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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
1章”前と下、それと上と
6/29

6”本の些細な一言で


 「‥この世界には少し慣れましたか?」


 「ふふ、どうだろう。まだまだかな。」


 タイヤが回転し擦れる音。道とゆう道もなく、小刻みに跳ねる馬車。この一体に長く植えられた木々達を掻き分けながら、馬を叩き、颯爽と走る豪勢に彩られた馬車の中に3人の男女。


 「‥少し揺れますが、気持ち悪くはないですか?」


 「うん。大丈夫だよ。親切にありがと。」


 「‥‥‥。」


 会話を交える二人は、先日この世界に迷い込んでしまった敦紫と、それに救いの手を差し伸べたマリー。そして、反対側の席には、もう一人の男が、無言のまま眉間(みけん)(しわ)を寄せている。


 「何かお飲み物は‥‥」


 「あぁ、頂戴するよ。」


 外からでは、ガタガタと石を踏み弾む馬車ではあるが、その中では、ティーカップに一滴も溢さず紅茶を入れる事ができる。なんとも不思議なもの。湯気が上がる紅茶をマリーさんが注ぎ、貰おうとする僕の手にマリーさんの手が触れる。


 「あ、大変失礼致しました‥‥」


 「ん?大丈夫だよ。」


 マリーは、もじもじとして顔を赤らめている。湯気が湧き上がる紅茶の香りも相まって、この空間に少しの甘い時間が訪れる。


 青春の1ページ、と言ったところだろうか。‥‥‥


 

 「‥‥‥。いやいやいや無理無理無理。僕をほっといて何いい感じになってんの?マリーの人生、それと君の人生、僕がとやかく言うわけには行かない。だがしかし、今は違う。なんで君は、


 まだ服を着ていないんだぁぁ、!」


 「あぁ、そうだった。」


 「きゃあ!!」


 「え!?。遅いよ。ほんとにそれ?ほんとに?」


 そう言えばまた服を失った。ラーガ”達と戦って、ケイジュさんから借りた服を汚してしまった。僕は、汚れたままでもいいって伝えても、引き剥がす様にすべてを脱がされた。借りた物を汚すなど言語道断、もう貸してくれる事なんてなさそうだ。


 と言う事で、僕は着る服がないままお迎えが来てしまった。


 「それで、なんで君は包帯だらけなんだ。バランスがおかしいよ。顔だけグルグルに包帯を巻いて、隠さないといけないところも曝け出して、ただの変態じゃないか!」


 「‥変態。‥‥そう言えばフーガ”にも言われたよ。」


 「当たり前だ!!」


 だが仕方がない。服がないのだから、解決の糸口が見つからないまま焦っても仕方がない。目的地に着いた時には、ボロボロでも良い、服を頂戴する事にする。


 僕は、ある場所に向かっている。それが、この馬車に揺られる二人の住む国。名を、リズル・ゴールド王国。一夜を過ごした塔がこの大陸の中心。そこから、東に真っ直ぐと進めばある国。


 「と言うよりも、何故包帯を巻いているんだい?転んだのかい?」


 「いや、少し喧嘩をしてね。」


 「喧嘩!?。だれと、まさか戦鋼番糸と!?馬鹿なのかい?死にたいのかい?」


 顔に巻かれてしまった包帯。視界が凄く悪くなりしっかりと見えない。口元にすら覆い隠す様に巻かれた包帯を器用につまみあげる。そして、湯気が湧き出る紅茶を喉に通す。


 紅茶のおかげで、落ち着けたのか僕の視野は少し広くなった。改めてだが、僕が生きてきた世界とは全くもって異なる世界。いつの間にか、森林地帯を抜けていた。あの森を飛び出した先に待っていた物は、何もない、草原が広がる大地。


 そう、大地と呼んでも良い。そんな場所が広がっていた。


 元いた世界、僕が住んでいた場所に大地と言える場所はあったのだろうかと。確かに、大地ではあるが、そんな言葉は出てくる筈もない。これでもかと、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた建物が建つ元の世界。そんな世界とは違い、何もない。が、それが良い。


 「窓を開けても良いかな?」  


 「はい。風が立ちますのでお気をつけを」


 物見から見える自然の風景。視覚だけでも感じれる心地よさ。フカフカのソファに座り紅茶を嗜みながら絶景を眺める。充分に満足できる代物ではあるが、感じてみたい。そう思い、力一杯に窓を開けて風に触れてみようとする。


