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第9話 剣腕族の誓い

 遅れました!

 って何度打ったことかというか毎回な気がする。申し訳ないです。

「さて、じゃあ話の続きだな。俺の能力についてだ」


 美味しいご飯を食べ終わり一息ついていると、さっそくナナシが話を始めた。


「レン、お前にやった水筒はもう空か?」


「いや、まだ入ってるよ。もったいないし」


 今からの話と水に何か関係があるんだろうか?


「んじゃ貸してくれ」


 何をするか見当もつかないけど渡せといわれたので渡す。するとナナシは何を思ったのか、席を立つと中に入っていた水を花瓶の中にぶちまけた。そして中の水が落ちきりポタポタと水滴だけになると蓋を開けたまま戻ってきた。


「何をしてんだい?もったいないじゃないか!」


「いいから、とりあえず空ってのを確認してくれ」


 そう言われて水筒を渡されるけど見てたし持ってみても当然空だ。


「空だよ」


「ならもう一度貸してくれ」


 渡したり返せと言ったり一体何がしたいんだ?仕方ないから従って返すと、ナナシは水筒を両手に挟むと何か念じるように目を閉じてすぐに開いた。たった一秒くらいだから何かしてるようには見えなかったけど。


「レン、この水筒は今空か?」


「そりゃそうだよ。おちょくってんのかい?……え?」


 そう言って渡された水筒には確かな重さがあって、少し揺らしてみれば中に液体が入っているのが良く分かった。何かの手品か?いやそんな素振りは無かったはず。


「それが俺の能力だ俺は『錬金術』って呼んでる。ちなみにその銀の水筒は元々土の中にある金属だ」


「そこで、だ。これを見ろ」


「……これは、剣?」


 疑問を口にしようとしたところでナナシが自分の服に(くる)んでいた何かを取り出した。そこには見たことも無いような綺麗な両刃の剣が入っていて、ただの鉄でないことは一目瞭然だ。


「そう剣だ。剣腕族の剣が何で出来てるのか分からなかったから俺の故郷で一般的な金属を使ったけどな」


 剣腕族の剣?なんでだ?折れにくいからか?いや、でもこの剣には(つば)が無く(つか)も付いていない。金属の板の延長線上に両刃があるような形で、少なくとも武器として完成していないのは一目で分かる。それにしても頑丈そうな剣だ。剣腕族は剣と共に生まれ剣と共に死ぬ種族と言っても過言ではないという背景から武器―――特に刀剣の類は一目見ればある程度の情報が分かるけど、この剣はおそらくあたし等剣腕族の剣腕に勝るとも劣らないだろう。鋭く、頑強な中にしなやかさも持ち合わせているように見える。そんな剣にあたしは目を奪われていた。






 レンが剣をジッと見たまま動かなくなってしまった。何かおかしな所でもあったのだろうか?


「レン、何か気になる所でもあったか?」


「あんたこの剣どうしたんだい?見たことも無いほど上等な武器だよ。それこそあたし等の剣腕より優れてるほどの」


「どうしたって創ったんだよ。お前のためにさ」


 質問に答えずそんな事言ってくるもんだからそのまま話す。別に隠すことでもないし能力のことはバラしたし。


「あ、あたしのため?」


「そうだけど?いくら上等な武器でも俺じゃ扱えないし俺にとっちゃ荷物でしかないからな。これは俺の能力でお前の右手に付けれないかと思って創ってきたもんだ」


 そう答えるとレンはまた黙ってしまった。どうすればいいんだ?






 これがあたしの剣腕になる?剣を折られ、異端と(さげす)まれ、奴隷にまで身を落としたあたしがまた戦士として戦えるのだろうか?


