これで弟に勝ったと思ったが
聖女視点かベンジャミン視点にしようとして苦戦していた。
この二人でイチャイチャはハードル高くて……。
「聖女ジェネッタ。俺と結婚してください」
弟が聖女に向かって求婚をするのを聞いて内心勝ったとガッツポーズとする。
王族は聖女と結婚する者は王位継承を放棄すると言うことになっている。
(勝ったんだ!!)
まだ王太子は決まっていない現状。貴族の中では優秀な弟が王になった方がいいと噂されていたのを知っていたのでここであいつが放棄してくれたのが嬉しかった。
「ベンジャミン。それでいいのか?」
父が心配そうに尋ねるが確認するように聞いてくる。
「はい。ジェネッタ嬢と結婚したいので」
聖女ジェネッタの前に跪いて許しを請う様は絵画のように美しいが、その末路が悲惨なのを知っているから表に出さないが嘲笑う。
「……………………いいのですか?」
「貴女がいいのです」
「……聖女は長く生きられません。結婚すると聖女の力が消えていきます。【聖女】として欲しているのならやめた方が……」
説明するんじゃないと口を開きそうになったが必死に耐える。
聖女は短命だ。
聖女の聖なる力は命を削るものであり、結婚してから聖なる力は徐々に衰えて消えていく者も居れば、聖女の力を維持し続けてある日突然命を落とす。
聖女が結婚せずに神殿で暮らしていれば短命ではない例もあるが、結婚した聖女はことごとく短命という事実。
そして、聖女は子供が出来ない。
そう。そんな不幸にしかならない末路を自分から選択したのだ。今まで優秀過ぎる弟と言われてきたが、ここであいつの選択ミスを笑うしかない。
あいつの評価もここでがらりと変わるだろう。
「ベンジャミン兄上!!」
第三王子のオセロットが慌てて止めようとするが、もう遅い。ここで訂正をしてもこいつの評判は落ちるだけ。
まさか、王太子争いがこんな形で決着がつくなんて、愉悦でしかなかった。
と、思っていた一年後――。
「はあっ⁉ ベンジャミンに子供っ⁉」
聖女ジェネッタが懐妊したと報告が上がった。
「嘘だろ……聖女は懐妊できないって……」
「事実です」
影の報告にそんな訳ないと動揺する。
落ちぶれていくベンジャミンの話が待ち遠しくて影を向かわせていたが、聖女ジェネッタは力を衰えることなく、ベンジャミンが継承権を返上して領地をもらい爵位を得たが、領地では聖女の慈愛の結界が弱ることなく張られ続け……それどころか最近力が増しているとか。
結婚したら力が弱まる話は聞いていたが、強くなったという話は聞いたことなかったので信じられない思いでいたが、聖女の力を維持するために白い結婚をしていた貴族がかつていたという話を聞いていたので白い結婚なのかと一人納得していたが、そこから懐妊。
どうしてそうなったのか全く理解できない。
「サーベル殿下?」
「ベンジャミンに会いに行ってくる」
懐妊祝いだと言えば歓迎するだろう。
そこで探りを入れる。まあ、懐妊祝いという名目で向かうのだから祝いの品を執事に用意させるためにそれらのパンフレットを持ってくるように命じてベンジャミンの領地に向かった。
「兄上!! よく来てくれましたっ!!」
熱烈歓迎するベンジャミンは力加減も考えず盛大に抱き付いて窒息死するかと思った。
「ベンジャミン。それでは息できないわ」
慌てて止める聖女ジェネッタ。いや、元聖女と言えばいいのか。そのお腹は大きく膨らんでいる。
「ああ、すみません兄上」
「気にするな……」
乾いた笑いを浮かべて伝えると、
「相変わらず兄上はお優しい!!」
大型犬が尻尾を振っているような感じで告げてくる。優しい。そんなの外面だけだと内心悪態をついていたが、それを表に出さないで、
「本当に子供が居るんだな……」
これが偽物とは思えない。
「ああ。兄上もご存じでしたか」
「もしかして、ベンジャミンも知っていたのか?」
「はい。オセロットが教えてくれて……」
ああ。あいつは結婚を反対していたからな。あいつはベンジャミンが王になったら仕えるという野望を抱いていたから俺を良く思っていなかった。
「結婚を反対し続けて、ジェネッタにまで言い続けていたのでジェネッタが参ってしまって」
「お前に言うのならともかく聖女ジェネッタに告げるのは間違っているだろう。ああ、聖女ジェネッタって呼んでしまったが、今はどう呼べばいいんだ……」
名前呼び? いや、失礼だよな。かといって夫人? そんなイメージは……。
「兄上らしい」
ベンジャミンが嬉しそうに言ってくるが理解できない。
「俺はジェネと呼んでいます。兄上はジェネッタ呼びしてくれれば……」
「じゃあ、ジェネッタ夫人と呼ぶ。ずっと我が国を守ってきた聖女を呼び捨てにするのもな……」
やっと納得いく呼び方が浮かんだとホッとしていると、
「兄上はいつもお優しい」
だから何で優しいというのか理解できない。散々嫌がらせしたし、こいつが聖女と結婚したいと言い出してもこれで王位継承権は自分のものになると喜んで反対しなかったんだぞ。
「皆が反対する中兄上だけ止めないでくれて、こうやって祝いの品も持ってきてくれて……」
「他の奴も持ってきただろう。大げさだな」
何言っているんだ。祝いの品など、あのオセロットが持ってきているだろう。あのベンジャミン限定ブラコンが。
「あいつはジェネと結婚して早々に愛人を斡旋してきましたよ」
「何考えているんだ」
新婚に聞かせる話じゃないだろう。
「だから、追い出しました」
「そりゃ。そうなる」
「兄上はもしかしてご存じでしたか。聖女が結婚して力が弱まる理由が夫の愛が足りないからだと」
「………………」
何それ知らん。
「やはり、ご存じだったんですね!!」
いや、勝手に解釈するな。
「聖女は自分に向けられた思いで力を増していくので、神殿では影響はないけど、人妻になると夫の愛だけになってしまうので力に影響が出るそうです」
「白い結婚では聖女の力だけ欲しているのかと疑って弱まり、愛人とかを持ったら夫の愛が弱まるのが分かるそうです。妊娠して神殿に報告をしたらそんなことを神から告げられました」
「………………それ公にしたら悲劇が生まれなかったんじゃ」
思わず呟く自分はまともだろう。
「公表したら自称真実の愛を捧げるという輩が増えそうだからというお告げも」
「勝手だな」
まあ、これを公にしたら王位継承権をベンジャミンにと言い出す輩が増えそうだから黙っておこう。
「それはともかく、祝いの品を見てくれたか。まだ早いと言われそうだったが、ベビーカーとかベビーベッドもあるんだ!!」
パンフレットを見て選んだんだと伝えると二人はさっそく祝いの品を見て回るのをみて、
「結婚して子供も出来た……あいつもしかして勝ち組になってんじゃ……」
いまだ独身の立場に気付いてショックを受けるのだった。
兄上は環境が悪いから自分は性格悪いと思っているだけのツンデレ。王位が絡まなければ弟思いのいい兄。