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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
1章”前と下、それと上と
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7”いつか来る未来の為に


 僕と、あまり変わりはなかった。呼び名が違うだけで、ただひたすらに心を閉ざし、前を向く事しか知らないで、歩いていたらそうなっていたかもしれない。そう思うと、少しだけ悲しくなる。


 この大陸に迷い込んでから1日が立った。僕は、ある目的のために、オーランさんの国であるリズル•ゴールド王国へと向かっている最中、襲人(しゅうじん)と呼ばれる物達に襲われてしまった。だかラーガ”やフーガ”の様な力のある人間ではなく、非力なものであった為、最後は話し合いで場を丸く納めることが出来た。


 襲人とは、このトロイアス大陸に蔓延る癌そのものだと、オーランさんは話していた。人の心を持たず、笑顔で命を踏み躙る。金銭目当てではないその行為、目的はただ、ひたすらに平和にボケた人間を殺す。何故、その様な事をするのかは、分からない。理解すらしたくないと、語っていた。


 襲人は、人間の皮を被った害虫だと、口を開けるオーラン”に、何故か僕は、相打ちの言葉すら開けないでじっと下を向いたままでいた。


 かくゆう僕も、昔は、平気な顔で道端に咲く花を踏み躙る人間だった。その行為自体に目的などない、悪意などさらさらない。ただ、歩く道中で、気づくことなく踏んでいた。それなら仕方がないだろ。そう思っていた、でもそんな生き方をしてしまっていたからこそ、僕はありとあらゆる人間に冷たく接してきた。僕の人生には関係ないのだから。


 そう思うと、襲人と呼ばれる物達にも色々と苦難があったのでないかと、憶測を掻き立ててしまう。


 一人で歩く道筋に、偶然にも、偶然にも、誰かに出会えていたら、今とは違った道も張った筈。


 辛気臭い顔をして、暗い考え事をしてしまっていたのだろう。横にいるマリーさんが、心配そうな顔つきで、僕の手の甲を触れて声をかけてくれる。優しい子だ。彼の様に、優しく花を愛でれる人間なのだろう。


 僕は、花の美しさも分からなければ、踏まぬ様に歩く事も出来ない。


 そんな僕とは違い、優しい人間が育った国に、僕はいつの間にか着いていた。此処は、リズルゴールド王国。中に入れば、外の世界とはまるで違う。白い煉瓦に、上品な佇まいの建造物。奥を見れば、背の高い大きな城があり、その城の前には、噴水と一際存在感を表す銅像が立っていた。


 「この人は?」

 「この人は、この国を作った人だよ。因みに、まだ生きているからね。この人。」

 「生きてる??。じゃあこの人がオーランさんのお父さんなのかい?」

 「ん?違うよ。この人に僕らは拾って貰っただけ。」

 「どう言うことかな?、意味が全く分からないのだけど‥‥」

 「いいよ、分からなくて。でも、君を拾ったあのジジイみたいな化け物が、偶に、普通に歩いているから、くれぐれも気をつけるんだよ。」

 「??。」


 此処まで、馬車を運んでくれた襲人さんとは、お別れ。戦鋼番糸の塔を囲む塾林を出て直ぐに、拠点があるみたいなので、服をもらったら、このボロボロの服はしっかりと洗って返しに行こう。それと、帰る道中、問題を起こさない様に釘を刺しておいた。そんな気力も無さそうだけど、念の為にね、他人の為ではない。同胞の為に。


 大きな門を潜れば、首が痛くなるほど、上を見上げなければ屋根が見えない高さ。この白き城の天辺には、黄色に染められた花の紋章がよく目立つ。大きな扉を開ければ、メイドや執事といった、如何(いか)にもお偉さんの雰囲気が漂っていた。その執事たる者に、綺麗なお召し物を貰い、借りた服は洗う様にとお願いした。


