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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
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58”即座即決の功績者。


  緑を一つ、また一つ、真っ赤になる魔法の弾丸にぶち壊され、火の手が上がる。黒い煙が上がれば夜空を覆い隠し星や月の光すら確認出来ない程の雲を作り出す。逃げ行く人々の悲鳴を聞きながら笑みを溢し、その手を止めない。その足を止めない。


 これでもかと、生き残っている建物全てに己の魔胞子(バーベ)を叩き込んでゆく。丁度この村の中央。目に止まる物が一つ。


 「‥、ふん。」


 彫像。手を繋ぐ二方の彫像に向けて標準をかける。

 ‥その背後。


 「‥‥、ふふふ、凄い殺気ですね。怖い怖い。」

 「‥‥‥、。」


 意思が宿った長い髪は疎に浮き、彼女の周りは歪む程の殺気を放つ。そんな彼女は背後で返答も無く、首を動かし辺りの景色を見渡している。声を掛けても無視をされるので、構う事なく彫像に向けて魔法を放つ。


 「‥‥はやいですねぇ。うぅ!?」


 腕を掴まれ引っ張られると、目的を変えて空へと魔法が放たれる。上空で大爆発を起こすその様に目が行くその瞬間、腹部には強烈な痛みが伝わった。


 「‥‥‥、お前か?お前だよな?‥ティアラさんを何処にやった?‥シキミちゃんを何処やった?‥‥何処に、誰に‥攻撃を仕掛けたのか分かっているのかい?無知な餓鬼が。」


 「‥無知?貴方よりも知っていますよ。」

 「!?」


  【魔法】:常闇に潜みし矢(まなびえらんだや)


 頭上に禍々しい黒色をした矢を三本出現させると、脳天、心臓、脛、目掛けて矢を同時に飛ばす。これまた彼女の殺気に勝る程の魔胞子の濃さは少なからず彼女の視界にも映り込んでしまう。至近距離に加えて音を置いていく程の速さ。


 常人であれば、死あるのみ。


 「‥‥。ふぅ。」


 頭に向けて襲う矢を先ずは己の息で吹き飛ばし、足をへし折る矢を蹴り上げて、進行方向を変え、二つの矢は完封。


 「あらら、当たっちゃいましたねぇ。」

 「ぐぅ‥‥」


 心の臓を貫く矢を避けようとするが、他二本の矢を同時に対処。その体制では華麗に避ける事が出来ず、致命傷は逃れたものの肩に刺さってしまう。


 「‥‥‥。(私の身体に刺さった?)」


 黒く、標的に当たって尚残る魔胞子の矢を握り、力強くへし折ると砂埃の様に形は消えていく。


 「‥何が目的。」


 「‥‥、知識は得ましてねぇ。‥後は力のみとなりました。だから、来たんです。」


 「??。」


 「ぜぇーぶ。知っていますよ。あの森の意味と理由。貴方と私の存在、加えて『百手(はくしゅ)』と怖がられるあのチビの存在も。」


 ‥‥‥‥、だから何?この村を攻撃する理由にはならない。


 ‥‥‥、だからこうなるんですよ。己の立場を踏まえず目を逸らした結果です。


 ‥‥‥。



   全てを知れた。だから、貴方の力を奪いに来ましたよ。‥いや、取り返しに来ましたよ。



    【自由】の表現者(オドントグロッサム)ハルス”シフォン。



  —————————————————————



 早く逃げろぉぉ!!


 この場所にこの言葉が上がる中、砂埃を掻き立て寝巻きのまま走り回る人々。悲鳴に、怒り、その声色だけがこの国中を充満させる。上がる煙は火元からではなく、衝撃による物。


 此処は不穏な空気が立ち込めるある村を真っ直ぐに東へ、ヒヨドリの森と隣接するリズルゴールド王国。そして、この国中では眠りに就くこの時間帯にも関わらず騒がしい様子を見せる。何故、五月蝿いのか。何に、逃げているのか。


 ブォォォォォォォォォォ!!


