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第7.5話 あたしとあんた

 お久しぶりです。

 また期間が空いてしまいましたが3月中に更新できたからいいやと思うのは怠けですよね?

 精進します。

「ねえ、お姉ちゃん達は旅人さん?」

 

 なんだいこの子は?普通だったら貴族かっていう疑問が出てくると思うんだけど。ナナシも別に貴族風に接してるわけじゃないから言っても問題ないか。

 

「そうさね、あたし達は一応旅人になるのかな。あたしも雇われたばかりだから詳しいことは分からないけどね」

 

 奴隷で買われたという事実は何故か口から出なかった。こんな小さな子に聞かせる事でもないと頭が勝手に判断したのか、あたしの心が自分が奴隷だったということを拒否しているのかは判断できないが……。でもナナシに買われて良かったと思う。あたしは元々、外面(そとづら)(つくろ)うのが得意じゃないから普通に貴族とかに買われていたらきっとすぐにボロが出て捨てられるか殺されるかしていただろう。買った奴隷の素行が悪くて別の奴隷に換えたり幾分かの金を返させてまた奴隷商に売ったりすることはあるが貴族なんて連中は金が有り余っている奴が多い上にそういう奴に限って腐ってたりするからそれは無いだろう。それ以前に金を払ってまであたしのようなポンコツを買うことなんて無いだろうけどね。

 

「お姉ちゃん?」

 

「すまないね。少し考え事をしてたよ」

 

 心配そうに見上げてくるメルナちゃんに答え、少し強く手を握って部屋に案内してもらった。

 

「ここがお姉ちゃん達のお部屋です!」

 

 部屋に着くと一足先に入り胸を張りながら両手を広げ、部屋を自慢するように言った。あたしは剣腕族の集落で育って集落を追い出されてすぐに奴隷商に売られたから部屋の良し悪しは分からないけど、部屋にある少し大きめの窓からは陽の光が差し込んでいて凄く明るいし、おそらくあの亭主が整えたであろう寝台は清潔で今にも倒れこみたい衝動に駆られる。他にも花瓶に活けられた花は毎回水を変えたりされているのか枯れてもいないし花びらも落ちていない。部屋の中もゴミ一つ落ちておらず、宿としては良質な部類に入るだろう。

 

「へえ、いい部屋だね?」

 

「でしょ!このお花はメルナが摘んできて活けたんだよ!」

 

「凄いじゃないか、メルナちゃんは偉いね」

 

「えへへ」

 

 屈託の笑みを向けるメルナちゃんの頭を撫でてあげながら思う。こんな小さな子も家の手伝いの延長とはいえ宿屋の切り盛りを手伝っている。あたしはナナシに対して何がしてやれるだろうか?あたしは家事なんて全く出来ないし、剣がないから戦えない。できる事といったらちょっとした狩りくらいだ。ナナシは護衛を探していると言っていた。今のあたしにそれが出来るだろうか?いや出来ない……。これじゃあ本当にあたしはただの穀潰しじゃないか……。

 

「お姉ちゃんお姉ちゃん、パパ達のお話が終わるまでメルナと遊んでよ!」

 

「そうだね、何をして遊ぼうか?」

 

 しっかりとしている様に見えてもやっぱり子供なのだろう、遊んでとせがむメルナちゃんの元気に負けて……いやそれは言い訳だね。あたしはただ誰かとの繋がりを無くしたくないだけなんだろう。たとえこんなに小さな子供だとしても、ね。

 

 

 

 

 

「何をやってるんだお前は……」

 

 亭主との話が終わったんだろう、いつの間にかナナシが来ていた。そしてそう言われて部屋の惨状に気付く。

 

「何って、ねぇ?」

「ねー!」

 

 上手い言い訳が思いつかず一緒に遊んでいたメルナちゃんに同意を求めるしかなかった。心の何処かではナナシを甘く見ていたのだろう。だから今回も笑って許してくれると、そう思っていた。

 

「レン、言いたいことがある。ちょっと来い」

 

 しかしあたしの予想は外れ、ナナシは真剣な顔をして言った。

 

 その後ろから亭主が現れて何か言っているがあたしの耳には何も入ってこない。

 

「レン」「メルナ」

 

「「こっちに来て正座しなさい」」

 

 とりあえず言われたとおりにする。あたしの頭の中にはそれしかなかった。

 

 何を言われるのだろうか……亭主にメルナちゃんが連れて行かれたが今はそんなことを気にしている余裕はなかった。ただ恐怖と不安という感情に肩を震わせるしかなかった。

 

「さて、俺の言いたいことは分かるか?」

 

 分かる。でも答えたくない。あたしは肩を抱いて震えることしかできない。あたしは卑怯だ。こうしていればきっとナナシの事だから妥協して許してくれると頭の中では思っているのだから。しかしナナシはあたしの期待を裏切り、頭を振ると部屋を出ようとした。おそらく話にならないあたしに呆れているのだろう。捨てられるかもしれない、そう思ったあたしはナナシの服の裾を掴んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「捨てないで!」

 

 服を掴まれて振り返るとレンが泣きながら叫んでいた。正直理解が追いついていない。

 

「おいレン」

 

「何でもするから!家事も出来るようになるから!戦えないけど鍛えて強くなるから!夜の世話もやれと言われれば頑張るから!だからあたしを捨てないで……」

 

 一体どうしたんだ?別に俺はレンを手放すつもりはないし、疎ましいとも思っていない。少し礼節がなっていないとは思うがそこは気にしてないし。とりあえず落ち着いて話が出来るところまでいかないとどうしようもないな。でもどうすればいいんだ?まあなるようになるだろ。

 

「レン、とりあえず落ち着け」

 

 俺はそう言って膝立ちになりレンを軽く抱きしめて背中を叩いてやる。結局こんなんしか思い浮かばなかったわけだが。

 

「いきなりどうした。お前らしくない。別に俺はお前を捨てようなんて思っていないしそんなことも言っていないだろ?」

 

「だって、その……あんた怒っていたろう?」

 

 別にそこまで深刻に怒っていたわけではないがやっぱりそこは元奴隷というところなのか自分の主人になる人間を怒らせたらどうなるかっていう先入観みたいなものが働いたんだろう。そう解釈して接することにした。

 

「あれはうちの家風というか何というか、まあそれは置いといて別に怒ってないからあんまり気にするな。でも宿屋と言っても自分の家じゃないんだから最低限の礼節は守れよ?いいな?」

 

「うん、分かった」

 

「分かればいい。俺は野暮用があるから少し出るけどお前は落ち着くまで部屋から出るなよ?」

 

「……あっ」

 

「だからお前を残してどっか行ったりしないからそんな捨てられた子犬みたいな目で見るな」

 

「それじゃ俺は行くから。腹減ったらダンさん、あの主人な?に頼んで飯用意してもらって勝手に食ってろ。別に俺を待つ必要はないからな」

 

 それだけ言い残して俺は足早に部屋を出る。レンが戦えないことをそこまで気にしてるとは思ってなかったからだ。だから今日の夜にはレンの剣を治してやりたいと思う。今からするのはそのための準備だ。

 

「ダンさん、俺少し出てくるんで」

 

「はい、行ってらっしゃいませ。出来れば十一時頃には入り口を閉めたいのでそれまでに帰ってきていただけると助かります」

 

「分かりました。ではまた」

 

 人に見られないような場所を探さないといけないなと思いつつ、俺は潮風亭を後にした。

 今回はレンの葛藤とかその辺です。

 すれ違いって怖いですよね?

 言葉や表情の受け取り方は十人十色、だから人は言葉を使うんですよね?

 そんな話でした。

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