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12.ヨル鉱山へ

 ユイトとマークスはその足で、サンドアイズから目と鼻の先の距離にある鉱山へ向かった。

 サンドアイズから出る道にはすぐに枝分かれしており、その道を右側に進む。

 分かれ道にはヨル鉱山の看板。

 看板に従い別れた道を進むと、小さな丘を越える。

 そこは四角い穴だらけの荒野が広がっていた。


「へえ、地下鉱山か。アフリカのダイヤモンド鉱山みたいだね。しかし、これはそこらじゅう穴だらけだけど、看板がなければ鉱山があるなんて気が付かないな。ただの荒野だ」

「そうですね。しかもここ、1日経つと元に戻るんですよ」

「もとに戻る? ……ああ、あれか、俺が突っ込んでしまった売店」

「そうです。あの時と違うのは、こういったフィールドにある採取可能な場所は、1日1回、朝の5時に状態がリセットされます」

「朝の5時、深夜労働が終わる時間なのかね。……よくわからないけど、0状態に復帰させるってことで、掘削跡が消えてまっ平らな荒野に戻る、とか?」

「おお……その通りです。マークスさんって、すごいですね。ゲームに詳しくないのに、理解が早いというか……」

「技術的なことがわからなくも、概要やら仕組みやらを理解するのは得意だからね。管理職だからできて当然さ。はっはっは」

「管理職……なんかすごそうです」

「まあまあ、それは冗談として。今はこっちが優先だ。さて、どうすればいい?」

「簡単です。こんな感じでショベルを使えばさくさく掘れますよ」


 ユイトは空中からショベルを取り出し、おもむろに地面に刃先を突き立てる。

 足掛けに乗せた体重で刃先は深々と地面に突き刺さり、取っ手を地面に降ろし、テコの原理で土を掘りだした。


「おお、相変わらずアバター操作が滑らかだな。俺にもちょっとやらせてくれ」

「いいですよ、どうぞ」


 ユイトからショベルを受け取る。

 ショベルを手にした感触と重さがリアルに伝わってきた。


「実際のショベルよりは軽く感じるが、これは不思議な感触だ……うん、うん? やっぱり全然うまくいかないな!」

「アバター操作は慣れしかないので、根気よく行きましょう」

「お、おう」


 地道なアドバイスを受けて、マークスはへっぴり腰でショベルをふるう。


「生身と違って、ぎっくり腰の心配がないのはありがたいな」

「? そうですね?」


 ピンと来ない表情の若者ユイト。

 マークスは彼の言う通りひたすらショベルをふるい続けた。

 はじめは不自然なまでに真っすぐだった腰がだんだんと、曲がり、伸びてと動くようになり、肘も動きに合わせて曲がるようになってきた。


「おっと、肘が動くようになったから、やっと掘った土を遠くに飛ばせる。これは明確な成長じゃないか?」


 相変わらず表情が固いままだが、マークスは笑った。


「はい、めちゃくちゃうまくなってます。ボクなんて最初の1日はまともにショベルを掴めませんでしたよ」

「はっはっは。ユイト君は褒めるのがうまいなあ! 体が疲れないからずっと続けられるぞー!」


 調子に乗ったマークスは言葉の通り延々と地面を掘り続けた。

 次第に体がすっぽりと地面に埋まり、真下ではなく斜め下方向へ進路を変更していく。


「明かり、つけておきますね」

「どういう原理かはわからないけど、気が利くねえ。助かるよ」


 茶色いマーブル状の土層断面に、ユイトの設置した明かりが灯った。

 柔らかな乳白色の明かりが、ランプのように揺らめいていた。

 最初から掘り始めて3時間ほど経過すると、穴の深さは5m近くまで到達していた。

 大きく息を吸い、後ろを振り向くと地面が階段状に加工され等間隔で明かりが灯されている。


「やるねえユイト君。掘るのに夢中で、後ろのフォローに気が付かなかったよ」

「え? いいえ、これくらいお安い御用です。さあ、そろそろ見えてくるころ……あ、ありましたよ、マークスさん」


 ユイトはマーブル状の土層の一部を指さす。彼の指先には、青白く光る鉱石が土に埋まっていた。


「おー! はやくもクリスタルゲット!」

「はい、どうぞ」


 ショベルで掘りかかろうと構えたマークスに、ユイトが片手サイズのスコップを手渡す。


「ガッと掘るわけにはいかないのか……」

「鉱石が土から見えたらスコップで慎重に掘りましょう。岩盤とかでの採掘にはハンマーやツルハシ、爆薬を使いますが、ここならショベルとスコップだけで十分なので。うまくいけば拳サイズのブルークリスタルがごろごろ採れますよ」

「よっし、任せろ。スコップね……。こいつで土壁を……お、なんだこれ、思ったよりも……難しいな! 近くに行ったらオートで動いてくれてもいいんだぞ! もう少しアバター操作をアシストしてくれ!」


 狙った位置にスコップが刺さらず、上下左右に切っ先はずれてしまう。


「ユ、ユイト君、これも……」

「アバター操作は慣れしかないので、根気よく行きましょう」

「はーい」


 救いの目をものともしない冷静なユイトの言葉に、マークスは素直に土層面に向き直る。

 ここでも地道な作業の繰り返し。なんとかうまく掘り出せたのは30分後だった。


「きたきた! 確かに拳サイズのブルークリスタル! クラスターで取れるとは嬉しいね!」


 掘り起こされたブルークリスタルの結晶をマークスは誇らしげにかかげる。


「おめでとうございます。はじめての鉱石採取クリアですね! 無くさないようにアイテム入れにしまっておきましょう。画面の右下に革袋みたいなアイコンがあるので……」

「あ、これか。よしよし、ブルークリスタルを手に入れたぞ」


 視界内のアイコンをノックすると、手にしていたブルークリスタルが光の帯を残しながらマークスの腰に下げられた革袋に吸い込まれた。


「おおー、いかにもゲームな動きで面白い。よし、じゃあさっそく戻って加工に入ろう」

「あ、いえいえ。まだですよ。1個だけじゃダメです。素材が1つじゃ、失敗したときにやり直せません。またここまで採りに来ることになりますよ」

「お、そうか。一発でうまくいくとは限らないもんな。なにしろ加工やらなにやらは初めての経験だ……」


 明らかに肩を落とすマークスに、ユイトは首を傾げた。


「どうかしましたか? マークスさん」

「ん? いや、掘るのに体は疲れないが、これがなかなか神経を削ってね。うん、気合を入れてもうひと頑張りだ」

「はい、頑張りましょう。ボクも手伝いますよ」

「ほんとか! いやー有難い。ほんとに有難いよ」


 心底嬉しそうなマークスとユイトは、少し離れた場所に並んで土壁に埋もれた鉱石を掘った。

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