 長い階段を上がり、廊下を渡り玉座の間に着く。が、そこを素通りするオーランは、飾られた絵画の裏に手を入れる。


 「え。」


 「驚いたかい?これが私の部屋だよ。さぁ、上がって上がって。」


 壁画の裏には小さなスイッチがあり、それを挙げるとただの壁が、音を出しゆっくりと扉のようにスライドしていく。


 「ふぅーー。しんどいしんどい。敦紫君もくつろぎなよ。マリー、茶を頼むよ。」


 「人が変わったように‥‥はぁぁ、わかりました。‥‥敦紫様は‥紅茶でよろしいでしょうか‥‥」


 こちらに顔を向けて話してくれるが、何故か目が合わない。包帯を巻いているから?‥まぁ良いや。


 「うん。大丈夫だよ。ありがとうマリーさん。」


 「はい!!」


 お礼を言うのは当たり前の事だと思う。お礼を言われれば、誰だって気分は良くなるものだが、あれだけ満遍な笑みを浮かべるものなのか?、‥いや、それぐらい、心が綺麗なんだろうね。感心だ。


 「‥‥‥‥アイツ‥‥まぁ、良い。さぁ、敦紫君、とりあえず感謝するよ。襲人から私達を助けてくれて、見事なものだったとマリーも言っていたよ。戦鋼番糸と喧嘩をした男は伊達ではないね。」


 「感謝は要らないよ。そんな事より、本当に王様だったんだね。此処に来るまでに通りすがる使いの様な人たちも、強張った顔してたし、もしかして怖い人なの?」


 この城内に入ってからオーランは、一度たりとも口を開けなかった。最初に会ったときの様な、陽気な雰囲気もなくなり、足音を鳴らし、威厳たっぷりの顔を作っていた。


 「まぁ、一国の長だからね。それ相応の立ち振る舞いはしなければ行けない。国を守る為、何かを守る為には、時に仮面を被る必要もあるんだよ。でも、意外と仮面を被るのにも体力や精神の消耗が激しくてね。だから、城に隠れ家を作ったんだ。もう一つ隠し部屋があるのだけど‥それはまた然るべき時に‥‥ね。」


 此処が城の中だとは思えない。そう思えるほど、古びた家具に、年季が入ったテーブル。歩けば、床の軋む音が聞こえてくる。外を覗ける窓辺だけが、この場所を城の中だと証明している。この部屋に入ってからオーランは人が変わったようにグッタリとしている。


 「‥‥‥。どうしたんだい?そんなに私を見つめて」


 「いや、ここが好きなんだね。」


 「ふふ、分かるかい、仮面を被る者たちは、皆休息の場を儲けるんだ。自分の大好きな物だけがある場所や、生まれ育った故郷に似た場所。まぁ、それすら隠そうとするから、困った物なんだけどね。‥さぁ、ただのんびりと会話をするのも悪くないが、そろそろ本題に入ろう。」


 ここリズルゴールド王国。歴史は、他の国に比べればまだまだ浅いが、列記とした国。ゴミ一つ落ちていない舗装された煉瓦道に、商人たちが屋台を出し賑わいを見せる。所々に空き地があり、平和の産物達が、輪になりはしゃいでいる。


 そんなリズルゴールド王国から、今度は、西の方角に進めば到達する国、スイレ王国がある。そこで、半年前、この世界を震撼させる事件が起きたのだ。


 「半年前、『転移』と言う形で別次元の世界から君と同じ人間を呼び出したのだ。そもそも転移と言う言葉を知らぬ者が大半、知っているのもこの国に生きる私達とごく僅か、何処で情報が漏れたのかは知らぬが‥‥」


 スイレ王国は、転移の技術を知り、そしてやってのけたのだ。だが、そもそも何故、別次元の人間が必要だったのか。


 「スイレ王国の国王は、呼んだ異世界人にこう伝えたのさ、隣のリズルが攻めてくるから助けて欲しい‥って、そんな無駄な事はしないよ。奴らは嘘を吐き、呼んだその人間に有りもしない『勇者』の肩書を付け、駒のように扱おうとしたんだ。」


 スイレ王国。このトロイアス大陸で一番古い国。歴史の宝物庫と称される王国にも関わらず、発展があまり進んでおらず国も小さいままだった。だが王が代わり一変。自然を破壊しては領土を拡大し他の国に宣戦布告する始末。だがスイレ王国の兵力はミジンコ程度、他の国に喧嘩を打ったところで勝てる筈もなく、相手にすらされない。


