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02

 森を進みながら、ヒロはシルバーに木に生る実のうち、食べれるものと食べられないものの説明を受けていた。


「主君、そこの果実は食べることができます。少し酸味がありますが、甘い果実ですよ」


(この紫の丸いくだもののことか?)


 果実を摘み取り、服の袖で軽く拭ってから齧る。


「……美味しい。皮も普通に美味しく食べれるのにオレンジみたいなくだものだ……」


「それは何よりです」


 ゆらゆらと心地よく、のんびりと揺れる。ピィピィと小鳥がさえずっていて、ヒロの気分は最高だった。


「そういえば、君はその大きさで固定なの?」


「いえ、これ以上に大きくも小さくもなれます」


「なるほど……じゃあ、街中では大型犬くらいのサイズでいてもらおうかな」


「かしこまりました」


「……出会ったばかりなのに凄い丁寧な言葉で話されるとなんか違和感があるなあ」


「私は主君に使役されている身、眷属ですから。身も心も主君に捧げております」


「でも、君は生きている頃っていうのがあったんだろう? その頃から同じ気持ちだったわけじゃないでしょ。嫌じゃないの? こんな強制的に」


「確かに、使役魔法の類を使われると苦痛を感じると言います。ですが、主君の使役魔法は痛みなどはありません」


「本当に大丈夫なの?」


「はい。私は全く苦痛は感じておりません。むしろ主君に仕えることができて、喜びに溢れております」


 まるで洗脳されたようなことを得意げに話し始めるシルバーに頬を引き攣らせながら、ヒロは渇いた笑いを漏らした。


(まあ……嬉しそうならいい、のか……?)


「主君、あちらに川があるようです。行ってみましょうか?」


「そうだね、水は飲みたい」


「では、捕まっていてください」


 シルバーがジャンプした。岩から岩へ軽く飛ぶシルバーに少しひやりとする。ジェットコースターに乗っているようなスリルだった。


(首に手を回してなければ振り落とされるな……)


「そろそろ休憩にいたしましょうか」


「そうだね。川にも着いたことだし……」


 伏せたシルバーから降りて、久しぶりに立ち上がる。ぐっと腰に手を当てて伸びをしてから、ヒロはしゃがんで川の水を触った。


「この水は飲んでも大丈夫かな? シルバー」


「よく澄んでいるようです」


 じゃぶじゃぶと飲み始めたシルバーを横目に、水を手で掬って飲む。大量に飲めたわけではなかったが、それでも喉の渇きは十分に癒せた。


「そういえば、君はご飯食べれるの?」


「食べれますが、空腹感はないようです」


「ふむ……生きている頃は何を食べていたの?」


「なんでも食べますよ。そもそも幻獣の食事は、普通のものではないのです」


「というと?」


「幻獣の食事は栄養を摂るためではなく、魔力の摂取を意味します。そして幻獣は魔力の還元率が高いのです。ですので、少しの食事で生きていける生物なのですよ」


「なるほどな。……すまないんだけれど、今日は一緒にとった果物で我慢してくれる?」


「構いません。なんでも食べれますし、主君が望むのなら、食べません。飢餓で死ぬことはないので」


 飢え死にしない、との言葉に安堵の息を漏らす。


「じゃあ一緒に食べるか。うん……このままだとしばらくは魚と果物の生活になりそうだね……」


「明日にでも人里に降りましょう」


「そうしよう」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「眠くない?」


 問いかけると、シルバーは首を振る。


「体力の消耗はありません。主君のお役に立てて光栄です」


「それならいいが」


 テントはおろか寝袋すらない状態で、ヒロはシルバーにもたれかかりながら眠ることとなった。若干の申し訳なさを感じつつも、疲れを感じていたのか、瞼は自然と下がって行く。


 ジーワ、ジーワ、と虫が鳴いていた。


 その日ヒロは、はるか数十年前の子供時代に暮らしていた田舎の町で、友人たちと駆け回る夢を見た。





 ヒロが目を覚ますと、まだ明け方だった。時間が分からないのは少し不便だな、などと考えながら、伸びをする。


「おはようシルバー」


「おはようございます、主君。よくお眠りになられましたか」


「ああ、まあね。君のおかげだよ。……さて、今日の目標はとりあえず、森から出る事。人がいるところに行こう」


 同時に、ぐぅ、と腹の虫が鳴く。お腹を撫でて、ヒロは少し照れたように耳の先を赤くした。


「……その前に朝ご飯にするか」


「では少し、魚も捕ってきます」


「助かる」


 ヒロは森で用を足して、川で手を洗おうとする。そこに映る自分の顔に、思わず驚いた。


「顔が若い……!」


 荒れひとつない綺麗な肌をしていた。


 離れた辺りで、バシャバシャと音がしている。どうやら前足で魚を捕ってるらしく、遠目から見ると水遊びをしているようだった。


「ああ……そういえば、朝ご飯なんて久しぶりだな……」


 もっと言えば、晩酌をしない日も久しぶりだった。


(酒がないからしょうがないけど……)


 1週間に2日くらいは休肝日があってもよかっただろうか、と思案する。


(……まあ、今は15歳の体だ。異世界が何歳から飲めるのかはわからないけど、このまま禁酒するのも手かもしれないな)


 そんなことを考えていると、狩りが終わったらしいシルバーが魚を咥えてヒロの足元に落とした。


「主君、こちらは一般的な川魚です。人間が食べているのを見たことがあります」


「ああ、ありがとう。……胸ビレのところが黄色いから、アユかな……」


「申し訳ありません、私がわかれば良いのですが」


「いや、大丈夫だよ。確かに同じ形でも毒がある生き物もいるかもしれないけど……」


(まぁ、シルバーがいれば安心だろう。鼻も利くだろうし)


 アユに川で軽く洗った枝を口に刺し、エラから出す。またそこから中骨を縫うようにして尻尾の少し上あたりまで刺す。


 塩はないが、このままでも美味しいはずだと舌なめずりをする。アユは身に甘みがあり、何よりヒロは、あまり調味料を好かない。


(とはいえ自炊に労力を使いたくはなかったから、味の濃いお惣菜で我慢していたけど)


 手頃な石で落ち葉や枝を囲い、準備をする。


「よし、できた。……あ、火のことを失念してたな……」


「私が出しましょう。簡単な生活魔法程度ならなんとか出来ますので」


「へえ……火魔法的な感じ?」


 問いかけると、シルバーは石の囲いの中に火をつけたあと、頷いた。


「勇者や聖女特有の魔法は扱えませんが……基本の5属性は多少扱えます。木魔法や炎魔法は、下位属性であれば。火をつけるくらいなら十分可能です」


「君は万能ってやつか」


「幻獣とはそういうものです」


(しかし……勇者や聖女特有、ってことは、光魔法とかってことか? シルバーは光魔法の類が使えないわけか……)


 勇者は聖女は特殊なスキルを持っていて、おそらく勇者、聖女といった特定の職業があるんだろうと推測する。


「その魔法は俺にも使えるかな?」


「おそらく。スキルが取得できれば使えるかと」


 アレクがヒロに3つの望みを聞いた時、ヒロはその時の願望を言った。私欲に塗れたものだったが、少し後悔をする。


「……まあ考えても仕方ないか。使えたら覚えることにしよう」


 焼けたアユを手に取って、熱々のまま噛みつく。


「申し訳ないけど、俺はまったり行くよ、シルバー」


「はい。主君の望むままに」

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