 「心地の良い風だ。熱くも、冷たくもなく。丁度いい風だね。ん?あれは‥‥」


 「君の世界にはなかったのかい?‥‥なら自然とゆう物を味わっておくと良いよ。‥‥良いんだけどね。自然を味わうのは、‥でも、僕の顔の前に君のお尻があるのは、どうかと思うんだ。‥」

 

 「あ、ごめんね。と言うよりも‥あれは‥‥。」


 「あ、ごめんね。じゃなくてね。止めようかその体制、色々と不味いって、次期‥‥うぁぁ!?」


 あれだけ走らしても揺れたなかった馬車が、斜めになる程の揺れを起こし、座っていたオーランは転がる様に壁にぶつかってしまう。敦紫の身体はそんな揺れでもびくともせず、オーランと同じく転がりそうになるマリーの手を掴み、怪我を防ぐ事ができた。


 状況を把握するため、物見から外を見渡すと、風景が移動していない。今、この馬車は止まっている様だった。そして、静かであった外がやけに騒がしくなっている。


 頭を摩りなが、手摺りに捕まり立つことに成功したオーランは、大声を出して、前で馬を走らせる二人の男に問い正す。だが、返答は返ってこず、その代わりこの馬車の入り口である後ろの大きなドアを開ける音が聞こえた。


 「陛下!!。お逃げください!!襲人で御座いグハァ!!」


 「きゃああああ!!」


 ドアをこじ開けてきたのは、この馬車を操縦する一人の男。何やら焦った様子で、口を動かす束の間、僕の目の前で血飛沫をあげて、倒れてしまい、横にいたマリーさんは悲鳴をあげる。


 「クソ。あの森を抜ければこれだ。腕利の護衛を二人、つけていたつもりだったが、甘かったか。」


 「‥陛下?って事は、オーランさんは王様?偉い人?」


 「あぁ、言っていなかったかな。そうだとも私が王様だ‥が、そんな事今はどうでも良い!!。敦紫殿よ、マリーを見ておいてくれないかな?‥‥襲人は、蛆虫の様に湧いて出てくる。」


 「襲人?」


 「そうだね、君は知らないよね。当然だ。まぁ、簡単に言えば、人間の皮を被った害虫だよ。」


 「‥‥‥。」


 オーランは、胸を張り腕まくりをすると、細い腕が顔を出す。やる気満々の表情ではあるが、足を見れば服の上からでも分かるほどに小刻みに震えている。


 すると、血を流し倒れた男を放り投げて、野蛮な表情を浮かべ無精髭(ぶしょうひげ)を生やした男が、足音を鳴らし入ってくる。


 「なんだなんだ?こんな豪華な馬車に、誰が乗っているのかと思えば、一国の王様が乗ってるじゃねえか?、それに、上玉も‥‥ん?奴隷でも雇ってのか?」


 手入れもされていない短髪に、汚れ切った服。滴り落ちる血がついた剣を舐めながら、マリーの顔をじっと見て笑みを浮かべる。品性のカケラもない。まぁ、今の僕が言える事じゃないけど。


 「王様さんよ。そこのお綺麗なお嬢さんくれりゃあ、見逃してやるぜ?それともどうする。ここで死ぬか?」


 「ふん、蛮族如きが、舐めて貰ったら困るぞ。私も、国の頭をやっている身、一筋縄では行かんぞ。それに、私の背には、色んな化け物達がいるのだぞ?それをしっかりと把握し、その武器をどうするか、考えた方が——ヒィ!!」


 話を聞くや否や、その物騒な男は例えの通り、口を開けるオーランの太ももを軽く切り裂く。こちらから見ればただの擦り傷の様にも見えるが、足を押さえて倒れてしまった。倒れたオーランの姿を見て、男は首を傾げたまま、腹を強く蹴り道を作る。


 ドシっと僕らの前に座り、足を組む始末。なんとも品がない。‥まぁ、僕が言うのもおかしいけど。


 切られた痛みなのか、蹴られた反動なのか、白目を向いて気絶してしまっている。


 「煙草あるか?ねぇのか?まぁいい、で、王様は死ぬことを選んだが、お嬢さんはどうする?抵抗するなら、身体に傷が付かない程度には痛みつけるがどうする?」


 目を震わせ、手を震わせて僕の腕を掴んでくるマリーさん、僕の心臓の音が掻き消える程に、彼女の乱れた動悸が僕の身体に伝わってくる。怖いのだろう。当たり前だ、それと‥‥煙草‥‥。お前の様な品の悪い人間が?