 「何処からかの噂か知らないが、君のような強い人間が召喚出来ると聞き、やったのだが、大失敗。」


 この世界で戦う術も知らず、剣すら触れない。挙げ句の果てには戦う事が嫌いだと。出来る事と言えば猿芸だけ、別次元の世界から呼んだ人間は、ただの人間。非力な人間であった。


 「思っていた物とは違う物。そうと分かりスイレの人間達はどうしたと思う?その子を殺そうとしたんだ。」


 残虐非道。元の星に返す方法は知らなかったのか、無かった事にしようと、異世界人を殺そうとした。


 「でもね。一人、立派で逞しく強い人がその異世界人を助けたんだ。」


 この世界には、襲人の影響もあり、国の外を歩く為には多少の戦闘知識が必要になってくる。それは様々、剣や物理といった技術、リゲイトを扱う技術。そして、魔法と言うもの。


 だが、その全てを持ち合わせていなかった彼に、ある一つの期待の案が挙げられた。選ばれた者にしか得られない力。この大陸でも数名しか宿していない力。『皇種(おうばい)』。


 「何も無いからこそ、選ばれた力が発現するのでは無いかって、なんとあっさりと承諾されて生き延びる事が出来たのだが、せっかちな物で国の王は、猶予を設けたんだ。」


 たった、10日。その少なき時間の中で、『皇種』の力を呼び起こし己が勇者だと言うことを証明して見せろ。と、


 「文句も言わずに、鍛錬に励んだんだ。が、召喚されて、9日後にその子は、壊れてしまう。でも大した物だよ、敦紫君が味わった苦痛を9日間も耐えたんだから‥可哀想に。」


 異世界人は、苦痛に耐える事が出来なくなり暴走。気づけば、空を覆い隠すほどの火を作り、火の雨を降らせたのだ。一瞬にして、街は燃え、火の海となる。異色である彼の影響か、招かれざる客人も集まり、スイレ王国は一瞬にして地獄と化してしまう。


 「が、運が良いことに、助けが来てくれてね。最悪だと思える一歩手前で止まる事が出来た。‥‥と、まぁ、こんな感じかな。」


 「それと、僕に何の関係が?」


 「ん、ここからだよ。異世界人は捉える事が出来なくてね。逃してしまったんだ。」


 「‥‥‥‥。」


 逃げ足が早く。今も尚、異世界人がこの大陸に彷徨い続けている可能性が高い。その影響か、この大陸には不可解な事件が多発しているのだ。


 「もう、分かるね?。君の力は、襲人の一件で十分理解している。戦鋼番糸と戦える程の実力に、襲人を手玉に取る知力に冷静さ。‥と言う事で。我、リズルゴールド王国、国王、リズル/サホト=オーラン”は、敦紫殿に任務を命ずる。」


 

  身勝手で生まれてしまった、悲しき異世界人(バケモノ)を、敦紫殿のお力で、(とむら)って欲しい。



 ‥‥‥‥‥。


 「この件に関して、誰も動こうとしないのだ。この大陸の秩序を守る戦鋼番糸(せんこうばんし)ですら、目を背けている。暴走し、自我を失った異世界人が、今も何処かで彷徨っている。か弱き民は、夜もぐっすりと眠れぬ毎日だ。もう、頼れるのは君しかいない。とは言ったものの、強要はしない。君の自由を尊重する。元の世界への返り方も探せば‥‥」


 「その子は、‥ラーガ”やフーガ”より強いのかな?」


 オーランの言葉の途中、下を向く敦紫は横入りする。この件に関しての、応答ではなく。質問を投げかける。


 「‥どうだろう。でも、国を滅ぼしかけたんだ。それ相応の力があると踏んだ方がいい。」


 「そう、‥‥」


 元いた世界。僕はそこで、人生を変えてくれた一人の友人がいたんだ。そんな彼は、死ぬほど強かった。生前一度も、勝てた事がなかった。()()()()されたら、僕の知識を全て振り絞っても太刀打ちできない。元の世界にあるすべての技術を工夫して彼に挑んだけど、結果はずっと同じ。