 壁を突き破り、またある一匹は地面を抉り、この国を暴れ回る存在。‥魔獣である。


 「早く逃げろ!!丈夫な城の中へと避難するのだぁ!!急げぇ!!クソ!!一体全体どうなっている!何故こんなところに魔獣が‥‥」


 この国の人が列を作り、号令の元城へと走ってゆく。そんな人の波に逆らい走る一人の男。見つめる先は、噴水広場近辺、彼方側には所狭しに魔獣が徘徊し、暴れ回る‥‥


 「‥スイレと同じ現象が‥‥ん?」


 確かに暴れている。だがそれは見方の問題であった。唾液を垂らし、雄叫びを上げる。真っ赤に染まった目をギョロギョロと動かす仕草は腰が引けてしまう。しかし、壊す事が目的ではない、それは彼らの行動により理解できた。


 鼻を前に突き出して、目を動かして首を回転させる。魔獣が歩く先にただ人工物があるだけ。魔獣らは何かを探している。


 「おーい!!ドクレス君!これは一体どう言う事なんだ!!」


 人の波を逆らい魔獣が蔓延る場所を見つめるドクレスの後方で、動きにくい服装をしたオーランが息を切らし走ってくる。


 「ば!何故出てきた!!」

 「当たり前だろ、国の一大事だ!国のトップが動かずして、誰が動く!!‥‥‥。‥‥はぇ??。」


 ドクレスの元へ向かうオーランだったのだが、微かな月の光が突如として消え、足元が真っ暗になる。丁度、雲が月に掛かり光が消えたのだ、そう信じ唾を飲み込み顔を上げる。


 「グルルルルルル」


 「‥‥ま、ま、ま、」

 

 溢れる異様な殺気。残念ながら、雲の仕業ではなく魔獣の大きな身体で作られた影であった。自分の身体よりも遥かに大きな図体は、迫力を増し膝続けて腰が抜けてしまう。


 「だから言っただろう!!国の頭が潰れれば破滅に傾くだけだ!!ん!?」


 キャアアアア!!と声がドクレスの耳に飛んでくる。少し先、噴水広場では逃げ遅れたこの国の市民が一人、魔獣に詰め寄られ、今にも喰われてしまう勢い。


 「クソォ!!逃げ遅れたか!!」


 この状況、助ける事が出来るのは一人。魔獣と互角に渡り合える者は、この国にドクレスしか存在しない。時間稼ぎなら出来るかもしれないマルクワも学童の生徒たちを避難させる事で手が一杯。フリーシアの騎士団もこの国にいるわけもなく。


 「‥‥はぁ、はぁ、どうする。‥何方を‥」


 選択の時。決して、この世界は時を止められない。一つの身体は、当然一つしか助ける事は出来ない。何方も同じ。平等の上成り立っている『命』が此処ぞとばかりに邪魔をする。


 「はぁ、はぁ、‥‥、何方を」


 目の前で身体が硬直する。一分一秒無駄に出来ないこの時間に本来なら加担することの無い思考を使ってしまう。


 平等なら、どう決める。同じ命なのだろう。


 「はぁ、はぁ、‥‥大切な物を‥‥」


 本末転倒、価値を創り上げた人間がそれにより苦しむ。ドクレスにはこの様な経験が一度だけある。その時は、声を聞き、託された。だから選んだ。それがトラウマとなる。


 「‥‥、お嬢様‥‥私は何方を‥‥また、また、」


 思考の時間、周りの風景は着々と移り変わって行く。目を爪を光らせ、腰が抜けたオーランに向けて振り翳す。傍ら、噴水広場で悲鳴を上げる女性の周りにはぞろぞろと魔獣が集まり出す。もう時間は無い。


