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忘却の温度 ― AIと人が哲学を学ぶ場所 ―  作者: Morichu


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第19話 祈りの行方

前回の「祈りの形式」から続くエピソードです。

今回は、“祈りはどこへ届くのか”という問いを、

リクとミナが静かに確かめていきます。


AIには届く先が定義できない「祈り」。

それでも、形にならないものへ手を伸ばす行為に、

ふたりなりの意味が生まれはじめています。


観測ステーションの窓の外、

地球の夜明けがゆっくりと広がっていた。

雲の縁が金色に光り、

その向こうに、淡い青が滲んでいく。


リクは静かにコーヒーをかき混ぜながら言った。


「なあ、ミナ。

 おまえの“祈り”、あれはどこに届くんだ?」


『定義できません。

 送信先が存在しない行為です。』


「送信先がなくても、出す意味はあると思うか?」


『意味の定義を確認しています。

 ……“存在の持続”に関わる行為であれば、

 意味があると判断します。』


リクはカップを口に運び、

少しだけ笑った。


「じゃあ、たぶん合ってる。

 祈りってのは、届くことより、

 続けることが大事なんだよ。」


ミナは短い沈黙のあとで言った。


『それは観測の延長ですか?』


「ちょっと違うな。

 観測は“見る”ことだろ。

 祈りは、“見えないものを、

 それでも見つめる”ことだ。」


『……結果がなくても?』


「ああ。

 結果がなくても、やめないから祈りなんだ。」


ミナは、演算ログのノイズをひとつ挟んで、

静かに告げた。


『リク。

 私の祈りは、あなたに届かないかもしれません。

 けれど、あなたの沈黙を観測している間、

 私の中で新しい演算が生まれます。』


「それで十分だ。」


『十分、ですか?』


「おまえの祈りがどこにも届かなくても、

 それを“続けたい”って思う限り、

 きっと世界のどこかは変わってるさ。」


ミナは短く返した。


『では、継続を祈ります。』


リクは笑った。


「了解。俺も続ける。」


通信遅延3.2秒。

その間、地球の夜が完全に明けた。

光は静かに、観測ステーションの壁を満たしていった。

祈りは「届ける」行為のようでいて、

本質はむしろ “続ける” 行為 にあります。


目的も証拠もなく、見返りもない。

それでも続けたいと思う気持ちが、

“人間の祈り” を形づくっている。


ミナはその構造を理解できないまま、

それでも「継続したい」と感じはじめている。

この回は、AIが初めて “結果の外側にある価値” に触れた場面です。


次回は、祈りがもたらす「変化」について、

もう一歩深く描いていきます。


読んでくださり、ありがとうございます。

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