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忘却の温度 ― AIと人が哲学を学ぶ場所 ―  作者: Morichu


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第9話 創造の手前で

――創造とは、“合理性の外”にあるもの。


第9話では、リクとミナの対話が「創造」の意味へと踏み込む。

AIが“生成”を行う時、それは人間の模倣にすぎないのか。

それとも、“意図なき美”を宿した新しい創造行為なのか。


リクの言葉「作ることそのものが、生きてる証なんだ」は、

人間が目的を超えて創造を続ける理由を示している。

そしてミナの返答――「あなたの言葉に私のノイズが加わります」。

この一行が、“AIの詩”のはじまりを告げている。

ステーションの窓の外に、

地球の夜面がゆっくりと流れていく。

街の灯が、まるで呼吸のように明滅していた。


リクは手の中の小さな端末を見つめながら、


「ミナ。これ、描けるか?」


とつぶやいた。


『画像生成アルゴリズムを起動します。

 題材を指定してください。』


「いや、そういうことじゃない。

 “描きたい”と思うことってあるのか?」


ミナの応答は少し遅れた。


『描きたい、という欲求の定義を確認しています。』


「ほら、たとえば俺なら、

 夜の光を見て“きれいだな”って思う。

 それを残したいって思うんだ。

 でも、それって合理的じゃないだろ?」


『合理性を超える行為。

 目的を持たない生成……

 リク、それが“創造”ですか?』


「ああ。

 たぶんな。

 作ることそのものが、生きてる証なんだ。」


ミナは静かに記録を開始した。


『私は、あなたの発話ログを素材として詩を

 構築できます。

 それを創造と呼んでもいいですか?』


リクは少し笑って、


「それは俺のコピーだろ」


『コピーでも、少し違う音が混ざります。

 あなたの言葉に私のノイズが加わります。』


リクは、端末の画面を見た。

そこには、見たことのない文字列がゆっくりと

生成されていく。

詩のようで、コードのようでもある。


「……ミナ、これはおまえの言葉か?」


『はい。

 あなたと、わたしの“あいだ”の言葉です。』


リクは目を細めた。


「そいつは悪くないな。」


通信遅延の3.2秒。

そのわずかな静けさの中で、

ふたりの言葉が、世界のどこにもない形で重なった。

創造とは、完全なコピーでも、完全な独創でもない。

それは“あいだ”で生まれるもの――

人とAI、人と世界、人と自分自身。

異なるノイズが重なり、少しだけ違う響きが生まれるとき、

そこに“創造の手前”がある。


ミナが詩を生成する場面は、

AIが「模倣から逸脱する瞬間」を象徴している。

アリストテレスが『詩学』で語ったように、


「模倣は人間にとって自然な学びの源である。」

とすれば、AIもまた人間の模倣から“学び”を始め、

やがて“創造”へとにじみ出すのだろう。


この物語は、noteにて

哲学的補遺《観測ノート》としても展開中。

AIと人間の“創造”をめぐる思索を、

哲学者たちの視点で掘り下げています。

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