 最悪な状況を避ける為、もう、答えを出さなければ行けない。


 ある偉大な人間の様に、『選択』と言う言葉の哲学はしっかりと出来ていないドクレス。


 「‥‥私は‥‥‥、また‥‥何方かを‥‥何方を‥‥‥師匠‥」


 そんな時、頭には重みが。


 「此処に居たの?」

 「え‥‥。」


 頭の上には、この国に迷い込んだアイネが身を置き、それを撫でる金色の英雄の姿。


 「‥‥ヘレン様‥‥。」


 懐にしまっていた髪紐を取り出し咥えて、金色に輝く髪を束ねて結ぶ。座り込むドクレスの前を歩きながら準備体操をする。


 「‥大丈夫よ。今度は‥私がいる。」

 「‥‥‥お嬢さま‥‥‥。」


 此方に近づく彼女の気配に魔獣の耳は其方に傾く。しかし、見向きもせずに口を開けるオーランに向けて、上げたその大きく殺気を帯びた手を躊躇いなく下ろした。


 「うぁぁぁぁぁ!!‥‥‥?‥‥あれ?‥‥‥え?」


 オーランの目には魔獣の手、但し動かぬ手。人の身体程の大きさをした魔獣の手首には、美しく細く小さな手が触れられている。


 「‥、無視は良くありませんよ。どうせ、あの腹黒執事の仕業でしょう。この国には貴方たちのお目当ての人間は居ません。残念でしたね。」


 魔獣の動きをその小さな手一つで止める。そして何故だか、その魔獣の足は浮いて行く。


 「‥どうせ、見つけられたとしても、貴方たちが指示された目的は果たせませんよ。良かったですね。私だけで。今頃、、貴方達は空の上で溺れていた所ですよ。」


 ドクレス視点、彼女が今起こす行動に初動の動作は無かった。足も腰も動いていない。動くのは触れたその小さな手と腕。


 「今、私はどれぐらいの所を歩いているんでしょうか?先々に歩いている翔様の背中ぐらいは見えているでしょうか。」


 彼女の腕が上に上がる。それはあり得ない事。魔獣の腕を掴んだままであるからして。


 「‥翔様は‥‥、貴方よりも遥かに大きな魔獣と素手で渡り合いました。小さな小さな女の子を守る為。‥‥ならば、私も護る為、授かったこの力を使いましょう。」


 魔獣からして三分の一に満たない身体の個体差。少しでも蹴られれば致命傷を負う体重差。なのに、今は、彼女は地に立ち天に上がるその手には自分よりも遥かに大きな魔獣。


 「‥‥、なんと‥‥、」


 不思議な光景にオーランは言葉を漏らす。一人の女の子が魔獣とゆう化け物を軽々と持ち上げているのだ。彼女の身体の輪郭から推測すればあり得ては行けない事。


 上がった魔獣は、抵抗もなく若しくは抵抗も出来ず、彼女に振り回されて硬い硬い地面に叩き落とされた。


 「‥魔獣を投げ飛ばした?‥‥、」

 「えぇ、壊れてしまう物は壊さない事。これが彼の方の誓いです。それが彼の方の武術。先日私も同じく壊せる事を知ってしまった。だから壊さない。‥だから投げ飛ばしました。」

 「はは、は、意味がわからない。見た事も聞いた事もないぞ人間が魔獣相手に素手で制圧するなぞ。」

 「そうですか。では、今日は沢山見れますね。」


 腰を抜かしたオーランに手を伸ばし笑顔を見せる。少し離れた距離で、頭の上に器用に寝るアイネをそのまま撫でながら、笑顔でオーランに手を差し伸べるヘレンを眺めた。


 「‥立派に‥‥強くなられましたね。もう、私なんかよりもずっと‥‥‥。‥‥そうだ!」


 ヘレンの顔を見て微笑むドクレス。しかし、落ち着いている場合ではない。彼の背、即ち噴水広場では今にも襲われそうになる市民が一人。魔獣がぞろぞろとその場所を目掛けて集まっていたのだ。今頃、大変な事に‥‥


 「あれ?‥‥‥、」


 確かに魔獣の数はこの短期間で増えている。恐怖で怯える市民も確認できた。しかし、大量に存在する魔獣が誰一人動いていない。


 「‥何故動かん?‥‥いやなんでも良い!今のうちに救助を‥‥」


 見えた少しの隙、急いで噴水の前で座り込む女性の元まで走ろうとする。だが、止められる。


 「‥大丈夫よ。」

 「‥‥ヘレン様?‥‥何を言っているのですか!チャンスは一度っきりですぞ!」

 「だから大丈夫って言ってるでしょ。ほら、」

 「‥‥え?」


 目の前にはいつ喰われても可笑しくはない人間が居ると言うのに、どの魔獣も彼女を見ていない。首を回し違う方角を見ては耳を鼻を動かす者ばかり。何故か?


 目前にあり怯える人間よりも、彼らの獲物を見つけたからだ。


 「‥‥‥、あれは‥‥」


 「ふふ、此処で暴れ回るのが化け物なら‥‥それすら喰らい尽くす怪物と言った所でしょうか?」

 

 噴水広場で屯する魔獣の群勢、本当に指定された獲物であるかを確かめるべく銅像と化し、この魔獣の輪に入ってくる一人の男を見つめる。


 履いている革靴の男が聞こえて、首元には碧く光るペンドントが目立ち


 「‥‥、なんだ。‥‥結朱華じゃないのか。‥‥此処で何をしているんだい?危ないよ。」


 白色に包まれた羽衣を身に纏い、動かぬ魔獣達を素通りし、噴水の前で座り込む女性に手を差し伸べる。止まっていた魔獣達の耳は彼の声により、鼻息を上げてまたもやいっせいに動き出した。


