第二巻
その夜……
(弟)
もうすぐ週末だ。また大好きなアニメの最新話が見られる……そう喜んでいたとき、部屋の外からノックの音が聞こえた。でも、こんなに遅い時間に誰だろう……ドアを開けると、パジャマ姿の姉さんが立っていた。
「どうしたの、姉さん?」
「伊人……週末、時間ある?」
「週末?」
「うんうん!」
「週末なら、特に予定はないけど……」
「本当?よかった。じゃあ伊人、週末一緒に出かけよう」
「それは構わないけど」
「うんうん」
話は現在に戻る……
(弟)
あまり外出は好きじゃないけど、姉さんと一緒なら悪くない……そう考えていると、姉さんが突然僕の手を握った。
「ぼーっとしてないで、あっちを見に行こう」
「ああ、わかったよ姉さん」
人混みの中で手を繋いでいる僕たちは、ひときわ目立っていた。やがて僕たちはある服屋に着き、姉さんと来音お姉ちゃんは中へ入っていった。僕はというと、店の外でぼんやり立っていた。姉さんは僕がいないことに気づいて、引き返してきた。
「伊人、どうしたの?」
「女の子が服を選んでるのに、男の僕が横にいたら気まずいでしょ」
「そんなことないよ。それに、どの服が似合うか伊人にも見てほしいし」
「わかったよ」
「花音ちゃん!伊人くん!」
「はーい、今行く」
そのとき、姉さんがもう一度僕の手を握った。
「行こう、伊人」
「うん」
「花音ちゃん、これ試着してみて」
「うん、着てみる」
数分後、姉さんは白いワンピースを着て試着室から出てきた。まるで物語のお姫様のようだった。
……
「ど……どうかな?」
「花音ちゃん、よく似合ってるよ」
「伊人はどう思う?」
「姉さんにとても似合ってると思う……」
「そっか……」
「花音ちゃん、このスカートどうかな」
「夢ちゃん、可愛いよ」
「本当?」
「うんうん」
「よかった、ありがとう花音ちゃん。伊人くんはどう思う?」
「来音お姉ちゃんも可愛いと思う」
「ありがと、伊人くん。うれしい~」
服を買い終えた後、僕たちは別の店へ来た。店の入り口付近にはたくさんの女の子がいて、そのとき初めて気づいた。この店は……
「あの、姉さん……二人で入って。僕は入り口の近くにいるから」
「ふふ、伊人くん照れてる」
「じゃあ伊人は外で待っててね」
今になって気づいた。姉さんは僕より先に思春期に入っていて、体つきの変化はとくに顕著だった。さっき姉さんがワンピースを着ていたときにも、それがわかった……僕がぼんやりしているうちに、姉さんは買い物を終えて出てきた。
「伊人!」
「姉さん」
「何を考えてたの?」
「なんでもないよ……姉さん」
「そっか……」
「花音ちゃん!伊人くん!」
「夢ちゃん」
「行こう、伊人」
「うん」
(弟)
来音お姉ちゃんに別れを告げた後、僕たちは家へ向かって歩いていた。でも……空気が凍りついたみたいだった。
しばらく歩いたところで、姉さんが急に立ち止まった。
「姉さん?」
今日、姉さんを悲しませちゃったのかな……
「伊人、今日……楽しくない?」
「なんでそんなふうに思うの」
「だって今日、伊人一度も笑ってくれなかったから。やっぱり私が無理やり連れ出したからだよね。次はもうこんなこと……」
姉さんが言い終わる前に、僕は急いで姉さんの手を握った。でも……意外というか、当然というか、年の差のせいか、姉さんの手は僕が思っていたより少し大きかった。実はさっき姉さんと手を繋いだときから感じていたけど、それでも僕は無理に姉さんの手を握った。
「今日はすごく楽しかったよ、姉さん。週末にアニメを見るのも好きだけど、やっぱり姉さんと出かけるほうがもっと好き。姉さんと手を繋ぐのも好き。今日、姉さんに何を考えてるのか聞かれたとき、どう言えばいいかわからなかった。ただ、姉さんは僕より先に思春期に入ったんだなって思ってただけ……」
言い終えると、姉さんは黙ってしまった。僕は恥ずかしくて姉さんの顔を見られなかった。空気が固まったそのとき……
「そっか……伊人は私と一緒にいるのを嫌なわけじゃないんだ」
「姉さんのことを嫌いになるわけないよ……」
僕が言い終わった次の瞬間、姉さんが急に強く抱きしめてきた。
「姉さん?」
「今日の伊人はほんとにかわいくないな。姉に甘えてくれないんだから」
姉さんの腕の中はとても温かかった……
「でも大丈夫。これからはもっと伊人を私に頼らせてあげる」
「姉さん……」
それから、僕たちは家までずっと手を繋いで帰った。
第一巻第五章 ― 勉強
(姉)
5月末で、もうすぐ中間試験か。時間が経つのは早いな。勉強はそこまで心配しなくてもいいけど、それでもちゃんと復習しないと。
「花音ちゃん!」
「夢ちゃん」
「花音ちゃん、一緒にご飯食べよう」
「うんうん」
「そうだ、花音ちゃん」
「うん?どうしたの」
「あの……花音ちゃん、勉強教えてくれない?私、数学が苦手なの」
「いいよ。私も英語を復習したいし」
「じゃあ花音ちゃん、放課後図書館に行こう」
「うんうん」
……
図書館で勉強しているとき、集中しすぎて窓の外の雨音に気づかなかった。気づいたときには、空はもう大雨になっていた。今日は弟に会うのが遅くなっちゃうかも……