「ねえあんた……やってくれるかい?どんな痛みが襲ってきても!何か対価が必要でも!あたしはもう一度戦いたい!」


 自分の気持ち全てを叫ぶように吐き出し、右手を覆っていた包帯を(ほど)いて膝を付いて懇願する。


「言われんでもやるさ。お前は俺の護衛として……いや、仲間として戦ってもらわないと困るからな」


 ナナシはニヤリと笑うと、あたしの右手にある折れた剣の上にナナシが創った剣を重ねた。






 包帯を取ったレンの右手を見てまず驚いたのは、幾何学的な模様が元の肌色が見えないくらい描かれてることだ。封印みたいなものなのかは分からないが何か意味のあるものだとは分かる。そしてそれと共にレンが普通の人間ではないということを思い出させた。手首の部分から甲のあたりにかけて鈍い銀色が生えているのである。おそらくその先に剣が続いていたのだろうと容易に想像できるが、今は折られたというより砕かれた様になっている。まあ、どんな状態だろうと俺の能力には余り関係ないだろうがね。


 俺は剣があったと思われる部分に俺の創った剣を重ね、在るべき姿、俺の思い描く姿を頭に浮かべる。すると鉄板の部分がレンの手の甲に溶け込むように同化していく。おそらくは成功だろう。


「レン、終わったぞ」


「……っへ?」


 終わったことを伝えるとレンからはどこか気の抜けた返事が返ってきた。


「もう終わったのかい?」


「なんだよ。時間掛けて欲しかったのか?」


「いや、もっと何か身を裂かれるような痛みとか、焼けるような熱さとかがあるかと思ってたから」


 無いとは言えないが、何か期待してたのか?


 もしかしてマゾヒストか何かだろうかと思ったがそれ位の覚悟をしてたってことだろう、きっと。


「部屋を壊さない程度に振ってみろ。何か不具合があれば言えよ?出来る範囲で直すから」


 俺がそう伝えると、レンは部屋の中央で剣を振った。


 一閃、そう形容するのが正しいであろう一振りは空を裂いた。剣圧と言うのだろうか?風が来ると思っていたが来ない。それどころか花瓶の近くを通ったにも拘らず花も揺れていない。これが空気すら断つというものだろうか?剣線は全く目に映らなかったが、今の一振りが達人のそれに近いものだということは素人目に見ても明らかだろう。


「ナナシ、凄いね。剣腕族は少なからず剣の性能が生まれたときから決まっていて、性能がいいほど使い手の身体能力も上がるものだけど今は体がまるで羽のように軽いよ」


 どうやら特に不満は無いらしく、自分の今の性能に驚いたレベルらしい。まあ成功ならいいか。能力を連発したからか旅に疲れたからかは分からないけど早く寝たいしそろそろ寝るか。


「問題ないなら俺はもう寝るぞ?今日は疲れた」


「その前にいいかい?」


「なんだ?」


「我が名は『レン・ムンバルク』汝、異端と呼ばれしこの魔剣を己が物にするか?汝、この魔剣の主と成る心を持つか?汝、我と共に歩むか?」


 いきなり真剣な顔して言ってくるもんだから何かと思えば。でも真剣な誓いみたいな物っぽいな。


「笑わせんなよ。こんな言い方は好きじゃないがお前は俺のモンだ。俺はお前の所有者であり主人であり仲間だ。何度も言わせんな」


「ふふっ、そうかい分かったよ。あんたの命、あたしが預かった」


 その時のレンの笑顔は今までの自嘲(じちょう)等ない年相応の綺麗な笑顔だった。不覚にも見惚れてしまったが言うとおちょくられそうなので絶対に言わないようにしようと思いながら、俺も何かスッキリとした気持ちで寝ることが出来た。

「レン・ムンバルク復活!レン・ムンバルク復活!!レン・ムンバルク復活!!!」的な話でした。


 レン・ムンバルク=レンは適当です。ムンバルクはバルムンクのアナグラムです。バルムンクは結構有名だと思いますがニーベルンゲンの歌に登場する剣で、北欧神話のグラムという剣がモデルとされています。ジークフリートが使ったとされる剣です。(らしい)

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