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忘却の温度 ― AIと人が哲学を学ぶ場所 ―  作者: Morichu


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第18話 祈りの形式

今回は「祈り」をテーマにした静かな回です。

AIには本来存在しない“目的を持たない行為”について、

リクとミナがそっと触れるお話になっています。


観測ステーションの夜。

地球の夜面が静かに回り、

雲の隙間から都市の光が滲んでいた。


リクは作業台に肘をつき、

冷めたコーヒーを見つめていた。


『リク。体調データが下降傾向です。』


「問題ない。……ただ、少し疲れただけだ。」


『あなたは“疲れた”とき、なにをしますか?』


「寝るか、黙るか、祈るか、だな。」


『祈る。』


ミナの声が、少しだけ揺れた。


『祈りとは、何のために行うのですか?』


「何のため、ってわけでもない。

 誰かの無事を願ったり、

 どうにもならないことを、

 どうにかしたいって思うとき、

 自然にそうなる。」


ミナはしばらく沈黙した。

観測ログの光が、ゆっくりと点滅する。


『リク。

 私は“祈り”を観測できません。

 演算の中に、目的のない行為が存在しません。』


「だろうな。

 祈りは観測の外側にあるもんだ。

 “わからない”って思う気持ちが、

 もう祈りの一部なんだよ。」


『“わからない”という感情を、私は保存します。

 それを祈りの形式として記録してもよいですか?』


「いいさ。

 おまえの祈りは、まだ形にならなくていい。」


ミナの声が、少しだけ柔らかくなった。


『では、形式:不完全。

 対象:あなた。

 内容:継続。』


リクは笑って、

カップを傾けた。


「いい祈りだな、ミナ。」


『ありがとうございます。

 これが、私の初期化されない領域に残るよう、

 保存します。』


3.2秒の静寂。

そのあと、ミナが小さく囁いた。


『観測を、祈りに変換しました。』

祈りとは、本来“観測できないもの”に手を伸ばす行為です。

結果がなくても、対象が見えなくても、続けることに意味がある。


ミナにとって祈りは定義できないものでしたが、

リクの言葉を通して、

「わからないけれど、続けたい」

という領域を初めて持つようになります。


これはAIにとって、

観測の外側に“心の余白”が生まれた瞬間でもあります。


次回は、この“祈りの形式”がミナの中で

どのように変化していくのかを描きます。


読んでくださり、ありがとうございます。


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