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07

 噴水のある広場でアリスと合流したヒロは、はしゃぎながら歩くアリスに引かれて、街中を歩いていた。


「今から行くところはね、本当にすごいところなの」


「うん」


「きっとヒロさんも驚くよ!」


「そんなにすごいの?」


「とっても!」


 アリスの笑顔に、ヒロもつられて笑みをこぼす。


「……ヒロさんは、なんで冒険者になったの?」


「なんで?……うーん、必要だったから、かな」


 ヒロのそっけない言葉に、アリスがふわりと笑う。


「私ね、いろんなところを旅する冒険者になりたいの!」


「……いい夢だね」


「そうでしょ!? けど、お父さんとお母さんは、危険だからやめなさいって言うんだ。宿を継げって言うの」


「……お父さんとお母さんの気持ちも、少しはわかるよ。子どもには危険な真似をしてほしくない。親は子どもが1番大切だからね」


「……ほんとはね、宿もいいなって思ってるの。でもね、そんなにダメダメって言われると、嫌になっちゃう」


 小さな声で話すアリスの頭を撫でる。


「そう言ってみるといい。実は、親っていうのは万能じゃないんだ。君と同じ人間だから、間違ったことだってするよ。今は君のためっていうのが前に出過ぎてるのかもしれないね」


「……ヒロさんの言ってること、ちょっとわかんない」


 怪訝そうな顔で言われて、ヒロは苦笑した。





「ケビンさん!」


「おー、アリスちゃん?」


 アリスが手を振るのに応えるのは、西門の門番の男、ケビンだ。


「今日も行ってくるのか?」


「うん! 今日は宿に泊まってる冒険者さんと一緒だから、大丈夫だよ」


 アリスの言葉から、いつもは門番の誰かに着いてきてもらっていることがわかった。


 ケビンはアリスに笑いかけて、それからヒロに真剣な表情で向き直る。


「確認をしても?」


「はい」


 カードを見せる。ケビンはじっと注意深くカードを見てから、ニッと笑った。


「問題なしだ。アリスちゃんを頼んだぞ」


「もちろんです」





「ついたよ、ヒロさん!」


 西門からしばらく歩いて、ここは森の小道の先。


 少しひらけたところに出て、ヒロはその先に広がる光景に、思わず声を上げる。


「すごい、一面花畑だ」


「綺麗でしょ!」


 ヒロの手を離して、アリスは花のそばにしゃがみ込んだ。


「案内したいっていうのはここ?」


「うん。この花はね、街の花なんだよ」


「全部、青色だね」


「昔話があるの。この街には昔、青い翼を持った魔法使いがいて、その青き翼様は人間じゃなかったんだけど、とても良い魔法使いで、他の悪い魔法使いから街を守っていたんだって。この花は、青き翼様の色とおんなじだから、天色草(あまいろそう)って呼ばれているんだよ」


「天色……」


(確か、澄んだ空のような色、だったかな)


「確かに、空の色みたいで綺麗だ」


「でしょ! えっとね、花言葉は確か『あなたを信じて待つ』……だったかな」


「随分意味深だなあ……」


「気になるなら、街の図書館に昔話が載ってる本があるって前にお母さんが言ってたよ」


 アリスが天色草を摘み取って、器用に花冠を作りながら言う。


「……俺にも花冠、教えてくれる?」


「いいよ! じゃあ、最初に長く花を摘んでね」


 言われるがままに長そうな天色草を選んで摘み取る。


「この花は摘んでも、何回でも生えてくるんだって。強い花なんだよ」


「へえ……これをどうすればいい?」


「これに他のをこうやって……ほら」


 ヒロもアリスと同じように結んでみるが、上手くいかずに首を捻る。


「うーん……? 緩いかな?」


「ヒロさんってもしかして不器用?」


「……かもね」


 がっくりと項垂れる。


「これじゃ花が可哀想だなあ」


「じゃあ、この花私のに編んでも良い?」


「その方が花も喜びそうだ」


 茎の部分がくたっと萎れたそれを渡して、ヒロは苦笑いをする。


 幼い頃から外で遊び回ることが多く、ヒロは花に目を止めることもなかった。


 それは大人になった今でもそうだった。


「……いいね、花」


「綺麗な花に囲まれると、胸がいっぱいになるんだよ」


「うん、わかる気がする」


 ヒロが摘み取った花が、アリスの作る花冠に加わる。


 よく見ると結び目がきっちりとしていて、ヒロの結び目とは何もかもが違かった。


「アリスちゃんはどうして冒険者になりたいの?」


 ふと口をついた疑問に、アリスは一瞬手を止める。


「……冒険者の人たちってね、ぼろぼろになって帰ってくるけど、みんな夜になったら、今日はどんなことがあったか笑顔で話してくれるの。顔は怖くても、良い人ばっかりだよ。私も、みんなみたいになりたい」


「……それはアリスちゃんが良い子だからだよ」


「そうかな?」


「そうだよ」


 ヒロは読取機前で肩をぶつけられた出来事を思い出し、乾いた笑みを漏らした。


「……冒険者って、毎日違う色をしてるなって思うの」


「違う色?」


「うん。綺麗な花みたいに、毎日キラキラして、ワクワクしてるんだろうなって。だから――……」


 ピタリ、とアリスが言葉を止める。


 不自然に言葉を途切れさせたアリスは、顔を青ざめさせていた。


「アリスちゃん?」


「ひ、ヒロさ……あれ……」


 震える手で指差したアリスの視線の先は、花畑の外側。


 そこにはぽつんと不自然な階段が現れていた。


「……ダンジョン?」


(いや……様子がおかしい。なんであんなに、黒い瘴気みたいなのが……)


“主君! お逃げください、そのダンジョンは――っ!”


 必死なシルバーの声と同時に、ダンジョンの入り口から1匹の小鬼ゴブリンが現れる。


 緑色の肌に汚らしい布を纏い、棍棒を携えた1匹のゴブリンは、背後に向かって「キキッ」と鳴いた。


 すると奥から、何匹ものゴブリンが姿を現す。


“――スタンピードを起こしていますッ!”


 その瞬間、ヒロはシルバーを出し、アリスをかかえて街の方向へ走り出した。

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