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第8話 名無しの錬金師

 今回は早めに更新できました。

「さて、勇んで出てきたはいいがどうしようか」


 宿屋を出た俺は適当に歩き回った末、建物と建物の間にある空き地を発見した。二畳程度だが、人一人が作業する分には問題ないはずだ。よしここに決めたと気合を入れると同時に身体が少し震えた。ちょっと寒いな。レンをあやしていた際にスーツの上着は涙でに色が変わるほど濡れてしまったのでベッドの上に脱ぎ捨ててきたのがいけなかったか、少し肌寒くなってきていることに少し早まったかなと後悔の念が沸々と沸きあがるがこれから長い間(多分だが)一緒にいることになるだろう相手で尚且つ護衛してもらう予定のレンが苦しんでるのだ。そこは男として一肌脱がなければいけないだろう?まあ今のレンは護衛としての能力がゼロに近いため、自分のためというのも否定はしないし出来ないが……。


 それにしてもまずは使用する金属である。そこは聞いてくればよかったと素直に自分の至らなさが際立つが仕方がない。だって慰めるという名目ではあるが年頃の女性を抱きしめていたのだ。ものの五分程度とはいえ俺も男でまだ二十一であるしやはり恥ずかしいものがある。照れ臭くなって少し行動が雑で穴だらけであっても仕方がないと思うんだ。うん。


 とそんな俺の心情なんてモンはどうでもいい。金属だ金属。とりあえず硬い物である。もし合わなかったらその時また考えればいい。


 そして俺はまた思考に(ふけ)る。硬い金属とは何か?





 そこでまず頭に浮かぶのは緋緋色金。ヒヒイロカネと読むが、オリハルコンと言ったほうが馴染みが深いだろうか?この金属は合金にすると金剛石よりも硬く、そして錆びず、驚異的なまでの熱伝導率を誇ったとされる。()草薙(くさなぎ)(つるぎ)もこれで出来ていたとされるので刀剣としてはこれ以上無い素材であるが却下である。まず製法が分からない。原子配列など分かれば何とかなったのかもしれないが、それも分からない。もしかしたらあるのかもしれないが俺は知らないし、知ってたらきっと誰かが表彰されてるだろうから多分無いのだろう。だてに伝説と言われていないということである。


 そして次に浮かんだのがアダマンタイトであるがこれも却下。説明は省くが早い話これも伝説である。もうギリシャ神話とかに出てくるレベルのものであるから当然却下である。


 現実的且つ硬く刀剣類に適したものと言って俺が思いつく限りのものだとダマスカス鋼か。ウーツ鋼とも呼ばれ、これも製造技術を失った事実上伝説とまでは行かないが希少な物である。しかしこれは俺がいた時点では完全再現までは成されずともそれに近い物は再現されていたから何とかなるかもと思い至った訳だ。しかし知識として知っているだけでどれだけ硬いのか分からないため、やはりこれも却下。いつか挑戦してみたいとは思うが、今は身内のためなので中途半端なことはしたくない。


 結果として使用することになったのはありきたりではあるが玉鋼(たまはがね)にすることにした。他にも硬い金属は多々あるだろうが俺はあまり詳しくないし、創るのが刀剣であるため、これが一番いいと判断した。


 そうと決まればすぐ実践である。まず地面から砂鉄を錬成する。これはクリアである。ただ地面に手を付けて砂鉄になれと念じるだけでいいのだから。次は鉄であるこれも砂鉄と同じくクリア。問題はここからである。玉鋼は踏鞴(たたら)製法で大量に造られ、その中でも不純物の少ないものが刀剣として鍛錬するに相応しく、そこからの鍛錬で更に不純物を外に出すことで武器としてではなく美術品とも言えるあの折れず曲がらずの日本刀ができあがるのだ。しかし問題はその比率が分からない。とりあえず鍛錬などという熟達した技術は無いので、極力不純物の少ない玉鋼を創り出し、それを剣の形に錬金することになると思う。


 とりあえず簡単に不純物の無い玉鋼なれと頭で思いながら、鉄のインゴットの上に砂鉄を載せ錬金する。






 結論から言えば玉鋼は完成した。出来たならいいじゃないかと思うかもしれないが、最初のアレで出来てしまったのが何か嫌だ。あれだけ色々考えてやって「不純物の無い玉鋼になれ」で出来るとか何なの?とりあえずは材料と最低限の知識とかがあれば出来るというこの馬鹿げた能力の幅が広がったと思って大人しく宿に帰ろうと思う。俺は8kg程ある玉鋼を両刃の剣の形に加工したものをカッターシャツに包み、宿に戻る道を歩いた。











