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04

 ダンジョンの主を討伐し終えて、若い冒険者たちはダンジョンが崩壊するのを黙って見守っていた。


 ヒロがカルロスにそっと歩み寄る。


 それに気づいたカルロスは、ヒロの目をじっと見つめてから、謝罪の言葉を漏らした。


「すまないな、嫌な思いをさせた」


「どうやって……殺したんですか?」


「|《草結びの魔法》……木魔法の下位属性である草魔法の、初級も初級の魔法だ。足に草を巻きつける、一瞬の足止めに使われるような魔法だが、『カラス』のほとんどは暗殺系で、筋力が低いことが多いんだ。ギリギリで仕掛けたこともあって振り解けなかっただろう」


「……あの男たちは、本当にカラスでしたか?」


「ああ、確認した。ほとんど原型をとどめていなかったが、足の裏にカラスの刺青が彫られていたよ。あとは報告するだけだ」


「この人殺しは、協会からの依頼だったんですよね」


「ああ、そうだ」


 ダンジョンの崩壊が終わる。


 今までそこにあったはずのダンジョンの入り口は跡形もなく消え、なんの変哲もない森に戻った。


「みんな! これでダンジョン攻略は終了だ! 近くに町があるので、各自そこへ向かうなりしてくれ!」


 ちらほらと冒険者たちがその場を後にする。


 冒険者たちの中で、最も新人なのはヒロだった。


 ヒロはシルバーたち使役獣の力を借りて1人でダンジョンに潜るのが常だったが、他の冒険者たちは違う。


 パーティを組んでダンジョンへ潜り、時には仲間の死を経験している。


 さっきまで隣にいた人間が、原型を留めずに死んでいくことなど、冒険者にとっては日常茶飯事だ。


(……気が滅入ってるのは、俺1人か)


「人が死ぬところを見るのは、もしかして初めてか?」


「……はい、まあ」


「冒険者にしちゃ珍しいな。最初が、人為的な殺しっていうのも珍しい」


 なんてことないように話すカルロスに、ヒロは顔を俯かせる。


「恐ろしい職業ですね」


「やめるか」


「いえ……やめません」


「そうか。……聞き流してくれても良いが……これは当たり前じゃないことを、覚えていてくれ」


「はい」


「冒険者ってのは、そういう感覚が鈍っちまうもんなんだ。人間として何かが欠落し始める。そして、それに気付けない奴らが……『カラス』になる」


 カルロスは拳を握りしめていた。


「人が死ぬ。人を殺す。……当たり前になっちゃいけないが、身を守るためにやらなきゃいけない時が来る。だから俺たちはいつだって、本当にこれが最善なのか、考えなきゃダメなんだ」


 ヒロは頷く。


 気分は、最高に悪かった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 翌日、王都行きの魔法馬車に乗り込んだヒロは、2時間の道中をほとんど寝て過ごした。


 目を覚ますとすでに王都に入っていて、ヒロは急いで身の回りの準備をした。


 とはいえ荷物が多いわけでもなく、副支部長から直接支給されたリュックの中身を確認し、ヒロはさっと魔法馬車を降りた。


「……人が多いな」


“人間ばかりです。その中にも、ちらほら獣人やエルフなどもいるようですが……。”


(……俺の世界とあんまり変わらないな)


 街を見渡す。


 高いビルが建ち並び、魔法馬車が行き交う。


 歩く人々は他人には無関心の様子で、それぞれ目的地まで足早に向かっているようだった。


“しかし広いですね……さすがに人間の主要都市に入ったことはありませんので、少しワクワクします。”


“確かに、俺も少しワクワクしてるよ。”


 王都の地図が載っている掲示板を見つけ、ヒロは冒険者協会を探す。


 重要な施設には目印がついているのか、ヒロはすぐに協会を見つけて歩き出した。


“すぐ近くみたいだ。急いで終わらせて、少しだけ王都のダンジョンに潜ってみよう。”


“王都のダンジョンは強いモンスターがいるでしょうか。”


“そりゃ、いるんじゃない? まあ俺たちはそこまで奥には入れないかもしれないけど。”


“なぜですか?”


“そういうのって、決まって各ギルドのシマだとかがあるんだよ。狩場ってやつ。”


“面倒ですね。ですが、私たちの種族も縄張りはありました。”


“ああ、ありそうだもんね。”


“主君はどこかのギルドには入らないのですか?”


“んー……今のところは考えてないな。まだ、自分が強くなることに集中したい。……だからシルバー、今日は俺にやらせてくれ。マズイと思った時だけ呼ぶから、そのつもりで。”


“主君がそう望まれるのなら。”


 話しながら歩いていると、どうやら冒険者協会に到着したようだった。


 ヒネク支部の協会に比べて段違いな規模に、ヒロは思わず足を止めて圧倒される。


「……大きいし、ビルって感じだな」


「王都の協会は初めてか?」


 背後から声をかけられ、振り向く。


 そこにはいかにもな好青年が立っており、携えている防具や武器から、おそらくそれなりの実力者であることがわかった。


「貴方は……」


「ギルド『セイバー』のギルド員、アルヴィン・グローヴだ」


(七大ギルドのセイバーか)


「どこから来た?」


「ヒネクからです。僕はヒロ・キリュウといいます」


「ヒネクからか」


 朗らかに笑う青年、アルヴィンに肩を叩かれ、促されるままにギルドに入る。


「今日は何の用で?」


「ヒネクの副支部長に頼まれごとを。配達です」


「なら君は今年の期待の新人ってとこだな。冒険者ランクは?」


「ストーンです」


「歓迎するよ、ヒロ。もしかして出身はスルガか?」


「いえ、違います」


「そうか。名前がスルガっぽかったからもしかしたらって思ったんだが」


 へえ、と曖昧に頷く。スルガはヒロの予想通り、日本のような国らしかった。


「うちの代表がスルガ出身なんだ。スルガ刀って知ってるか? そういや半年前くらいに、ヒネクの武器屋に鍛え直してもらったやつを、うちのシャノンに取りに行ってもらったことがあったな。もしかしたらうちの代表の武器、見てたりするかもな」


「あの、シャノンって、シャノン・ワイマンさんですよね?」


 シャノンという名前に食いついたヒロに、アルヴィンは苦笑いする。


「ああ、やっぱ有名だなアイツ」


「……俺、ヒネクでシャノン・ワイマンさんに助けていただいたんです」


 ヒロの言葉にアルヴィンが目を丸くして、納得したように頷いた。


「そうか君が半年前の……」


「いつかお礼を言いたくて」


「それなら、協会で用事を済ませた後にちょっと会いに行ってみるか? この時間だったら、多分ギルドにいると思う」


「本当ですか?」


 笑いながら頷いたアルヴィンに頭をガシガシと撫でられる。


 そんな歳ではないのだが、とは思いつつ、ヒロはされるがままにしていた。

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