 「その子は、今何処にいるのか分かるのかな?」


 「すまないが、分からない。」


 「そう。」


 今僕がいるこの世界は、僕の知らない事ばかり、全てとは行かないが、幾つかは学んでおきたい。彼と、また逢えた日に、一泡吹かせる為に。


 「いいよ。僕と同じ異世界を殺せば良いんでしょ。これも経験。」

 

 「‥あ、よいのか?」


 正直、この世界がどうなろうと知った事ではない。僕と同じ類の子を、今の僕の力で沈める事が出来るのかすら、わからない。それに、そこで駄目で死んでしまったら、それはそれで本望。僕の本当の目的はこの世界にはない。


 「?。お願いしている方が、何故戸惑ってるの?」


 「いや、見た感じ敦紫君は、若い。人生としての経験も浅い筈なのに、何故君は、そこまで冷静で居られる。突如としてやってきた身、それに見たこともない景色に、昼頃の一件も、何故君は一つも戸惑いを見せない。」


 「なんでだろう。慣れじゃないかな?、僕が生きていた世界には、もっともっと、可笑しな人間が居たからね。」


 「慣れ?、‥‥そうか、なら。この件に関しては、我が王国が、全力を持って援助させていただく。と言う事で!!」



  魔法のお勉強だ!!



 ————————————————————————



 「敦紫様には、特別に美味しいお茶を作る為にお時間がかかってしまいましたが‥‥また、私の前を呼んで、感謝してくれますでしょうか‥‥ふふ。」


 長い長い廊下、途切れることの無い赤い絨毯の上を、湯呑みを持っていることを忘れて、こぼす笑顔に加えて軽やかなステップをするマリー。


 「あれ?」


 オーランが寛ぐ部屋は、秘密の隠し部屋。その部屋の入り方、それにその部屋の存在を知るのもオーランと彼女だけ、他の人間には、決してバラしたくはない物。それなのに、隠し部屋である扉が少しだけ、開けっぱなしになっていた。


 「お兄さま!!、‥‥‥。」


 中に入り、叱りつけてやろうと。力一杯に足を踏み込め入るも、そこには、オーランと敦紫の面影はなかった。その代わり、


 「‥へぇ、これがあの詩人が書いた、予言の書か。」


 オーランがいつも座る椅子に、一人知らぬ大柄な体型に似合わぬ口調の男が、片手に何やら本を開けて読んでいる。少しだけ空いた窓からは、風と声が流れてくると、黄白色のカーテンがひらりと揺れる。


 「‥‥あぁ、ごめんねお邪魔しているよ。因みに二人は僕がきた頃にはもう、外に行ってはしゃいでいるよ。ほら」


 「‥あなたは?、‥‥何故この部屋の事を?‥‥」


 「んん?彼を追いかけていたらついね。寛げるスペースがあったから、ここで、のんびりしながらこの本でも読もうかなって。」


 その男の手には、『共に散る』と書かれた分厚めの赤い本。


 「暴走した友を止める為、溜め込んだ物を全て吐き出し、背には、美しき花に鎖をかけ目を奪い、いざ空へと‥‥。そして、最後はこうだ。」



 ——その為に、暴走を止める救世主の拠り所をこの場所に作る。いつかくる救世主を手助けできるように、ある二人を拾った。後は時間が解決してくれる。そう思っていたのだが、一つ懸念点がある。すべての巡り合わせが重なり合わなければ、完成しない。只々、私は偶然を望もう。



 「‥‥‥なんとも美しい結末。すごいね。この本、救世主様の名前も書いてある。何者なんだい?この人。」


 「貴方は一体‥‥‥。顔に、声に、体付きに、彼の方に似ている‥‥。」


 「はっはっは!、似てるって、本人だからね。」


 「!?。」


 「この詩を見て感じ取ったよ。君達は、名の通り彼をしっかりとサポートしてあげてね。じゃないと、大陸が木っ端微塵だ。後、この本は貰っていくね。無言で持って行ったら泥棒になってしまう。それじゃあ。」


 パン!!っと大きな音を上げて本を締めると、瞬時に男の姿は何処かへと消えて行ってしまった。

   

 

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