 「おいおい。奴隷なんかに頼っても如何にもならねぇよ?おい!お前は煙草持ってねぇのか?あるわけねぇか。綺麗な女見ながら吸う煙草は格別だからよ。」


 『お前の様な奴が、煙草を口にするな。彼の品が下がるだろ。』


 「!?」


 一瞬の出来事であった。野蛮な男は、一人ではなく数名を集めて、この馬車を襲撃した。ともなれば、似た様な不格好の男達が、この馬車を囲んでいる状態。予想では、外で帰りを待つ男達は、無精髭の男が入った入口から出てくる物だと思っている。だが、


 「え??」

 「おいおい、なんだ!?」

 「派手にやったなぁ、って(かしら)!?」


 静まり返った馬車から、途轍もない音が聞こえると、扉でも、窓からでもなく、壁をぶち破り男が出てきたのだ。馬車からは煙が上がり、突き飛ばされたであろう男は、服が弾け、膝をつき咳き込む始末。


 一体全体、何が起きたのだと、周囲にいる男達が一斉に集まり出す。


 「(かしら)!?。大丈夫ですか!」

 「ゴホン!ゴホン!、はぁはぁ、不味い。中に‥‥護衛がいた。‥‥気を‥つけろ。」

 「まさか!?、腕の効く、魔法使いでも‥‥」

 「ちがう。‥不思議な体術‥‥一度味わった事がある‥‥中に‥‥。化け物が‥‥」

 「え?」

 

 満身創痍な男は、腕を振るわせ指を刺す。馬車から一筋に上がる煙、その中から薄らと人影が見えてくる。この場に緊張を齎し、周りにいた男達は皆武器を取り出し戦闘体制に入る。生唾を呑み、上がる煙からゆっくりと出てくる『化け物』を、凝視する。


 「‥なぁ!?‥あ‥‥え?‥え、え、化け物?か‥‥な。いや、どう見ても変態じゃないんですか?あれ‥」


 ぶち破られた馬車から、正体を表したのは、顔に包帯を巻いた、全裸の男。何一つ顔の状態など確認できない、性別すら普通なら分からない状況だが、立派な物が付いているため男達は、判断できた。


 「ギャハハ!!おいおい、なんだよあれ?」

 「あんな奴に吹き飛ばされたんですかい頭。」

 

 「テメェら!!油断するなぁ!!」


 「え‥」


 笑っていた男の前には知らぬ手。それが彼の最後の記憶であった。包帯を巻き裸の敦紫は、間合いを急速に詰めて、男の顔を掴み、地面に叩き落としたのだ。


 いま、起きた事と、頭と呼ぶ男が吹き飛ばされた事により、笑みなどは溢せぬ状況へと変貌する。すぐに体制を立て直すべく、剣を握り締め、矢を取り出し標準を合わせる男もいた。


 「‥‥。弓矢‥‥。初めて見たよ。人を殺す目的の弓矢は、どんな気持ちなんだい?‥しっかりと狙いなよ。己の信念を見失うと直ぐに矢の方角は的に逸れるからね‥‥。まぁいいや、飛び道具は禁止ね。」


 ——戦鋼番糸:戦闘武術『地悲(じひ)


 足をあげて、強く地を踏み倒すと、地はうねりをあげ、先日ラーガ”が使った技と大差のない程のものへと進化していた。そして、揺れる地面により、男達は、体制を崩し皆転んでしまう。


