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08

「えっ!? ヒロさんっ、わんちゃんが大きくっ!」


「俺の仲間! シルバーが食い止めている間に――っ!」


 叫ぶように言ったところで、ヒロは周囲を見渡して顔を顰める。


 一瞬のことだった。


 ヒロとアリスはすでに白い狐のモンスターに囲まれ、逃げることができなくなっていた。


「クソッ」


「魔爪シロギツネ……!?」


「シロギツネ?」


「普通は、もっと魔力濃度が高い場所に出現するダンジョンの中にいるモンスターなの。この花畑の辺りにそんな強いダンジョンが出るはずないよ。それなのに、なんで……」


 顔を青ざめさせるアリスをおろし、背中に隠すようにして立つ。


 右手には短剣を持っていたが、恐れからか震えが止まらなかった。


「ひ、ヒロさん、ごめんなさい……私がここに連れてこなければ……」


「謝らなくていい。……逆に、ごめん。俺が弱いせいで、ここを安全に切り抜けるのは……難しいかもしれない」


 ガルル、と唸る魔爪シロギツネに息が詰まる。


 背後ではゴブリンを蹴散らすシルバーの姿が見えたが、素人のヒロの目から見ても、この数をシルバーだけで倒し切れないことだけはわかった。


「――ガアアアッ!!」


 シルバーが恐ろしい咆哮を上げる。


 恐怖の咆哮(フィアー・ロアー)


 敵を一定時間、恐慌状態にするスキルだ。


 それに思わず振り向くと、ヒロの目の前に半透明なメッセージが現れる。


『周囲のモンスターが恐慌状態に陥ります。』


(これがアレクの言っていたシステムってやつか……?)


 怯えたように身を固まらせるゴブリンとシロギツネの様子を確認し、シルバーはヒロのもとへ駆け寄った。


「主君、今のうちに――」


 瞬間、ヒロの足にひどい痛みが走る。


「っ、ぐああっ!?」


「主君!」


 よろけながら左足を確認すると、1本の矢がふくらはぎに掠って、肉をえぐっていた。


 ドクドクと嫌な熱さに、ヒロは脂汗を流し呼吸を荒くする。


「ゆ、弓矢……もしかして……っ」


 アリスはダンジョンの入り口に視線を移す。


 そこには、ゴブリンの2倍の体躯をした、細身の人型モンスターが立っていた。


「弓を持ったゴブリン……! じゃあ、ホブゴブリンが……!」


 弓使いゴブリンの多くは、ゴブリンの上位種であるホブゴブリンの護衛として存在する。


 スタンピードの終盤に出てくるならまだしも、今は起きたばかりの序盤。アリスは顔を青ざめさせた。


「もしかしたら、ダンジョンの主、オーガかも……」


「っ、オーガ……?」


「運が良かったら、多分オークだけど、オーガだったら……」


 目に涙を浮かべるアリスに、ヒロは足の痛みに耐えながら彼女を抱きしめた。


「大丈夫だ。シルバー、乗せてくれ」


 アリスを抱き上げ、ヒロはシルバーにまたがる。


「ヒロさん、ホブゴブリンはすごく大きいの。それに、弓を持ったゴブリンの他にも、魔法を使うゴブリンがいるかも」


「……それは多分、あれのこと?」


 冷や汗を浮かべながら、ヒロはファイヤーボールを手に浮かべた魔術師ゴブリンを指差した。


 ニヤリ、と笑ったゴブリンは、それをヒロたちに投げつける。


「! 避け――っ」


 ヒロはアリスを抱えながら、シルバーに咄嗟にしがみつく。


 シルバーは間一髪のところでファイヤーボールを避け、着弾地点は一瞬ボウッと燃えて天色草の一部を焼き尽くした。


「ギギャッ」


「ギャッ、ギャッ」


「ギィッ」


 ゴブリンたちが会話をする声を聞きながら、ヒロはシルバーに問いかける。


「このまま逃げれそう?」


「私のレベルは生前よりもかなり低くなっております。まだこの体に慣れていませんので、確かな判断は難しいですが……おそらく、無理です」


「ヒロさん、またファイヤーボールが……!」


 ヒロはアリスを必死に抱えながらシルバーにしがみつく。


 その間も足からは血が流れていた。


『出血から一定時間が経過しました。』


『出血により、10秒毎2%のHPが減少します。』


 システムの文字が赤くなっていた。警告文だ。


(はっ……うそだろ)


「……ステータス」



――――――――――――――――――――

名前:桐生ヒロ  Level:3

年齢:15

職業:なし

称号:なし

――――――――――

HP:294/300

MP:5200

――――――――――

物理攻撃力:20  俊敏力:15

物理防御力:20  精神力:15

魔法攻撃力:10

魔法防御力:20

――――――――――

ステータスポイント:100

――――――――――――――――――――



(300の2%……6はデカすぎるぞ)


 とにかく出血を止めようと、ヒロは袖を引っ張る。素材が脆いのかすぐに破れた袖で、傷跡をキツく抑えた。


 すると、システムが反応する。


 白文字だった。


『出血が止まりました。』


『HP減少が20秒毎1%に減少します。』


『痛覚耐性が上昇しました。』


『痛みが軽減します。』


「20秒で3か……痛みもマシにはなった」


「主君、どうされますか?」


「どうもこうも……逃げれないんなら、助けが来るまで避けまくるか……」


(倒すしかない。だけど)


 自分にできるだろうか? と顔を歪める。


 相対するだけで体は震え、言うことを聞きそうもない。


「こんなことなら短剣の扱いでも習っとけば良かったな……」


『HPが3減少します。』


 システムの赤文字がHPの減少を伝える。


(痛みはほとんどない。だがHPは少なからず減っていってるし、時間の問題だ。……どうする。どうすればいい)


「主君、モンスターたちが恐慌状態から回復します」


「……! ヒロさん! あそこの道、行けないかな?」


「道?」


 アリスが指差す方向を向く。そこには確かに小道があった。


 弓使いゴブリンたちは、シルバーの行く手を阻むように矢を放っていた。


 決して当てはしないが、そこから動けば当てるという意思表示だった。


 シルバー1匹で突っ切るなら、それでもよかった。


 だが今のシルバーには、ヒロとアリスが乗っている。


 魔術師ゴブリンも同様に、相変わらずいやらしいニヤニヤした笑みを浮かべながら、ファイヤーボールを放つ準備は整っていた。


「あそこの小道、多分だけど街の方に続いてると思う。森に入っちゃえば当てづらくならないかな?」


「……シルバー、俺たちはなんとかするから行けないかな?」


「危険です」


「アリスちゃん、いい?」


「うん!」


 ヒロはシルバーの首を軽く叩くように撫でる。


 グルグルと迷うように唸ったシルバーは、息を吐き出した。


「……恐慌状態から回復したモンスターが飛びかかってくるのを待ちましょう。上手いこと盾にしながら動けば……」


「わかった。アリスちゃん、しっかりシルバーにしがみついて」


「う、うん……!」


 目をつむって震えながらシルバーにしがみついたアリスに覆い被さるようにして、ヒロもシルバーにしがみつく。


『周囲のモンスターが恐慌状態から回復しました。』


 そのメッセージが見えた瞬間、ヒロは叫ぶ。


「シルバー!」


「しっかりしがみついていてください!!」

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