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03

 腹ごしらえをして少しだけ休んだヒロたちは、岩場に座って話し合っていた。


「服はアレクが気を利かせてくれたらしいけど……」


 ゴワゴワの布を着ているような感覚だった。


 少しの間であれば問題なかったが、長時間ともなると肌に擦れて痒みを感じ始め、ヒロは顔を顰めた。


(服を買わなきゃな……だが、それにはお金が必要だ)


「お金は……モンスターを倒して、とかになるのかな」


「おそらくそうなるかと」


「やっぱり? じゃあまずは街に行かないとか……シルバー、森の近くにあるのはどんなところかわかる?」


「冒険者の集う辺境の町、でしょうか」


「冒険者?」


「モンスター討伐を主に、人や家、国から依頼を受け仕事をする人間のことです」


「なるほど。身分証になるものは持っていないけど……」


「身分証を持っていない者は多いと思います。各村町に身分証を発行するような場所があるわけでもないでしょうし」


「確かにそうだね」


「何度か、街に入る時に人間が金を払っているのを見たことがあります。街によっても違いましたが……」


(通行税のようなものか)


 だがもし通行税がかかったとしても、ヒロには対処できる自信があった。


「何も持っていないのは事実だし、追い剥ぎにあった、もしくは家を追い出されてそのままここにたどり着いた、とでも言えばなんとかなるとは思う。だけど、ゆくゆくは身分証は必要になってくるかもしれないな……」


「外に出る人間のほとんどが、商人か冒険者です。ある程度大きい街なら門がありますが、冒険者と思しき男が門番に何かを見せて、街に入っていた記憶があります」


「冒険者の証明書のようなものがあるんだろうね。それが身分証代わりになっているのかも……なら、街に行ってすぐに冒険者になるか。シルバー、出発しよう」


「はい、主君」


 シルバーに跨りながら、ヒロは顎に手を添えて考え続けていた。


「冒険者になるのに金はかかるのかな……?」


「どうでしょうか」


「そういえば、お金の単位はわかる?」


「私の頃と変わっていなければ、1デルに、その下に1スントです」


(ドルとセントか)


 適当なことを、と呆れる。


「ま、とりあえず行ってみようか。どのくらいかかりそうかな?」


「20分ほど。走ればすぐですが、どうされますか?」


「どうせだしゆっくり行こう。走るのはまた今度挑戦させて」


 そんな話をしながら、ヒロとシルバーは街に向かった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 町の入り口にある大きな門が見えてきて、ヒロはシルバーに大型犬のサイズになるように言った。


 甲冑を着る門番のもとへ向かい、少しだけ笑みを浮かべながら会釈をした。


「ヒネクへようこそ。こちらは南門だ。1人と1匹か?」


「はい。身分証はないです」


「じゃあ中に入ってくれ。犯罪歴を調べるのと、色々記入もしてもらう」


「分かりました」


「中に入ってくれ。書類を持ってくる」


 門番に促され、門の隣にある小さな小屋に入る。中には簡素な椅子とテーブル。


 テーブルの上には紙とペンが置いてあって、ヒロは思わず「あっ」と声を出した。


(しまった。文字は大丈夫だろうか)


 英語、欲を言えば日本語で書かれていることを祈りながら、ヒロはため息を吐いた。


「待たせたか? 座っていいぞ」


 先ほどとは違う門番に言われ、椅子に座る。ヒロは紙を見て、ぱっと顔を緩めた。


(やった、日本語だ)


「文字は書けるか? 書けないなら俺が書くぞ」


「いえ、大丈夫です」


「そうか。じゃあ名前と性別、あとはテキトーにチェックを入れてくれ。名前と年齢が合ってれば何も問題はない。備考欄は……まあ1人だから書かなくても良い」


 ヒロ・キリュウ、男、15歳、と上の方に書いて、チェックを入れていく。


 前科持ちであるか、お金を持っているか、明確な職業があるか。全部いいえにチェックを入れていった。


「金がないのか? 親は?」


 首を横に振って、ヒロはそっと門番の顔色を窺う。


「……そうか。そんな若い身で……そうか。大変だったろう。もう安全だからな……」


(……おっと。これは予想外の反応だ)


 呆気なく「そうか」と納得されるか、もしくは怪しまれるかと予想していたヒロは、思わず驚く。


 思ったよりも優しい世界らしいと苦く笑う。


 書き終わった紙を渡すと、門番はサラッと目を通しただけで後は紙をテーブルに置いた。


「じゃあ次だ。この魔道具に手を置いてくれ。ここに書かれていることが正しいかだけ確認させてもらう」


「はい」


 魔道具と呼ばれた水晶玉をまじまじと見つめる。これで何がわかるのかはわからなかったが、何か変なことにならなければいいと思いつつ水晶に触れると、門番が同じように水晶に触れた。


 ブブン、と一瞬だけ震えて、しばらくすると門番が「もういいぞ」と微笑んだ。


「虚偽はないようだな」


「この水晶玉は?」


「知らないか? まあ無理もない、大きい街にしか置いていないものだからな。これはまあ、端的に言えば嘘発見器だ。なんでも神官様のお力が込められているらしく、これに触れた人物が嘘をついているかどうかがわかるんだ」


「嘘だった場合はどうなるんです?」


「……この魔道具は、まずは手を置いてもらい、俺が後から触れる。そして頭の中でたとえばこの書類を頭の中でも良いから読み上げると、それが虚偽であるかどうかがわかるんだ。最初に触れた者には何も起こらないがな」


「ずいぶん便利ですね」


「ああ、そう思う。さて、必要書類の記入も済んだな」


 門番は書類を確認し、茶色い封筒にその紙を入れてカゴに置いた。


「最後の質問だ。この街に来た理由は?」


「冒険者になるためです」


「!……そうか、そうか……!」


 掠れた声でそうつぶやいたあと、ぐず、と鼻を啜り始めた門番に驚く。


 何か変なことを言っただろうかと不安になっていると、門番はぶつぶつと「きっと幼い頃からそうやって……! 苦労してるんだなあ……!」と呟いていた。


(何か……勘違いされてるな? すごい憐れまれてないか……?)


「いや、あの……」


「安心してくれ!!」


「はっ、はい」


「この街はいい街だ……! もし強くなれなくても……幸せに暮らせるはずだ……!!」


「は、はぁ……ありがとうございます……」


 ぼたぼたと滂沱の涙を流す門番に引き気味に椅子から立ち上がると、近くにいたもう1人の門番も大泣きしていたことに気づく。


(俺、しっかり15歳って書いたよな……?)


 顔を引き攣らせながら、ヒロは思わず乾いた笑いを漏らした。





 まだ少し涙目の門番2人に見送られて、ヒロは街の中心に向かう。


「すごく情緒不安定な門番だった……」


“全く困ったものでしたね。”


 頭の中で囁いてくるシルバーの言葉に苦笑する。


 どうやら使役している相手とは心の中でも意思疎通が取れるようだった。


「とりあえず冒険者になるための施設は聞いたし、そこへ向かおう」


“冒険者は昔は固有名はなく、何でも屋や便利屋と呼ばれていたんですよ。”


 シルバーの豆知識を聞きながら、ヒロは冒険者協会ヒネク支部へと向かった。

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