13.採掘の成果
1時間ほど経過したあたりで、突如、土壁の一部が崩れ落ちた。
「うわっ。あ、ど、どうも」
崩れた壁には、人が通れるほどの穴が空いてた。
穴の向こう側から、ゴーグルを頭にかぶった金髪の若い女性が顔を出す。
飛空艇乗りを思わせる、袖と裾の締ったボアジャケットにタイトなパンツスタイル。
ユイトのすぐ横の壁を掘りぬいたのは他のプレイヤーだった。
「あ! ごめんなさい! 近くに他の人がいるの気が付きませんでした!」
「す、すぐに埋めます!」
慌てて開けてしまった穴を埋めようとする女性。
「あ、だ、大丈夫ですよ。どうせ明日になったらもとに戻るから、そのままでも……。あの、ボクは反対側を掘れば大丈夫なので、気にせず続けてください」
「ありがとうございます。私、今日がヨル鉱初めで、まだうまくできずに」
「おお、俺も今日が初めての掘削体験だよ。どうだい、ユイト君。俺はそこそこ慣れてきたから、そちらの方も手伝ってあげたら」
「え? い、いいえ、ボクがお邪魔しちゃ悪いですよ」
ゲームは必ずしも手伝うことが正解ではない。
それぞれのペースで進む楽しみ方を知っているユイトは、丁寧に断る。
断った後、スコップを手に一心に土壁を掘るマークスの姿を一瞥。
マークスの言葉も一理あるなと、でしゃばりすぎないように気を付けつつ、女性にできるだけ控えめな声で話しかけた。
「あの、でも、困ったことがあったら遠慮なく言ってください。一応慣れているので」
「あ、ありがとうございます! そうだ! あのう、実はこんな鉱石が採れたんですけど、用途がわからなくて……。何に使うんでしょうか?」
貫通した穴越しに赤い宝石を見せる女性プレイヤー。ユイトはすぐさま答えた。
「あ、これはロードナイトです。これで作るアクセサリーとかはAIを含めた仲間全員の体力を少し上げてくれるから、序盤に持っていると便利ですよ。売るのもありです」
「ええ、そんな効果が……。使えるのかわからなくてさっき捨てちゃいました。あの、こっちは……」
「あ、これはレアですね。普通の鉱石の10倍近くで売れるので……」
何を聞かれても即答するユイトに、女性は次々と質問を投げかけた。
「ほほー、ユイト君、やるじゃないか。ゲームのネタだと饒舌になるのもいいねえ。さあ、おじさんはこっちでアバタースキル上げといきますか」
女性プレイヤーが空けた穴はそのままに、ユイト達は鉱石採取を続けた。
このあとさらにもう1パーティが壁を貫通させてしまったが、同じようにユイトは対応した。
「この鉱山は初心者向けなので、はじめて来る人けっこう多いんです。こんなに会話をしたのは初めてですけど」
と、ユイトはマークスに教えてくれた。
気が付くと日が傾いている。赤く染まる空に、マークスは疲労を感じて手を止めた。
「ふう、これだけ集まればいんじゃないか?」
ブルークリスタルは10個ほど手に入った。
失敗するのを込みで考えても余裕のある数だろうとマークスは頷く。
一緒に掘っていた他プレイヤー達もすでに帰ったあと。
「そうですね。これだけあれば十分です。今日はひきあげましょう」
「いやー、やっと穴倉生活ともおさらばだ! 町へ戻ろう!」
「あはは、ベグゲームを続けていると、何日も泊まり込むような本格的な穴倉生活クエストもありますよ」
ユイトの言葉に、露骨に嫌な顔をするマークス。
滑らかな表情の変化にユイトが驚く。
「うわ、マークスさん表情変えるの早くなりましたね。今のすごくスムーズでしたよ!」
「……疲れているから、自然と無駄な力が抜けたのかもねえ」
マークスは疲れた表情で笑った。




