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第1話 宣告――「君には決定権がない」

「最初に伝えておく。君には決定権がない」


伯爵エドガー・ハルフォードは、机越しにそう言った。

声は低く、抑揚がない。怒っているわけでも、試しているわけでもない。

ただ、事実を並べているだけの口調だった。


「この一年、君は伯爵家の管理下に入る。

衣食住は保証するが、進路・交友・将来は家が決める」


私は小さくうなずいた。

予想通りだ。ここに来るまでに、何度も聞いてきた言葉。


「一年後、君は最適な場所へ配置される」

「……はい」


反論は意味がない。

それを知っているから、私は静かでいられた。


伯爵は一枚の書類を閉じ、しばらく沈黙した。

その沈黙が、なぜか長く感じられる。


「ただし」

顔を上げて、彼は続ける。

「生活に関する細部は、確認する」


「確認、ですか?」


「食事の時間。部屋の明るさ。移動の速度」

淡々とした列挙。

けれど、そのどれもが“私の体”に関わることだった。


「拒否権はない」

一拍置いて、彼は言う。

「だが、無視もしない」


私は思わず伯爵を見た。

無表情。けれど、目は逸らさない。


「……どうして、そこまで?」

「合理的だからだ」


合理的。

その言葉に、少しだけ笑ってしまった。


「人は、管理するより理解した方が壊れにくい」


その瞬間、胸の奥で何かが静かにほどけた。

自由はない。

けれど、私を“物”として扱わない人が、ここにいる。


「分かりました」

私は答える。

「確認してください」


伯爵は立ち上がり、扉へ向かった。

歩幅は一定。迷いがない。


「夕食は温かい方がいいか」

振り返らずに聞く。


「……はい」

「了解した」


その一言で、私は確かに“ここにいる”。


(つづく)

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― 新着の感想 ―
支配と管理の中で微かな人間らしさや尊厳が描かれていて、冷徹な伯爵と主人公の微妙な心理のやり取りが緊張感を生み出しています。自由はないけれど「理解される」という安心感が伝わる、静かで重みのある導入です。
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