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06

 朝、寝ぼけ眼を擦って体を起こしたヒロは、パンツ1枚だけの状態でひとつあくびを漏らして、ベッドから出て服を着た。


「おはようございます主君」


「ああ……おはよう」


 洗面台で顔を洗い、ため息を吐く。


「今日はまず商人協会に行ってお金を引き出そう。服を買わないと……」


「武器も揃えねばなりませんね」


「そうだね……君に頼り切りなのもよくないよね」


 武器を持たない男1人で討伐をし続ければ、誰かに怪しまれることは容易に想像できた。


「ステータス」




――――――――――――――――――――

名前:桐生ヒロ  Level:2

年齢:15

職業:なし

称号:なし

――――――――――

HP:250

MP:5150

――――――――――

物理攻撃力:20  俊敏力:15

物理防御力:20  精神力:15

魔法攻撃力:10

魔法防御力:20

――――――――――

ステータスポイント:50

――――――――――――――――――――




「あれ? レベル……上がってるな」


 1から2と変化したLevelの表示に目を見開く。


「さすがです主君! レベルが上がったのですね!」


「あー……だけど、なんで上がったんだろう? 俺は何もしてないよね」


「おそらく、それは私が主君に使役されているからだと」


「……うーんと?」


「私の肉体は生前のものと同じですが、それは私ではなく主君の魔力で作られています。ですから、極端な話私は主君であると言えるのです」


「あー……なんとなくわかった。君がモンスターを倒すと、俺がモンスターを倒した判定になるんだ」


「さすが主君! その通りです!」


 喜びや尊敬に溢れる声色で誉めそやすシルバーに乾いた笑いを漏らしながら、ヒロは宿の部屋を出る。


 宿の入り口まで向かうと、朝早いのにも関わらず、アリスが受付の椅子に座っていた。


 思わず立ち止まったヒロに気づいたアリスは、パッと表情を明るくさせて笑った。


「おはようございます、キリュウさん!」


「おはよう、アリスちゃん。今日はお手伝いじゃないって言ってなかった?」


「えへへ、キリュウさんを待ってたんです。昨日お夕食とられてませんでしたよね? だったら、私と一緒に食べましょう!」


 駆け寄ってニコニコと見上げてくるアリスに、思わず口元が緩むのを自覚したヒロは、少女の頭を撫でてそれを了承した。


 地球にいた頃、ヒロにも少なからず友人がいた。


 その中の特に仲のいい友人の息子が、こうやって懐いてくれていたことを思い出した。


「アリスちゃんは何歳?」


「私は9歳ですよ!」


「なら……俺の友人の息子と同じくらいだ」


「そうなんですか?……あれ? お友達って、年上の方なんです?」


「うん、そうかもね」


 手を引かれながら、ヒロはつぶやくようにそう言った。





 朝食を食べ終わると、アリスはまたヒロの手を引いて宿の入り口に向かう。


 されるがままにしているヒロの様子に、厨房から見守っていた男――おそらくアリスの父親――が申し訳なさそうに頭を掻いていた。


「キリュウさんは……」


「ヒロでいいよ。呼びづらいでしょ。敬語もなしでいいから」


「じゃあ、ヒロさん! ヒロさんは、今日はどんなことをするの?」


「商人協会に行ってお金を下ろしてくる。その後、服を買うつもりなんだ」


「じゃあ、そのあとは決まってない?」


「まあ、そうだね」


 それなら、とアリスは立ち止まって、ヒロの手を離した。


「それ終わったら、秘密の場所に連れていってあげる! ヒロさんだから、特別!」


「秘密の場所? それは光栄だね」


 自身の小さい頃を思い出し、ヒロは笑みを浮かべる。


(どの世界でも秘密基地を作る子どもの心理は同じってわけだ)


「じゃあ決まりね! 服買って、部屋に買ったもの置いてきたら、あっちの噴水の方に集合! 早くしてね!」


「わかった。なるべく早く向かうよ」


 絶対だよ、と念を押されて、宿の外に背を押される。その様子に苦笑しながら、ヒロは商人協会へ向かった。





 商人協会は、冒険者協会に隣接している。協会同士が連携をとりやすくするためだった。


 商人協会に入ると、隣の冒険者協会と違って静かな空気に迎え入れられる。


 中にいる者たちも真面目そうな顔をしている者が多く、ヒロはその中を進んでいった。


 冒険者協会にあるものとほとんど同じ形の読取端末機の目の前に立ち、カードを読み取らせる。


『いらっしゃいませキリュウ様。ご希望のお取引をご選択ください』


(ATMとなんら遜色ないな……完全に勘でカード読み取らせたけど。まあ、これなら操作は大丈夫そうだ)


 画面に表示される『お引き出し』『お預け入れ』『残高照会』のうち、『お引き出し』をタッチする。若干の間があり、画面に表示されたのは残高だった。


「136.36デル……ってことは」


(15,000円くらいか?……つまりゴブリン1匹につき3,000円!?)