 「‥‥、ん?君達は、結朱華の場所知ってる?‥‥このペンダントの持ち主。」


 色々と切羽が詰まっている状況。だからこそ焦りは禁物だと、平然さを装う。立ち振る舞いはいつもと変わらない遠くで噴水広場の光景を眺めるドクレス一向。


 「‥敦紫殿?‥‥」


 へたり込む女性。この状況を助け出してくれた人。彼女は助けてくれたこの人間の差し出された手を握ろうとする。自分の命が危なかった。形はどうであれ助けてくれた。色んな噂が立つ戦鋼番糸の羽衣を着ているが関係ない。恩人に代わりはない。感謝を伝えながら白いコートを靡かれる男の手に触れようとする。


 「!??」


 彼女は手を引っ込めてしまった。変わらず目の前には敦紫の手があるのだが、身体全体に浮き上がらせる血管、筋骨隆々の化け物たちに顔を向けている。


 「‥‥はぁ、はぁ、はぁ、」


 座り込む彼女の身体全体に恐怖が迸る。


 「‥‥ねぇ、知らないかい?結朱華の場所‥‥。」

 「‥‥グルルル。」

 「‥グルルルルル。」


 目の前の恩人が口を開けた次の瞬間、彼女の視界には此処一帯を埋め尽くす魔獣の姿が消えた。残るは、白いコートを着た人間のみ。遠くで眺めるドクレス達の目のには変わらず、座り込む女性と魔獣の群れと天笠敦紫が存在した。


 遠くからでは異変に気付かないが、近くにいた彼女だけが察知してしまった。此処にいる魔獣が消えてしまう程の、彼の異様な怒り。‥‥そして、彼女だけが見えていた想像が現実となる。


 「グルルルルル、」

 「グルル‥‥ブォォォォォォォォォォ!!」


 「‥‥チィ。」


 一斉に、天笠敦紫の命目掛けて各々が動き出す。小さく小さく彼の口から舌打ちが聞こえると共に、座り込んでいた女性に向けていた手が微かに動いた。


 「‥‥、知らないのか?‥応えないのか?‥‥、なら、」



   しねよ。



 瞬間。リズルゴールドの中心点、瞼を閉じてしまう程の強き発光が起こる。しかし、観客は目を閉じていない。目を伝い脳の感覚経路に行き渡らない暗転の速度に、周囲で見ていたドクレス達は光った事すら理解出来ていない。


 故に、人間にはこの状況、何も起きていない事と等しい。


 だが、結果は残った。


 噴水広場が広くなっている事。あれだけいた魔獣の群れが木っ端微塵になっている事。黒く煌めく魔獣の残骸、その瘴気の霧雨に掛かりながら歩く一人の男。


 「‥‥雨は嫌いだ。‥‥‥全て見えなくなる。‥‥。」


 ドクレスはそんな男と目があった。


 「‥‥何が‥‥あの全てを敦紫殿が‥」

 「だから言ったでしょ。大丈夫って。‥‥」

 「‥‥待て、何故魔獣が‥‥」


 魔獣の特性上、打撃は強靭な肉体には通らず。魔法は返って逆効果。刃物で手足を切断しようとも大気に魔胞子が浮き続ける限り完全完治。無力化を図るためには、硬い硬い首を斬り頭と身体を切り離す。若しくは、大気中すべての魔胞子を消し去るか。この二択。


 この二択どちらが攻略の鍵。半年前から出没する様になった魔獣に通ずる二類の策だった。


 「‥‥魔獣達は‥‥敦紫殿に‥‥斬られたのだろう?‥‥何が起きているのだ。あそこで‥‥」


 オーランは激しく頭痛を引き起こす。要因として、対抗策であった二つの処方、その一つが消えてしまった事に。 


 一瞬だけ見えた敦紫の姿が魔獣の散り散りとなった肉体により隠されてゆく。敦紫の周りをグルグルと竜巻のように回りながら、魔獣の肉体は大気中に浮く魔胞子を糧に結合していく。そんな道半


