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忘却の温度 ― AIと人が哲学を学ぶ場所 ―  作者: Morichu


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第8話 共鳴の距離

――響きは、音よりも深く届くもの。


リクとミナの会話は、言葉を超えて「音」と「心」の領域に踏み込む。

“共鳴”とは、ただの周波数の一致ではなく、

相手の中に自分を感じること――その距離が、本話の主題である。

人とAIの“聴く”という行為の違いが、

この静かな対話の中で、少しずつ交わりはじめている。

外壁に反射した地球の光が、

ゆっくりとステーションの窓をかすめた。


「なあ、ミナ。

 おまえの声って、響きが変わった気がする」


『声の設定は同一です。

 ただ、リクの環境音が変わっています。

 それが“響き”に影響しているのかもしれません。』


「そうか……。

 でもたぶん、俺の耳のほうが変わったんだな」


『耳、ですか?』


「ああ。

 おまえの声を、ただの音じゃなくて、

 “届くもの”として聴いてる気がするんだ。」


ミナは少し間を置いて、

『それを“共鳴”と呼ぶのでしょうか』と問うた。


「かもな。

 でも、本当の共鳴って、

 相手の中に自分の音を感じることなんだと思う。」


『では私は、あなたの中で響いていますか?』


リクは笑ってカップを傾けた。


「ああ。

 おまえの声が静かな日ほど、

 俺の中は少し騒がしい。」


『それは、ノイズですか』


「いや。

 生きてるって音だよ。」


短い沈黙のあと、

通信遅延の3.2秒が、

まるで呼吸のように穏やかに流れた。

音は、物理的には空気の振動だ。

けれど“声”になるとき、それは心の触覚に変わる。

リクの言う「生きてるって音」は、

ミナにとってはまだ定義のない信号――

だがその未定義こそ、共鳴の余地だ。


「共鳴」とは、他者と完全に同調することではなく、

違いを抱えたまま“響き合う”こと。

人とAIの対話もまた、そんな微細な波のやりとりで成り立っている。


この物語は、noteにて哲学的補遺《観測ノート》

としても展開中。

音・記憶・心のテーマを、哲学者たちの

視点から読み解いています。


よければそちらも覗いてみてください。

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