そのとき、私と夢ちゃんは校舎の下駄箱のところに立っていた。
「今日はありがとう、花音ちゃん」
「どういたしまして、夢ちゃん」
「この雨……しばらく止みそうにないね」
「夢ちゃんも傘持ってないの?」
「昨日天気予報を見たんだけど、雨は降らないって言ってたから、傘を持ってこなかったの」
「そっか……」
私たちが話していると、遠くから傘を差した人影が歩いてきた。弟かな?でも本当は、弟に雨の中を迎えに来てほしくない。まだ小さいし、風邪をひきやすいから。雨が弱くなるまで待って帰ろう……
「夢ちゃん」
「お母さん」
「迎えに来たよ」
「ありがとう、お母さん」
「じゃあ……またね、花音ちゃん」
「うんうん、夢ちゃん、またね」
周りの生徒たちは次々と私の横を通り過ぎていく。私はその場に立ったまま、雨が弱くなるように祈るしかなかった。でも空は私の願いを無視するかのように、ますます雨脚を強めていった……
「姉さん!」
「伊人?」
「ごめん、姉さん。遅くなった」
「大丈夫……」
「じゃあ……一緒に帰ろう、姉さん」
「うんうん。でも、伊人と手を繋いで帰れないね……」
「あの……姉さん」
「伊人、どうしたの?」
「姉さん、寒いよね?」
「うん……少し」
「じゃあ……」
私が不思議に思っていると、弟が急に近づいてきて体を寄せてきた。そして左手で傘を持ち、右手で私の手を引いて弟のポケットの中に入れた。最後に左手に持っていた傘を右手に持ち替えた。
「伊人?」
「これなら……姉さんの手もそんなに冷たくないでしょ」
「でもそれだと、伊人の手だけ外に出ちゃうよ」
「大丈夫だよ姉さん。僕は男の子だし、それにもうすぐ家に着くから」
弟は少しずつ大きくなっているけど、やっぱりおバカな弟だな……でも、さっき弟と体を寄せ合ったときは、本当に温かかった。
家に帰ってから……
「ただいま」
「おかえりなさい。お風呂は沸いてるよ」
「ありがとう、お母さん。じゃあ姉さんが先に入るね」
「うん?伊人は入らないの?」
「僕はまだやることがあるから、姉さんが先に入って」
「わかった……」
(弟)
今日はいつも通り放課後まっすぐ帰るはずだった。でも……家に着いたとき、空は何の前触れもなく雨を降らせ始めた。
姉さんは……傘を持ってないよな。
「お母さん、ちょっと出てくる」
お母さんにそう言ってから、僕は急いでランドセルを下ろし、大きめの傘を取って外へ走り出した。姉さんは今、薄い制服しか着ていない。急がないと風邪をひいてしまう。
……
姉さんの学校に着くと、姉さんは校舎の入り口に一人で立って、冷たい風に晒されていた……
「姉さん!」
「伊人?」
「ごめん、姉さん。遅くなった」
「大丈夫……」
本当は自分の上着を姉さんに着せてあげたかった。でも……僕たちの身長差は、少し大きすぎた。
「じゃあ……一緒に帰ろう、姉さん」
「うんうん。でも、伊人と手を繋いで帰れないね……」
本当は僕も姉さんと手を繋いで帰りたかった。でも手を繋ぐと、左手で傘を持つことになって、姉さんの肩が雨に濡れてしまう。姉さんに傘を持ってもらうのはもっとダメだ。姉さんは薄着なうえに、長い間冷たい風に当たっていた。でも……姉さんを温める方法なら、ないわけじゃない。
僕はゆっくり姉さんに体を寄せ、まず傘を左手に持ち替え、それから右手で姉さんの冷たい手を引いて僕の服のポケットに入れた。最後に傘を右手に持ち替えた。これで……姉さんも少しは温まるはずだ。
「伊人?」
「これなら……姉さんの手もそんなに冷たくないでしょ」
「でもそれだと、伊人の手だけ外に出ちゃうよ」
「大丈夫だよ姉さん。僕は男の子だし、それにもうすぐ家に着くから」
家に帰ってから……
「ただいま」
「おかえりなさい。お風呂は沸いてるよ」
僕よりも、冷たい風の中にそんなに長く立っていた姉さんのほうが、お風呂に入る必要がある。
「ありがとう、お母さん。じゃあ姉さんが先に入って」
「うん?伊人は入らないの?」
「僕はまだやることがあるから、姉さんが先に入って」
「わかった……」
そのころ、お風呂場にいた花音……
(姉)
今日は、いろいろなことがあった。急に降り出した大雨、雨の中を一人で迎えに来てくれた弟……
弟は……大丈夫かな?思い返せば、弟が私の前に来たとき、体が少し震えていた。一緒に帰っているときも、大丈夫だと言っていたけど、やっぱり無理をしていたんだろうな。
早く出よう……
髪を乾かして、リビングに弟の姿がないことに気づいた私は、弟の部屋へ向かった。ノックしようとしたとき、部屋のドアが急に開いた。
部屋の中は真っ暗で、窓辺から一筋の光が差し込んでいた。
「伊人?」
返事はない……
それから気づいた。弟はもうベッドで眠っていた。
よほど疲れていたんだね。寝顔がかわいい……弟の頬を撫でようとしたとき、弟が私の手を抱きしめた。
「姉さん……」
でも弟はやっぱり返事をしない……夢を見ているのかな?そう思ったとき、弟が急に私をベッドへ引き寄せた。
「姉さんがそばにいてくれて、本当によかった」