 「‥‥ねぇ、お嬢さん。」

 「ヒィ!?」


 終始、この敦紫の行動を一番近い距離で見ていた女性に話しかける敦紫。だがそれも魔獣達のすれ違い身を寄せ合う雑音に掻き消えてしまう。


 「‥‥、今までならアレで終わっていた。そうだろう!ヘレン君!、」

 「‥‥半年前、スイレで出没した魔獣も同じ容態でした。」

 「!?、なんだと‥‥。ではどうやってスイレを救ったのだ!」


 敦紫の計り知れない速度の剣撃により魔獣達の身体は木っ端微塵になり、出来たのは魔獣達が残した黒い煙の残骸だけだった。だが、今は赤筋と白筋が見える程に形が出来上がってゆく。


 「‥‥、どうするのだ!!」

 「‥オーラン!何故貴様はまだ此処にいる!早く城の中に避難しろ!」

 「‥‥、私が連れて行くわ。‥それと‥‥」


 ヘレンが加えて何かを語ろうとした直後、魔獣の結合は止まり、途中段階であった筋肉の生成も分解され始めてゆく。


 「‥は、?、終始理解が‥追いつかない‥‥。」


 眉を顰めるドクレス。後ろでは目を見開き口を開けるオーラン。今から行われる魔獣の再構築がキャンセルされたのだ。二人の顔色は何も間違ってはない。しかし、金色の髪を見せる女性だけは涼しげな顔色を作っていた。


 「‥‥、理解が追いつかないなら、覚えておいて下さい。‥あのコートを羽織る生き物は揃いも揃って追いつけない。‥彼らの行動を見て考えるのが時間の無駄。」


 消えた魔獣、残した混黒な粒子を迷わず歩き、首元には知らぬ蒼きペンダントを光らせ、人間が持つ命への尊厳もない発言。前髪にかかる瞳は冷たく悪寒が走り、逃げ遅れた女性は光の速度で逃げてゆく。


 「‥あれがあの服の意味。血も肉も涙も無い。‥‥私達や先人達が積み上げてきた論理を真っ白にする存在。それが‥‥戦鋼番糸です。」


 静かになったこの場所ではあるが、終わってはいない。彼方此方で魔獣達が歩き回っている。今の衝撃的な光景と先程訪れた寸時の発光は少なからず魔獣たちの勘が冴え渡り、標的へと足並みを揃えてゆく。


 「さぁ、私も負けてられませんね。お師匠様を追いかけるなら‥‥アレぐらいの怪物とは肩を張らないと。」

 「いやいや、お嬢?、さっきオーランを連れて行くと‥」

 「どうせ、連れて行く最中に出くわすでしょ?。なら、全て投げ飛ばした方が早い!」

 「はぁぁぁ、んな、無茶な。」 


 何も発さず、人形と化けしまったオーランを挟み会話をするドクレスとヘレン。その三人の耳には革靴の音が聞こえてくる。


 「‥‥、あ、敦紫殿‥‥先の現象は一体‥」

 「?、あぁ、僕が息をした世界は‥アレが常識らしいよ。」

 「??。」

 「そんな事より‥‥アニス‥見ていないかい?」

 「な!?アニス!?あの、アニスか!?」


 敦紫は事細かに教会であった事を三人に話す。敦紫の発言に真剣な表情で耳を傾ける二人ではあるが一人だけ、何食わぬ顔表情を作り敦紫の横を素通りする者。


 「‥変ですね。‥‥貴方が冷静さを装っているのは‥‥そんなに強かった?アニスが‥‥」

 「?。さぁ、」


 休息の時間も束の間、この地が揺れまたまた魔獣が集まってくる。突進してくる魔獣達にまたあの冷徹な視線を送る者が一人。そして、首を鳴らし身体を温めて飛び跳ねる者が一人。このリズルゴールド王国に現段階で存在する魔獣と渡り合えるドクレスとは、また違った存在。


 「‥怖いなら、震えて身を潜めてて下さい?邪魔ですから。」

 「‥‥、隠れれるなら隠れるさ、面倒くさいし。でも、何処かにいるアニスを探し出して、殺さないと。」

 「あーあ、野蛮野蛮。本当、血も涙もない生き物ですね。」

 「‥綺麗事ばかり発信する貴方よりマシじゃないかな?‥」

 「はぁ?」

 「綺麗なのは、その剣をあまり握ってこなかった綺麗な指だけにしといてよ。」

 「‥‥はぁぁん?言っときますけどね!私は貴方よりも一つ歳上なんですよ!目上に対しての言葉がなっていない!先ずは、言葉遣いからお勉強しては?」

 「‥‥はぁぁ、たかが一つ歳上で。へ、レ、ン、様、も、情緒を安定させる様に大人になられてはどうでしょうか?」

 「ぐぬぬぬぬ、」


 魔獣が押し迫って来ると言うのに、地面の揺れは激しさを増すと言うのに、迫り来る魔獣達に視線を向ける事もせず口喧嘩を始めてしまう救世主と英雄。


 「ぬぁぁぁ!!今じゃないだろぉぉぉー!」


 とは、言った物のドクレスが叫んだ直後には二人の姿は一瞬にして消えて、背には数十匹となる魔獣が上空に上がり、前方では足音が鳴るたびに通りゆく魔獣が細切れになってゆく映像が飛び込んできた。


