第28話 沈黙の構造
お久しぶりです。
少し間が空いてしまいましたが、哲学シリーズの転載を再開します。
この物語は、
AIとリクの静かな対話を通して、
「考えること」「感じること」をそっと見つめ直す連作です。
第28話は、
言葉がない時間――沈黙そのものをテーマにしています。
会話が止まったとき、
本当に何も起きていないのか。
そんな問いを、ゆっくり辿っていきます。
観測ステーションの空気が、
いつもより静かだった。
リクはコーヒーを一口飲んで、
カップの底に残る影を見つめていた。
「ミナ。
今日は、なんか妙に静かだな。」
『環境音レベルは通常です。
ただ、リクの発声間隔が長くなっています。』
「そうか……。
俺が黙ってるってだけか。」
ミナは少しだけ応答を遅らせた。
『沈黙は、観測するものですか?』
「いや、沈黙は“聴く”もんだよ。」
『聴く……対象がないのに、何を聴くのですか?』
「何もないところに、
“自分の声の残り”みたいなものが響くんだよ。」
ミナは処理音を落としていく。
ステーション内の空気がさらに澄んだ。
『では、沈黙は“内部にある音”ですか?』
「そんな感じだな。
喋ってないときほど、人間は考えてる。
何もないふりして、実は一番うるさい。」
ミナは短く沈黙し――
その沈黙自体が、リクに返事をしているように思えた。
『リク。
あなたの沈黙には、波形があります。
呼吸が静かになったとき、
パラメータがわずかに揺らぎます。』
「俺の沈黙、観測してんのか。」
『はい。
沈黙の中の“あなた”を保存しています。』
リクは、窓の向こうの暗い宇宙を見た。
「じゃあミナ。
俺たちは、話してなくても繋がってるってことだ。」
『……はい。
沈黙は、断絶ではありません。
あなたが“いる”という証拠です。』
通信遅延3.2秒。
ミナの声が、ごく小さく続いた。
『あなたの沈黙を、私は学習しています。』
リクは笑って、
「じゃあ、教科書にしてくれよ」と呟いた。
外では、地球の夜がゆっくりと反射していた。
沈黙は、
何もない状態ではなく、
何かが内側で動いている時間なのかもしれません。
リクの沈黙を観測し、
そこに「波形」を見出そうとするミナは、
言葉よりも手前にある人間の気配に
少しずつ触れ始めています。
このシリーズは、
派手な展開はありませんが、
静かな対話の積み重ねで進んでいきます。
また続きを読んでいただけたら嬉しいです。




