ。
「ダンさん、何か止血できるものをくれるかい?包帯とかが無ければ悪いがシーツを一枚譲って欲しい。必要なら金は後で払う」
「人の生き死にが係ってるんですしそれは後にしましょう。私は包帯と布を取ってきます」
ダンさんは快く必要なものを取りに行ってくれた。それならあたしは医者の治療や止血がしやすいようにナナシの服を脱がそうかね。ナナシが止血のために自分で破いたらしく、すでにボロボロだったから案外簡単に脱がすことが出来た。ついでにナナシが自分でやった包帯モドキも外したし、あとはダンさんが来るまでに服の切れ端で傷口の近くに付いてる血を拭き取れるだけ拭いておこうか。
「レンさん、包帯と布です!」
丁度良くダンさんが帰ってきたので切れ端を床に放り、持って来てくれた布で傷口を押さえる。包帯は医者にやってもらえばいいから置いておいてとりあえずは止血しなきゃ不味い。さっきの地面を見た限りでも結構な血を流していた様だし、傷口も大きい。深さは2cm位で左肩から脇腹にかけて20cm程だ。急所ではないけど致命傷と言ってもいいほどの傷。
そんなナナシの姿を見てあたしは考える。ナナシが死んだらあたしはどうなるんだろう?基本的に主人が死ねばその奴隷は主人の血縁関係がある者に所有権が渡る。だけどナナシは記憶喪失で天涯孤独?なのかは知らないがそういった者はいないはず。ならあたしはどうなるんだ?自由になってもどうせ…いや、今は剣腕があるから生きるのには困らないはずだ。……違う!何を考えてるんだあたしは!?ナナシはあたしを救ってくれた。そしてあたしはナナシを守るって誓ったじゃないか!ナナシ、死ぬんじゃないよ!あたしはあんたにまだ何も返してないんだからね!
「お父さん!呼んできたよ!」
止血をしながら医者を待って十分程、メルナちゃんが息を切らせながら帰ってきた。その後ろに続くように二人の人物も入ってきた。彼らがサーナとビリスだろう。
「ダンさん、怪我人は!?」
まず口を開いたのは良く見る明るい金髪で、背中ほどまである髪を後ろで縛っている三十歳位の女性。青色の縁の太い眼鏡を掛けていて、知的そうな印象を受ける。服装は大抵の平民が着ている生地の服を着ていて、その黒色の服の上から少し良い生地でできた白衣を着ている。服装からは医者っぽく見えるけどね。持っている大きな黒い鞄も医者のそれだし。
「で、患者は?生きてっか?」
その後ろから特に焦った様子も見せずにそんな声が聞こえた。そこには煙草を銜えた三十代半ば位の男が立っていた。ボサボサのくすんだ金髪でシャツをズボンからだらしなく出し、その上から少し黄ばんだ白衣を着ている。この男がビリスか?医者としてどうかと思う出で立ちに斬り殺してやりたい衝動に駆られるが、ダンさんが呼んだ人物であるし我慢だ。
「怪我人はココだよ。カーニスの爪に引っ掻かれたみたいなんだ。傷は左肩から脇腹にかけて20cm位、深さは2cm位で今は布で止血してる。呼吸も弱くて危ない状態なんだ」
あたしはナナシの場所まで案内しながら、今の状態を詳しく話す。
「これは……私では厳しいかもしれません。ビリスさん、頼めますか?」
ナナシを見たサーナと思しき女性はそう言って隣の男を見る。
「分かってらぁ。サーナ、お前は傷口の化膿を防ぐ薬を調合して来い。俺はその間に傷口を塞ぐ」
ビリスがそう言うとサーナは潮風亭を出た。残ったビリスは白衣を脱ぎ捨て、シャツの袖を捲り上げるとサーナの置いていった鞄から丁寧に布で包まれた何かと、密閉性に優れていそうな袋を取り出した。
「下手な巻き方だな」
慌てながらもあたしが頑張って巻いた包帯に駄目だししながらそれを剥ぐ。
「なかなかパックリいってるな……」
ビリスは布の中からフックの様な形の針に袋の中から出した細い糸を通しながら言った。アレで縫うのだろうか。
「小僧、痛いかもしれんが我慢しろよ?ああ気絶してんのか。なら好都合だ」
そこからは速かった。ビリスはものの数分であの大きな傷口を縫い合わせてしまったのだ。
「術式、終了ってな。あとはサーナが「戻りました!」戻ってきたから化膿止め塗って終わりだ。そのあとは安静にして寝かせておけ。一応包帯は半日に一回は替えるからサーナを置いていく」
「代金は?薬って結構高価だろう?」
「別にいいさ。カーニス狩ったの嬢ちゃんだろう?まけといてやるよ」
ビリスさんはいつの間にか煙草に火をつけていて、吸いながらそんなことを言ってくれた。医者として…というか怪我人がいるのに煙草を吸うとか人間としてどうかと思うが、腕は良さそうだし悪い人間ではなさそうだ。何事も見掛けに頼っちゃ駄目って事だね。
「お話中すいませんが、彼を運ぶの付き合ってもらえませんか?」
後ろでサーナさんが色々頑張っていたみたいだが、やっぱり大の男を抱えていくのは無理だったようであたし達に助けを求めてきた。
「悪いね。あたしが運ぶよ」
あたしは落ち着いた呼吸を繰り返すナナシを横抱きにして、部屋まで運んだ。
ナナシ君治療回でした。
新しく二人出てきました。サーナとビリスです。
サーナービリス=sanabilis(ラテン語で治療できるの意)より。サーナ、ビリスです。
自分的には長さはこれくらいがいいかなと思っていますがどうでしょうか?他の作者さんのを読んでいると凄く短く感じますが……。