第4話
コンビニの外は、夜とはすっかり別世界になっていた。
夜は人もまばらだった駅前の通りは、これから一日を始めるであろうスーツ姿の人たちが何かに急き立てられるように歩いている。天気は良く、これから日差しを強くするであろう朝日が目の前できらきら光っている。私はそのサラリーマンの流れを逆流しながら、目を伏せるようにして歩いた。
すると、私の前の少し先で、ぽつりと立っている私と同世代くらいの男性の姿が目に映った。Tシャツとチノパンを履いている姿は、朝の駅の光景から浮いていた。と言っても、別に取り立てて興味を引かれたわけでもなく、私はその男の目の前を通り過ぎようとした。
「すみません」
え?
一瞬、その声が自分に向けられたものだとは気づかなかった。
「あの、よろしいですか?」
その声の方向に目を向けると、その男が私に向かって歩み寄ってきていた。
そのときになって初めて、男が胸にポスターのようなものをぶら下げていることに気づいた。ポスターには、「キリストが世界を救う」と書かれている。
そのポスターを一瞥した私は無視して歩き去ろうとした。だけどその男がしつこく食い下がってくる。
こんなに人がいるのに、何で私なんだよ……。
「時間は取らせません。少しだけ話をさせてください」
その男はとうとう私の前に回りこむようにして立ちふさがった。
私は、険のある声で、
「何ですか?」
と言う。
「すみません。少しだけ話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「だから、何ですか?」
「あなたは、神の存在を信じますか?」
「神?」
「そうです。神です」
「信じませんね」
「そうですか……。多くの人は始めはそのようにおっしゃいます。でも、確かに存在するのです」
「存在する? もし、存在するのなら、どこに存在してるの?」
私は、ひどくイライラして男を睨み付ける。
男は自信に満ちたような声で、「あなたの心の中に、存在するのです」と言う。
「それは、嘘だね」
「本当です」
「俺の心の中には、何も存在しない。空っぽなんだよ」
私はその言葉を男に投げつけ、その肩を押しのけるようにして歩き出した。振り返ることもなかった。そしてその男もそれ以上私を追ってくることも無かった。