第13話
「こんな話を人にするのは初めてです。……なぜだろう、上原さんにこの話ができて、少し心が軽くなったような気がします。変な言い方になってしまうんですけど、上原さんはこの世界の外からどこか客観的にこの世界を見ているような感じがして、そしてだからこそ私には見えない、この世界の裏側に隠された大切なことを知っているような、そんな不思議な感覚があるんです」
「何それ? そんなものは無いよ。もしあるのだとしたら、この世界に馴染めなかった、この世界に入っていけなかったということだけだよ」
車内放送で「次は渋谷、渋谷」という車掌のだみ声が流される。
「人生において、何が正しいのかなんて、俺には分からない。逆に俺が教えてほしいくらい。ただ、さっきの話を聞いて、野中さんのことが羨ましいとは思った」
「羨ましい?」
「だって、少なくともやりたいと思えることがあるんだから」
「……」
「きっと、人生における目標は、天から与えられるギフトのようなものなんだよ」
「ギフト……」
「人生の目標が無いからと言って、無理やりそこら辺に転がっている他人の目標を自分の目標に設定したところで、本当に壁にぶつかったときにその目標が信じられなくなる。
『私がこの一度きりの人生で本当にやりたいものはこれなんだろうか?』
そのような疑問が襲ってきて、一歩も前に進めなくなってしまう。でも、もしも本当に自分自身がやりたいと思えるものがあるのなら、それはその壁を乗り越えるための力となってくれるのだと思う」
「……」
「だから、そのような目標を天から運よく与えられた人は、逆にいうとそれを全身全霊で追求する使命を与えられたということなんだよ」
電車が減速し始める。人にあふれた渋谷駅のプラットフォームが窓に流れ込んできた。
私は降りようと立ちかけた。すると、その私に向かって智恵が、
「上原さん」
と声をかけた。私は座席に座る彼女の顔を振り返る。
「上原さんは、そのギフトを与えられているんですか?」
私は何と答えればよかったのだろう。言葉が自分の中から見つからなかったから、ただ微かに苦笑いを浮かべて電車を降りた。