「ダンさん、帰りました」


「おや、ナナシ様お帰りなさい」


 カウンターに立っているダンさんに言われるが、様とか言われるとむず(がゆ)い。


「ダンさん、様は辞めてもらえません?背中が痒くなってしまうので……あと敬語もいいです」


「そうかい?ならそうしよう。お帰りナナシ君」


「そういえば俺名前言いましたっけ?」


 結局言ってなかった気がするんだけど。


「レン君に聞きました。彼女は今から夕食にするそうですがナナシ君はどうしますか?」


「お願いします。お腹すいて仕方ないです」


「分かったよ。では出来たら部屋に持っていくから待っていてくれるかい?」


 ああ、これが憧れのルームサービスか。え、何か違う?うん、俺も分かってる。カウンターの奥にダンさんが入っていったのを見て、俺も部屋に戻った。






「レン、話がある」


 どこかに出掛けていたナナシが帰ってきて早々にあたしを呼んだ。昼間の件で少しびくっとなってしまったが「俺はお前を捨てない」と言うあの言葉を信じてナナシに応対した。そういえばなんで服を脱いでるんだ?この時期、この時間は少し肌寒いんだけど。


「ここに来る前に言った人には無い能力の話は覚えているか?」


「え?ああ、覚えているよ」


「飯食ったらその事と、お前の右手について話がある」


 あたしは自分の右手とナナシの能力にどんな関連性があるか皆目見当がつかず、曖昧に頷くことしかできなかった。






「ご飯持ってきました!ドアを開けてください!」


 ドアの外からメルナちゃんの元気で大きな声が聞こえてきた。いくら、まだ七時位だといっても少し声が大きくないだろうか?俺は気にしないが他の客がいたらねえ?というかノックという概念が無いのだろうか?


「あいよ、レン」


「分かったよ」


 返事をして、レンに扉を開けさせる。それと同時に何かの良い匂いが部屋に入り込んできた。


「今日の献立は白パンと、キカ貝のスープと、ホウ草のサラダと、猪肉のステーキです!食器は台車に乗せて廊下に出しておいてください!ごゆっくりどうぞ!」


 元気一杯なメルナちゃんの献立解説が終わり、部屋を出て行ったので食べることにする。それにしてもメルナちゃんみたいな子が台風みたいな子と言うんだろう。幸い被害は出てないのでまだ可愛いものだが。


「どうしたレン、食べないのか?」


 そんなことを考えているとレンが全く食器に手をつけないので聞いてみた。


「いや、いくらあたしでも流石に主人より先に食べるなんてことはしないよ。あんたが同列位に見てくれてるって思ってもさ」


 寂しそうに笑いながらそんなことを言うもんだからしょうがないじゃあ食べよう。


「いただきます」


 日本人なら誰でも知ってる習慣を終え、さあ食べようかと思ったらレンが今度はキョトンとしてるもんだからまた理由を聞く。


「なんだよ」


「今の何かなと思ってね」


 そっか、こっちにはこれも無いのか。俺はこの習慣が結構好きなんだがな。


「今のは俺の故郷での作法、というか習慣だな。俺達の糧になってくれた動植物やこの料理を作った人に対して感謝の意をこめての『いただきます』それと食べ終わったらもう一度同じように感謝して『ご馳走様』だ」


「へえ、いいねそういうの。じゃあ『いただきます』」


 レンも食べ始めたことだし俺も食べるか。


 それにしてもなんか豪華なんだがこれが普通か?


 俺的には固い黒パンとハムとくず野菜のスープ的なものが出てくるのが宿屋の定番だと勝手に思ってたんだが。白パンは結構柔らかいし、スープも大粒のハマグリ見たいのがゴロッと二、三個、サラダも量があるし野菜の種類も豊富だ。極め付けにステーキだしな。1cm位の厚みで横15cmの縦7cm位と大きさも中々である。うん凄い豪華だ。


「レン、宿屋の飯って大体こんなもんか?」


「多分違うと思う。これは裕福な平民が月に二、三度食べれればいいくらいの豪華ささ。少なくとも剣腕族の集落ではそうだったね」


 じゃあこれは昼間のお詫びか金払いの良い客に対するサービスってところか。


 まあこっちにデメリットは無いわけだし美味けりゃいいか。あの味なし(がゆ)から始まって角付き兎だもんな。これは素直に嬉しい。


 俺は久々の美味い飯に舌鼓を打ちながら平らげた。


 さて、メルナちゃんに言われた通り台車も廊下にちゃんと出したし今日最後の一仕事をしますかね。

 金属についてはwikiを見ながらやりました。間違ってても虐めないでもらえると嬉しいです。

 ご飯は分かり易いですが、キカ貝=牡蠣(かき)、ホウ草=ホウレン草です。ネーミングセンスが残念な自分がオリジナルで付けるよりもこっちのがダメージ少ないかと思って……。

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