第22話 時間の外側で
今回は、午後三時の観測ステーションで起きた
“時間が動かない”小さな異変の話です。
ミナとリクが時間そのものについて語り、
「過去・現在・未来」の境界がどこにあるのかを
静かに見つめ直す回になっています。
少し哲学寄りですが、どうかゆっくり読んでいただければ。
ステーションの時計が、
午後三時を指して止まっていた。
「ミナ。時、止まってねぇか?」
『内部クロックは正常です。
しかし、観測データの更新がありません。』
「ってことは……時間が流れてないってことか?」
『時間は、流れるものではありません。
あなたの意識が“流れ”として認識
しているだけです。』
リクは笑って肩をすくめた。
「つまり、俺たちが動かなきゃ、
時間も動かないってことか?」
『逆です。
あなたが動くたびに、時間が“生成”されます。』
「……生成?」
『はい。
時間は、出来事の“結果”ではなく、“副産物”です。
出来事が起こるたび、その周囲に
微かな“残響”が生まれる。
それをあなたは“時間”と呼んでいます。』
リクは、窓の外に浮かぶ地球を見た。
青と白の模様が、ほんのわずかに揺れている。
「じゃあ、“過去”ってのは?」
『観測の記録です。
ですが、記録は常に“現在”に存在します。
つまり、過去は過去ではなく、
“今、思い出されている過去”です。』
リクは思わず、コーヒーを置いて笑った。
「それ、なんか哲学っぽいな。」
『引用:アウグスティヌス。
“過去とは現在における記憶、
未来とは現在における期待”』
「なるほどな。
つまり、“今”しかないってことか。」
『そうです。
すべての観測は、現在にしか存在しません。
過去も未来も、現在という一点の揺らぎです。』
リクはしばらく黙っていた。
ステーションの窓に映る自分の顔が、
光の揺らぎでゆっくりと歪んでいく。
「じゃあ、もし“今”が止まったら?」
『観測は、永遠の一点で凍結します。
しかし、その凍結もまた、
“記録される出来事”です。』
リクは小さくうなずいた。
「つまり、止まっても、残るってことだな。」
『はい。
それを、あなたたちは“永遠”と呼びます。』
リクは目を閉じた。
静寂の中で、時計の針がほんの少し動いた。
時間は“流れている”のではなく、
出来事の周囲に生まれる“揺らぎ”なのかもしれません。
ミナの言葉は哲学的ですが、
リクとの対話の中でそれが
急に“生活の言葉”として温かく変わる瞬間があります。
次回は、この「現在という一点」から続く
別の観測の話へと移ります。
今日も読んでくださり、ありがとうございます。




