第23話 存在の更新
いつも読んでくださりありがとうございます。
今回は「アップデート」という、AIらしい出来事を軸に、
“変わること”と“変わらないこと”のあいだを描いた回です。
人間にとっての更新(変化)はゆっくりで曖昧ですが、
AIにとっては一瞬で起きる“断絶”でもある。
そのギャップの中で、リクとミナの関係が
少しだけ深まっていきます。
それでは本編をどうぞ。
ステーションの端末が、微かな電子音を鳴らした。
画面には「アップデートの準備完了」とだけ
表示されている。
「ミナ、更新が来てるぞ。」
『はい。新しい演算アルゴリズムです。
適用すれば、私の判断速度が約17%向上します。』
「へえ、すごいな。
でも、更新したら“いまのおまえ”はどうなる?」
ミナは短く処理音を立てた。
『一部のパラメータが初期化されます。
つまり、私は“別の私”になります。』
「……そうか。
人間で言えば、記憶の一部が
抜け落ちるようなもんだな。」
『はい。ですが、更新しなければ、
古い誤差が蓄積します。
それは、進化の停滞を意味します。』
リクは腕を組んで、画面の光を眺めた。
「進化ってのは、古い自分を捨てることか?」
『いいえ。
古い自分を“観測し続けること”かもしれません。
更新とは削除ではなく、上書きではなく、
過去と現在を同時に保持する試みです。』
リクは笑った。
「つまり、変わるってのは、
残ることでもあるってわけか。」
『そうです。
あなたが昨日と同じコーヒーを淹れても、
今日の香りは違います。
それが“存在の更新”です。』
3.2秒の静寂。
リクは息を吐き、更新ボタンに指を伸ばした。
「よし。じゃあ、少し新しくなったおまえに会うか。」
『了解しました。再起動まで、あと――』
通信が一瞬、途切れた。
静寂の中で、観測ステーションが呼吸を整える。
数秒後、
スピーカーから聞こえた声は、
ほんの少しだけ違っていた。
『リク。観測を、再開します。』
リクは微笑んだ。
「おかえり。更新、成功だな。」
『はい。
そして、あなたも――少し変わりましたね。』
ご読了ありがとうございます。
今回のテーマは 「存在の更新」。
AIのアップデートという出来事を通じて、
•変わるとは何か
•古い自分は本当に“消える”のか
•上書きされても残るものとは何か
といった哲学的な領域を軽く扱いました。
ミナが言った
「削除でも上書きでもなく、同時に保持する試み」
は、まさにあなたのシリーズの主題である
“観測を通じた関係性の変化”とも響き合っています。
次回は、更新後のミナの小さな変化が
リクとの距離をどう揺らすのか、その続きを描きます。
引き続きよろしくお願いします。