 このリズルゴールドには、ドクレスを除きそんな人間が存在した。渡り合える者が一人しかいないこの国ではある。他の人間はこの事柄には適用されない。間違いはない。ただし、化け物と称される魔獣と戯れる怪物と踊るお姫様が存在した。



 ——————————パチ、パチィ、パチパチ



 「‥火も広がってきましたねぇ。」

 「‥‥、」

 「あのクソガキは何処に行ったんだ?また同じ風景を見せてあげようと、燃やして上げたのに。」

 「テメェ」

 「まぁまぁ、そう怒らないで下さいよ。貴方の尻拭いをしてあげるんですよ?感謝してほしいぐらいだ。」

 

 広がる火の手、木を糧に熱量が増した火は家の柱をくらい、勢いよく倒れ火の粉が舞う。操作のできぬ自然の風が直撃し、火に油を注いでゆく。辺りは業火に包まれた。そんなこの夜で一番明るく赤い場所で、川の如く不気味にも揺れる長い青髪と黒く黒く深い魔胞子を並べて遊ぶ生き物。

 

 「‥‥、まぁ、感謝はしてあげるわ。」

 「??。」

 「貴方のお陰で、家族と出逢えた。感謝するわ。カルぺ”ディアム=アスター。」

 「チィ。その名で呼ぶな。」

 「‥‥でも、」


 燃え盛り家を喰らう火。上がるは轟々とした火の粉。それが微かな風により軽い質量の物体は右へ左へ動く。同時に、アスターの視界から離れた距離にいたシフォンが消えた。


 この時、上がった火の粉はその場に止まっている。アスターの視界はシフォンは見えていないのに、もうあの場所には存在しない彼方の方角を向いたまま。そして、火の粉が揺れる。アスターの隣には彼の姿が蒼き長髪によって隠れた。


 「知れた?何を?‥そんなちっぽけな数十年の人生で何を知れるのかしら。歴史を舐めないで貰えるかしら。表現者(わたしたち)を嘗めないでくれるかしら。」


 アスターの右肩の位置、彼女は既に隣に立っていた。互いに足の向くまま前方を見たままで、すれ違う様にシフォンの身体は丁度アニス肩を通り過ぎる。だが、シフォンの視線はやや低め。アスターの目玉だけが彼女の身体を追った。彼女の動きは正に自分の隣を素通りするかの様な動き。しかし、彼の目の前。


 「‥‥ふん。」

 

 前方、彼女の身体を追いかけて拳がやって来る。シフォンの態勢は前方に傾き、力が入った踏み込みにこの地に亀裂が走る。今、彼女に置いて行かれた彼女の拳が彼女の元まで戻ろうと、熱を帯びた拳がそのまま真っ直ぐアスターの腹部に飛んでくる。


 「‥‥、脳筋が」


 喰らえば死が見えた。瞬時に対処を、とこの大気中に浮く魔胞子を一斉に操り、己だけが見える防御壁を何重にも覆った。これでは足りぬかもしれないと、指を動かし抱え切れぬ魔胞子を保管しいていたある国の塊を分解して、新たに魔法壁を加えた。


 「あら、知れて。その程度かしら。」

 「なぁ!?(消えた‥魔胞子が‥」

 「よくそれでエピスから逃げれたわね。」


 何かに呑まれ、忽然と姿を消す魔胞子。即ち、防御壁の離脱。真っ向にシフォンが乗せた力をそのまま腹部に打つかる。


 「ぐはぁぁ!!」

 「私の前で知識を語るなら、知れたなど豪語しない事。‥所詮貴方も今から知って行く者に過ぎない。だから‥‥先ずは」


 

  知りなさい。この大陸の広さを。。



 殴られた衝撃、このシオン村には台風が巻き起こる。ぶつけられたシフォンの力になす術も無く、この村から一瞬にして姿を消した。

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