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一言目 コトノハノロウゴク⑴

 牢獄。罪を犯した者を囲う箱。


 無機質な鉄格子は情を見せず、ただ犯罪者たちを閉じ込める。

 しかし、此処の場合は一般的なソレとは少し違う。


 中は外の世界と変わらないような生活ができる、家具や必要最低限のそろったワンルームのようで。


 見た目は罪を償っているようには見えない。


 けれど、中に居る受刑者たちは皆ヘッドフォンをつけている。これが取れることはない。


 獄舎の中は常に呻き声や断末魔に似た叫び声が聞こえてくる。


 ここは「反復の刑」を受ける者の獄舎だ。


 受刑者が言われたくない言葉を、言われたくない人の声で、刑期を終えるまで聞かされる場所。


 最初は余裕なそぶりを見せても、一週間足らずで精神が崩壊する。


 言葉で罪を犯した者が受ける報いだ。


 僕はこの受刑者たちが償う場所を、ランタンを片手に見て回る。


 ヘッドフォンが外されていないか、自害していないかを確認して安心するのが日課だ。


 いや、赤茶のレンガの上を自由に歩ける幸せを見せびらかしている、嫌なやつかもしれないな。

 そう考えてしまうのも毎日のこと。


 一通り見て回ったら戻ろうか。あまりいるのも心に良くない。


 また歩を進めると、地下のレンガを走る音が聞こえる。

 振り返ると、紺色の将校姿にマントを翻して走る、若い警備隊の姿が見えた。

 

 彼は僕の部下にあたる人。何か大事があったのかと、喉に何かがつかえて、さらには胸が苦しくなる。


「お疲れ様です。何かありましたか?」


 隊員はキビキビと頭を下げると、僕より目線が下にくるように膝を曲げた。


文月ふみつき様。巡回をやめて、法廷へ来るようにと」


「あ……はい。わかりました。わざわざありがとうございます。それと……」


「はい」


「僕と話すときは、そんなに堅苦しくなくていいです。僕、まだムサシノへ来て日も浅いですし、きっと歳も変わらないでしょう……それに」


「それは、なりません。ムサシノの掟に反します」


 どこまでも堅く、曲げない。


 ルールを守るのが仕事だけれど、少しくらい柔らかくならないものかと思うことがある。

 

 けれど、すぐそばにいる受刑者を見れば、次は我が身だと思うのは仕方ないことかもしれない。


 だから彼は表情一つ変えないんだ。規則や規律は常に僕らを見ている。

 それを彼は、神経の奥深くまで理解しているのだろう。


「わかりました。では、交替をお願いします」


「承知しました」


 彼はランタンを受け取り、僕の姿が見えなくなるまで礼をし続けた。


 彼が礼儀正しいからではない。それが規則だからだ。



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