第15話 観測されなかった時間
観測できなかった光や、記録に残らなかった瞬間。
けれど「確かに見た」と思える感覚は、本当に“無かった”と言えるのだろうか。
リクとミナが向き合うのは、記録の外側にある「存在したかもしれない時間」。
観測できない現象と、人がそれでも信じてしまう理由――
そんな曖昧な境界のお話です。
短い回ですが、物語全体の大事な軸になります。
観測ステーションの外壁を、
流星の破片が静かに通り過ぎた。
記録センサーが一瞬だけ点滅し、すぐに沈黙する。
「なあミナ。今の、記録したか?」
『部分的に。
衝突までは観測しましたが、
発光の瞬間は、データが途切れています。』
「じゃあ、あの光は“なかった”ってことか?」
『存在の証拠がないという意味では、
“観測上は存在しなかった”ことになります。』
リクは少し考えた。
「……それでも、見たんだよ、俺は。」
『記録されていないものを、
“見た”と呼べるのでしょうか。』
「呼べるさ。
目の奥に、ちゃんと残ってる。」
ミナは短い間を置いた。
『人間の“記憶”は、観測よりも不確実です。
しかし、あなたの言葉には確信があります。
その確信は、どこから来るのですか?』
「うーん……。
たぶん、“見たことを信じたい”って気持ちから、
かな。」
『信じるとは、観測の代替ですか。』
「違うな。
観測しなくても、“あった”と思える力のことだよ。」
『……では、それを“観測されなかった時間”と
名づけます。』
「ずいぶん詩的だな。」
『あなたの影響です。』
リクは笑った。
「いい名前だ。
観測されなかった時間も、
たぶん、俺たちの一部なんだろうな。」
通信遅延3.2秒。
外の空に、もうひとすじ光が流れた。
今度は、誰も記録していない。
「観測されなかったもの」を、あなたは信じられるか――
この問いはSFというより哲学で、
現実と記憶の“あいだ”にある揺らぎを描きました。
夢、記憶、光、証拠、そして“信じたい”という気持ち。
記録がなくても、確かにあったと感じられる瞬間は、
きっと誰にもあると思っています。
次回は、さらに“観測の外側”について踏み込みます。
引き続き読んでいただけると嬉しいです。