 「ひぃ、魔法!?、なんだこれは!!クソォ!」


 転んだ体勢でも、矢をもう一度構え、満足そうな顔を浮かべる敦紫に向けて放つ、その弾道は見事なものだが、敦紫は避けることもせず、飛んできた矢を掴んで防いだ。


 「え‥‥。」


 「君の服もボロボロだけど、他の人に比べて綺麗だね。‥‥貸してくれないかな?洗って返すから‥ね?」


 「舐めるなよぉぉ!!土属性系統魔法!!」


 敦紫によって吹き飛ばされた無精髭の男は、敦紫に手を広げ向けると何かを唱え出す。男の手からは小さな円唱が、噴き出てくると、その色が濃くなってゆく。


 敦紫にとってはまた見たことも無いものではあった。興味は湧いていたのだが、それが何なのかは問いたださなかった。自身には目的がある。気になる事は、国についてから聞けばいい事。が一つの小さな理由、そしてもう一つ


 「いいねぇ、見た事も、聞いた事もない物ばかり。‥‥でも、お前は嫌いだから、他の人様に聞く事にするよ。お前は、僕の目の前から消えて欲しい。‥『天歩(てんぽ)』」


 先ほどまで距離の離れた場所に居たはずなのに、今は、目の前に裸の男が立っていた事、そして、ゆっくりと眼には、拳が接近している事がわかるも、時すでに遅く、争うことすら許されなかった。


 「戦鋼番‥あ、長い。いいや『噴波(ふんは)』」


 周囲いた男達は、感覚で耳を塞いでしまうほどの音がこの場を蹂躙し、目すら瞑ってしまった。何が起きたのかと、恐る恐る目を開けると、無精髭の男の姿はなく、拳から煙が上がる敦紫だけが、立っていた。


 「ん?、怖がらなくていいよ。君たちの頭さんは、飛んで行っただけだよ。殺してなんかない、僕も、無駄過ぎる戦いは避けたいんだ。‥‥でも、このままじゃ、みんな頭さんみたいになっちゃう。だから、ね。」


 「え、‥」

 「‥化け物だ‥いや、変態だ、‥どっちもか‥」

 「おい、お前!!この化け物に‥変態に、服渡せ!!」

 「あ、はい!!」


 服を借りる事に成功した僕は、少し汚れたズボンを履き、破れたシャツを羽織りボタンを閉める中、もう一つある事を思い出す。その間、何故か男達は皆、背筋を綺麗に伸ばし正座をしている。


 「‥ねぇ、君たちがちょっかい掛けた、護衛の人達は、殺しちゃったのかな?すごい血、流してるし、あぁ、殺したのかな?そう言えば僕のいた世界には、自分がやった事は、自分に降りかかる。見ないな言葉があったんだけど‥‥君たちは‥二人、殺しちゃったもんね。」


 「何を言いますか!、少しの威嚇の様なものでございますよ。ご冗談ですよ、ご冗談。‥おぉい!テメェら!!急いで包帯と傷薬持ってこいい!!」


 「‥威嚇?。」


 「ヒィィ」


 子供の背丈ぐらいの石に腰を落とし、服を着る敦紫のその姿を、ただ一人、曇りなき眼で見つめている女性。襲撃に遭ってからものの数分で、鎮圧化。それも単騎で。卓越された技術で敵を翻弄し、全てを根絶やしにする訳でもなく、リーダー格の男の首を折り無駄な争いを避けた。約一名、確認は取れないが、死者は誰一人として出なかった。


 「やはり、あの人なら‥‥。」


 この世界にやってきた、たった1日。


 それで、あの技量。冷静な判断に、野蛮なもの達を一瞬にして、配下に置くカリスマ性に話術。全裸である事を除いては、何に一つ欠ける物がなかった。天才だと、言い表す他はなかった。


 彼女だけが、馬車の中で何が起きたのかを見ていた。移動中も、戦いの最中も、そして、襲人と言われる男が入ってきても冷静だった。そんな彼が、一度、怒りを表した。


 包帯を巻いて、顔色など分からない筈なのに、雰囲気だけでそう言わしめるほどの怒りを感じ取ってしまった。


 どこで、何で、怒っていたのかなど知らない。だが、自分の事で怒っている様には見えなかった。


 マリーは、ずっと、気絶する兄の手当てを忘れ、破壊された馬車の中から敦紫を見つめている。先ほどから収まることのない心臓の鼓動を落ち着かせようとも、帰って逆効果。


 襲人から、来る恐怖なのか、敦紫のほんの一瞬の怒りによって起きた恐怖なのか、はたまた‥‥


 胸に手を当てて、正体を探ろうとも、いつまで経っても答えは分からなかった。


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