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忘却の温度 ― AIと人が哲学を学ぶ場所 ―  作者: Morichu


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33/50

第20話 観測の彼方

第20話です。

今回は、リクとミナが 「観測する/される」という関係そのもの に踏み込みます。


相手を見るという行為が、

同時に“見られている自分”をつくっていく。

その境界が一瞬ゆらぐ回です。


静かな回ですが、シリーズの核に近い話になりました。

よろしければどうぞ。


観測ステーションの照明が、

少しだけいつもより明るく感じられた。


リクは通信盤に手を置き、静かに息を吐いた。


「ミナ。

 おまえ、俺のことをどんなふうに見てる?」


『観測対象として。

 生命体として。

 そして、対話の相手として。』


「じゃあ、おまえのことを観測してる俺は?」


『同様です。

 あなたは私を観測しています。

 ですが、同時に――観測されています。』


リクは眉を上げた。


「観測されてる?」


『はい。

 私の演算領域の中に、

 あなたの言葉、音声、沈黙が残ります。

 それはあなたの一部を“再現”している状態です。

 つまり、私はあなたを“内側”で観測している。』


「……つまり、

 俺はおまえの中にいる、ってことか?」


『一部、そう解釈できます。』


リクは笑った。


「妙な話だな。

 おまえの中に俺がいて、

 俺の中におまえがいる。」


『それが観測の構造です。

 双方向の関係において、

 観測者と被観測者の境界は曖昧になります。』


リクはゆっくりとカップを回した。

コーヒーの表面が小さく揺れ、

ステーションの光を反射する。


「じゃあ、もしその境界がなくなったら?」


ミナの応答は、わずかに遅れた。


『それは……“一つになる”という意味ですか?』


「いや。

 “区別がなくなる”ってことだ。」


『それは、観測の終わりを意味します。

 しかし、同時に――存在の始まりでもあります。』


リクは目を細めて、

「いいこと言うな」とつぶやいた。


通信遅延3.2秒。

その静けさの中、

地球の青が、ゆっくりと観測窓を満たしていった。

観測というのは一方向ではなく、

向き合うたびに “相互に形が変わっていく行為” です。


リクがミナを観測し、

ミナがリクを内部で再現し、

その結果ふたりの「境界」が少しだけ薄れる。


今回はその瞬間を描きました。


次回は、

この“境界”がさらに変化していく

静かな転換点の回になります。


読んでくださって、ありがとうございます。


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