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02

 ダンジョンに入ってから1時間ほどが経過した頃だろうか。


 ヒロ自身も何匹かモンスターを倒しながら、順調に奥へ進んでいた。


「タンク、ヘイト飛んでるぞ! もっと引きつけろ! ヒーラーはタンクに回復!――アタッカー、今だ!」


 魔法系の若い冒険者がモンスターにファイアスラッシュを喰らわせる。


 モンスターは断末魔をあげて倒れ、カルロスがモンスターが死んだことを確認すると、ダンカン、ヒラリー、オスカーはほっと安堵の息を漏らした。


 カルロスの的確な指示に、ヒロは嘆息する。


 ヒネクから王都へ向かう冒険者の多くは、ストーン級やアイアン級だ。


 その理由としては、まだ若く、王都で一攫千金を夢見る者が多いからである。


 ここにいる冒険者の多くもその類で、実力があまり伴っていない者がほとんどだった。


 カルロスはダンジョンに入る前に、それぞれ3、4人のパーティを組ませた。


 盾役、回復役、攻撃役がバランスよく振り分けられたパーティを引き連れてダンジョンへ入ると、最初に1番パーティにモンスターの群れを倒させ、次の2番パーティへ反省点を説明しながら、実践。


 それを3番パーティ、4番パーティと続けていき、また1番パーティ。


 そうやって討伐を続け、指示を出していくさまはまるで『先生』のようで、ヒロたちは実践的な授業を受けている気分になっていた。


「よし……みんな、3回はやったな?」


 そうして3周した頃にはほとんどの冒険者が息も絶え絶えで、疲れ切っていた。


「そろそろ休憩しよう。10分後に再開する」


 カルロスの言葉を皮切りに、冒険者たちは地面に座り込む。


 ヒロもその1人で、彼は慣れない連携プレイに疲弊していた。


「ナイスでした、アタッカーさん」


「……ヒロ・キリュウです。回復ありがとう、ヒーラーさん」


「私はアーリーンっていいます。ブラッドさんも、お疲れ様です」


「おう、ありがとなアーリーン」


 お互い笑いながら話す2人に、ヒロは少し居心地が悪いような顔をする。


(デキてる男女とパーティ組まされてたか……)


 面倒ごとには巻き込まれませんように、と祈りながら、カルロスを見やる。


 冒険者たちを手助けしてやりながら、彼自身もモンスターを倒していたのだが。


 まるで息が切れていない。


 それどころかもっと体を動かしたいらしく、戦斧を軽く振り回している。


「ゴールド級ともなると体力もすごいな」


“実力は中の下ですが、何年も冒険者をやっているベテランですから。”


「さあ10分経ったぞ! 再開だ!」


 カルロスの声に、冒険者たちは一様に立ち上がる。


(……そういえば)


 ヒロはカルロスの隣にいる2人組を見やる。


「あいつら、全然疲れてないみたいだな」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 冒険者たちはロールに慣れてきたようで、カルロスもたまに指示を出す程度で、全てのパーティを好きに戦闘させていた。


 ヒロから見ても全パーティが安定しており、ヒロも新調した短剣の扱いに慣れてきたころだった。


 最下層へ辿り着く。


 今までただの土だった地面が石畳に変わり、薄暗い空間の中で赤く大きな扉が際立っていた。


「おそらく中にいるのはオークだな」


 カルロスがつぶやく。


 蛮鬼オーク。


 鬼人系の中でオーガの次に強いとされるモンスターで、ホブゴブリンほどの戦闘力を持っているとされている。


 しかし頭は悪く、今の連携プレイに慣れてきた冒険者たちであれば十分に倒せる相手だった。


「みんな、ここまでよくやって来た! あとはボスを倒すだけだ!……君たちはもう、このダンジョンに足を踏み入れた時とは違う。しっかりと自分の役割を理解し、全うすれば必ずオークを倒せる。まあ失敗はつきものだ。その時は俺が責任を持って、みんなを守ると約束しよう。まずは体力の回復に専念してくれ! 20分後に討伐を始める!」


 ヒロは周りを見渡す。


 みなやる気にみなぎっている顔をしていた。


 その中で、つまらなそうな表情を覗かせるのが2人。


 こそこそと2人で話しているのを確認して、ヒロはそっとカルロスに近づいた。


「カルロスさん、あの2人……」


「わかってる」


 ぼそっとつぶやかれた言葉に、ヒロは驚いたように彼を見やるが、すぐに苦笑する。


(まあ、さすがに気づくか。俺の他にも怪しんでいる人もいるようだったし……)


「すまんな、付き合わせて」


「というと……?」


「今は極秘任務中でな。あいつらを始末しなくちゃならない」


「始末?」


 飛び出た予想外の言葉に、ヒロは目を見開く。


「奴らはボス討伐が終わった直後に、疲弊した冒険者たちを襲う行為を繰り返した違反者だ。おそらく――ギルド『カラス』。名前は聞いたことあるだろう?」


(カラス……確か、暗殺系ギルドだったっけ)


 つい先日、この国の七大ギルドについて教えてくれたアリスの姿を思い出す。


 ギルド『ハンター』『セイバー』『オーガ』『カーラント』『ウルツァイト』『クロコダイル』、そして『カラス』。


 この国を支える7つの最も有名なギルドで、有力な冒険者たちはほとんどがこれらのギルドに入っている。


 彼らはライバル関係で、それぞれに強者が揃っており、今はかろうじて均衡を保っている状態だ。


 そのうちの『カラス』というギルドは、暗殺系の中でもトップと名高いジュン・シンシンという男を代表に設立されたギルドで、どんな仕事でもこなすため、国の掃除屋、便利屋などと揶揄されている。


 裏ではかなり汚いことをやっているという噂もあるが、『カラス』の実態は謎に満ちており、冒険者協会に属するギルドの中でも最も危険とされるギルドだ。


「ダンジョンの中で起きたことは、協会も把握し切れないことが多い。そんな中で起きる恐喝、強盗……果ては殺人。その大半を『カラス』がやってるって噂だ」


「……本当なんですか?」


「さあな。俺も実際のところは知らないが……10年も冒険者をやってりゃ、なんとなくわかるもんなんだ。やってる奴と、やってない奴ってのがな。それにこれは、協会から正式に受けた依頼だ」


 目を細めたカルロスが、さらに小さい声でヒロに囁く。


「お前、人を殺したことがあるか?」


「え?」


 ないだろうな、と笑うカルロスはさらに続けた。


「俺はな、1度だけある。……俺の装備をダンジョン内で盗もうとした奴がいた。ダチだった。……身を守るためだった。ダンジョンの中に置いて来たよ。協会にはモンスターにやられたと……」


「……この先、俺にもそんなことは起こり得ますか」


「ああ。人殺しはほとんどの冒険者が通る道さ。……そして誰もが、沈黙している。だけど、何も言わない。協会も、国家も、なにも。……冒険者がいなくなれば、国を守る奴がいなくなるからだ」


 ヒロが顔を顰める。


「まさか、殺すつもりですか」


「俺が全ての責任を取る。大丈夫だ、お前たちには迷惑はかけん。……一般人は、騎士や冒険者に守られて生きている。騎士は、国家によって守られて生きている。俺たち冒険者が自分の身を守る方法は、ひとつしかない」


 神妙な顔で言うカルロスの目線の先には、あの2人組がいた。


「誰かがやらなくちゃいけないのさ」

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