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11.マークスの挑戦

「ボクは剣をおすすめできません。失敗する可能性が……あ、いや……」

「ええ、そうかい? かっこいいのに」


 肩を落とすジャラシュ。

 マークスは静かな口調で訊ねる。


「理由があるんだね。ユイト君の考えを聞かせてくれ」


 ちらりとマークスの目を見ると、ユイトは丁寧に答えた。


「はい。剣だと、材料である金属の調達と、鉱石を純粋な鉄にする製鉄作業、そこから鍛造とか研磨とか。とにかく剣は作業がたくさんあって大変なんです」

「あー! それはキツイ!」


 大げさに天を仰ぐジャラシュ。


「あ、あの、なので、剣はちょっと……」


 結論段階で言葉に詰まるユイトの様子に、マークスは昨日の出来事を思い出していた。

 彼は失敗に対してデリケートだ。


「ユイトの考えはわかった。つまり、剣を選ぶと作業工数がたくさんある上に、複雑だってことだ。初心者がやれば失敗しやすい、と」


 マークスの言葉にうなずくユイト。

 腕を組んで悩む姿勢のジャラシュが何かを言おうと口を開きかけるが、良いアイデアが思いつかずに口を閉じる。

 ユイトは下を向いている。それが何かを考えている姿に見えたマークスは、彼の言葉を待ってみることにした。


「……挑戦」


 ぽつりと呟くユイト。


「うん? 挑戦?」

「あ、はい。挑戦……してみようかと……。ただ、剣は難しすぎます。でも……ダガーなら」


 マークスとジャラシュが顔を見合わせる。


「剣とダガー、同じように思えるけど?」

「……あ! ユイト、これ!」


 ジャラシュが腰に手をあて、何かをつかみ取った。

 マークスとユイトに見えるよう、腰から取ったものを顔の前にぶら下げる。


「それです。さすがジャラシュさん」


 ジャラシュが見せたのは、クリスタル製のアミュレット。

 彼の手にあったのはダガーを模した手のひらに収まるサイズのお守りだった。


「なるほど、この素材ならおそらく、切り出して研磨すればいいのか。金属製品、かつ実用に耐える強度が必要な剣だと工数が多く複雑。クリスタルを素材に採用した方が遥かに手間が少なくて簡単、なのかな?」


 現状から予想される状態を淀みなく口にするマークス。


「は、はい。ただ、剣ほどではないですが、簡単ではありませんよ。もともと職人作業自体難しいので、アバター操作中級者くらいのクエストです。あと、あの、工数っていうのは作業とかそういう意味ですか……?」

「ん、ああ、そうそう。工数ってのは作業工程とか仕事の量を指しているってことさ」

「マークスさん、なんだか仕事する人みたいな口調でびっくりしました」

「ははは、まあ、一応仕事している人だからね」


 笑顔は作れず無表情で笑うマークスに、ユイトが言葉を続ける。


「ジャラシュさんがもっているブルークリスタルなら町のすぐ近くで採れるし、ボクの家にある工房で加工できます。現実に実在するブルークリスタルと違って、サンドアイズのブルークリスタルは、高温で焼くと硬度は少し落ちますが、金属みたいに粘りが生まれるんです。クリスタルなのに割れにくい優秀な素材です。……妥協案みたいな感じですけど」

「いやいやいや! 素晴らしいよ。成功させることを前提にプランを見直したんだ。素材の選定まで! なにより俺の求めるのは【自作】と【売る】この2つ。見事にかなえているよ! よし、これでいこう!」

「ハッハー! やったね! これまたナイスアイデアだ! ナイスチャレンジ!」


 チャレンジの言葉に、マークスはピンときた。

 これだ!と声を上げそうになるのを我慢しながら、急ぎ画面を切り替える。

 ベグゲームの画面から、オフィス画面へ。

 サンドアイズでの映像を遡り、ユイト達とのダガー製作の会話付近を切り取って急ぎ保存する。

 ヘッドハンターであるアンナへ映像付きのメッセージを送った。



『課題の件、ダガー作りから販売、これでいこうと思う。期限は本日から3日。成功した場合は正式に引き受ける。俺がかつて憧れた職人作業、難易度の高さは彼が保証してくれたよ』



 メッセージを送信し、マークスはすぐにベグゲーム画面へ戻った。


「じゃあ、さっそくブルークリスタルを採りにいきましょう。マークスさん」


 マークスが戻ったのはちょうどユイトが声をかけた瞬間だった。

 ジャラシュは上機嫌で店番に戻る。

 ゲーム画面右上にメールアイコンが表れる。アンナからのメッセージだ。

 メッセージには「OK」の一言のみ。


「早すぎるだろ……。ほんとに読んでる?」


 苦笑するマークス。


「え? 何か言いました?」

「あ、いやいや、なんでもないよ」

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