 ヒロは呆れながら笑う。


(真面目に働いていたのが馬鹿らしく思えてくるな。常に死と隣り合わせ、という状況にまだ自覚がないだけだろうけど……)


 とりあえず全て下ろして、お金を手にしたところで、財布すらないことに気づく。


 一瞬迷ってから、全てズボンのポケットに入れて、ヒロは隣の冒険者協会へ向かった。


“主君、どうして冒険者協会へ?”


「ついでだよ、ついで。カード通してきた方が良いかと思って。日本人の性ともいうかな」


 ガヤガヤ騒がしい冒険者協会に入り、カードをサッと通してすぐに出る。


 昨日の男はいないようで、ヒロは知らず知らずのうちにほっと安堵の息を漏らしていた。


「次は服屋まね。1番安そうな店は……」


 キョロキョロと商店街を見渡す。


 すると1人の老人が椅子に座っているだけの店を見つけて、ヒロはその店に向かって歩き始めた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 金額はできるだけ抑えつつ、肌が荒れなさそうな服を3着買ったヒロは、次に武器屋へ足を踏み入れていた。


“主君、あちらの戦斧なんていかがでしょうか! 私の首すらも一刀両断できそうな大きさです。”


“さすがに持てないからやめておくよ……。”


「いらっしゃい。何かお探しかね?」


 スキンヘッドの男に声をかけられ、ヒロは悩みながら「初めての武器なんですが」と話した。


 すると男は突然ヒロの腕を掴み、ふむ、と頷く。


「まだ戦闘経験がないだろう。筋肉も、一般人よりはあるがまだ足りない。これじゃ、満足に剣も振れねえな」


“こ、この男、断りもなく主君の腕を……!”


「まあ安心しろ。あんたみたいなのは山ほど来るからな。ちょっと待ってろ」


 そう言って奥へ向かった男を待ちながら、ヒロは武器屋を見渡す。


 戦斧や長剣、サーベルやレイピア……ヒロが名称を知らないような武器まで豊富な種類の武器の中で、一際目立って見えたのが、カウンターの奥に隠すように置いてあった刀だった。


「日本刀?」


“おお……珍しいものが置いてありますね。”


“刀、だよね? 俺が想像してるのよりも、かなり大きいけど。”


“あれはスルガ刀と呼ばれる代物です。その中でも、かなり上位の業物のようですね……かなりの力を感じます。こんな辺鄙な店に、なぜこんなものが……。”


“スルガ刀……なるほど、そのスルガっていう国が、日本のような文化を持っているわけか。”


 一度訪れてみるのもいいかもしれない、と考えているうちに、男が奥から戻ってくる。


 手には2本の短剣が握られていた。


「利き手で握ってみろ。まずはこっちから」


「はあ……こうですか?」


 最初に緩やかなカーブをしている銀色の短剣を握る。小ささに見合わず重く、ヒロは眉をひそめた。


「次はこっちだ」


 男が右手に持っていた短剣は、黒い刀身をしていた。それを握り、ヒロは少し持ち上げる。


「軽いですね」


「ああ。だがその代わり壊れやすい。おすすめは重い方だ」


「……そっち、振れますかね」


「振れないだろうな」


 男とヒロはじっと見つめ合う。


「……これ、いくらですか」


「こっちは53デル、そっちは48デルだ」


(6,000円より安いくらいか……。今の所持金は86デル……つまり9,500円くらいだ。……今はまだ、安く済むなら安く済んだ方がいい、か)


「黒い方を買います。稼いできたら、また来ます」


「それもいいかもしれんな。今ならベルトと巾着も付けて50デル」


「お願いします」


 50デルぴったりを渡し、ヒロはベルトと短剣を着けて店を出た。

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