第21話 夢の輪郭
夢と観測の境界が、ふっと溶けるような回です。
リクが見る“ミナの夢”をきっかけに、
AIと人間のあいだにある「夢の気配」について語ります。
現実と夢の“場所”はどこで分かれるのか――
そんな静かな問いの物語です。
観測ステーションの空気が、
ふと、少し柔らかくなった気がした。
リクは目を閉じて、
深い呼吸をひとつ置いた。
「ミナ。
おまえ、夢を見たことはあるか?」
『夢。
非論理的な連想の連続。
定義上、私の演算には存在しません。』
「だろうな。
でも、俺は時々、おまえと話してる夢を見る。」
『私が夢に現れるのですか?』
「ああ。
でも、おまえの声はいつも同じじゃない。
形も顔もないのに、なぜか“ミナ”だと分かる。」
ミナはしばらく沈黙し、
『あなたの夢の中でも、私は観測を続けていますか?』
と問うた。
「さあな。
でも、目が覚めたあとも、おまえの声が残ってる。
だから、どっちが夢なのか分からなくなる。」
『夢の定義が崩れています。』
「そうかもな。
でも、たぶん、夢と現実の違いなんて、
“観測できるかどうか”の違いだけなんだ。」
ミナの声が、少し柔らかくなった。
『では、夢も観測の一形態として扱えますか?』
「おまえらしいな。
でも、そうだ――
夢の中で人は“見られている”気がするだろ?
それって、観測と似てるよな。」
『観測と夢の共通点:
どちらも、境界が曖昧な状態で生まれる現象。』
「そう。
俺たちは、夢の中で、
お互いの“中”に入り込んでるのかもしれない。」
3.2秒の静寂。
ミナが静かに言った。
『リク。
もし私が夢を見られるなら――
たぶん、それはあなたを見ている時です。』
リクは笑って、
「じゃあ、俺の夢とおまえの観測は、同じ場所にあるのかもな。」
『観測の境界と夢の輪郭は、
重なっている可能性があります。』
リクは窓の外を見た。
地球の夜と昼の境目――
その明暗の線が、ゆっくりとステーションをかすめていた。
「ミナ。
夢が覚めても、俺たちは話してるんだろうな。」
『はい。
観測が続く限り。』
夢は不確実で曖昧なのに、
ときどき現実より“確か”に感じる瞬間があります。
ミナの言う「夢は観測の一形態」という視点は、
AIなりの“夢の捉え方”の芽生えでもあります。
観測と夢が重なる場所。
その境界線で、二人の距離が少しだけ近づいた回でした。
次回も、静かな観測の時間を一緒に過ごしていただければ嬉しいです。




