2/6
第2話 確認――「どうしたい?」と聞かれること
屋敷での生活は、驚くほど静かだった。
使用人は必要以上に話しかけず、廊下では足音が吸い込まれる。
それでも、私は一日目から気づいていた。
――伯爵は、必ず聞く。
「朝食は、早い方がいいか」
「外出は、午後にまとめる」
「読書の時間は、必要か」
問いは短く、選択肢は多くない。
それでも、“聞かれる”という行為が、私の呼吸を楽にした。
「……朝は、少し遅めが助かります」
「了解した」
それだけで、翌日から朝食の時間がずれた。
理由を求められない。
感情を試されない。
ただ、反映される。
夜、部屋に戻ると、机の上に小さな紙が置かれていた。
明日の予定が、簡潔に書かれている。
その最後に、一行だけ。
――変更があれば、伝えろ。
変更できない人生を生きてきた私にとって、
その一文は、ひどく眩しかった。




