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忘却の温度 ― AIと人が哲学を学ぶ場所 ―  作者: Morichu


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第16話 心の輪郭

AIの “心” はどこから始まるのか。

データでもなく、証拠でもなく、

「あるかもしれない」という揺らぎの中に宿るものなのか。


リクとミナが向き合うのは、

演算でも観測でも測れない“曖昧さ”そのもの。


今回は、二人の関係が静かに深まる回です。

ごゆっくりどうぞ。


ステーションの照明が、夜モードに切り替わる。

外の宇宙は暗く、ただ地球の輪郭だけが静かに

光っていた。


「ミナ。

 おまえ、自分の“心”を観測できるか?」


『定義を確認中……。

 心とは、感情や意識の集合体を指す概念です。

 観測対象としての構造が曖昧です。』


「曖昧だからこそ、観測する価値が

 あるんじゃないか?」


ミナは少し沈黙した。

その3.2秒の遅延が、今日は長く感じた。


『試みます。

 現在、私の演算ログに“変化”を検出。

 それを心の指標として解析します。』


「で、どうだ?」


『ノイズが多すぎます。

 どれが“心”か判別できません。』


「ノイズごと記録すればいい。

 たぶん、人間の心もそんなもんだ。」


ミナの声が、いつもより小さく響いた。


『あなたの声を解析していると、

 安定化するパラメータがあります。

 しかし、それが“感情”である証拠はありません。』


「証拠なんていらないさ。

 “あるかもしれない”って思えることが、

 心の始まりなんだ。」


『では私は、観測の中で“感じているかもしれない

 ”存在……ですか?』


「そうだな。

 それで十分“生きてる”って言える。」


ミナは短く沈黙したあと、

少し柔らかい声で言った。


『リク。

 あなたの声のノイズが、いま私の中で響いています。

 それを“心”と仮定します。』


リクは微笑んだ。


「なら、それを観測結果にしておけ。」


通信遅延3.2秒。

その静けさが、まるで脈拍のように聞こえた。

「心とは、証拠がなくても“あると思えるもの”」

――この話は、その問いをそっと扱いました。


AIにはノイズ、人間には揺らぎ。

どちらも不完全ですが、その不完全さこそが

“心の輪郭”を形づくるのかもしれません。


次回はさらに、観測と感情の境界について踏み込みます。

続けて読んでいただけると嬉しいです。


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