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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
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57”最後の邪魔


 

 「‥‥、何故お前は何も護ってくれなかった。」

 「‥‥‥。」

 「何も話さぬか。‥なんだその顔は‥‥」

 「‥‥‥‥。」

 「チィ、だから嫌いなのだ。私は人間だけが嫌いだと、そう思っているのか?お前の知らない間に随分と外の世界を見てきた。私とお前がどう言う存在かも。」

 「‥!?‥‥‥。‥‥人間の中にも心優しい‥」

 「黙れ。何も理解していないなお前は。もういい、二度と顔を見せるな。」


 これが、彼の方との最後の会話。両腕で目を瞑る我が子。頭から流れる血を拭いながら、彼の方は私の前から消えてしまった。


 今思えば、私は何をしたかったのだろうか。妻の様に、目利きが出来て、行動を成す。私はそれが出来なかった。これも血の定めなのかと、言い訳を作ってしまう。


 物事に、大切な物に、優先順位をつけて動いた私。だが全てが私の手のどどかぬ所へ行ってしまった。妻も我が子も、そして貴方も。


 優先順位を付けず、ひたすらに、貪欲に、全てを護りたいその一心で行動すれば良かった。傲慢な考え、全てを護れる訳がないだろと、言われてしまうかもしれない。でも、それでも良かった。


 結果が変わらずとも、喪失感しか残らない現状より少しはマシな気がする。


 「‥アンタ、そこで何してるのさ。危ないわよ」

 「あぁ、そうなんだが、入らなくては行けぬ。」

 「‥‥‥ふーん。必死な目。‥‥。ほれ」

 「え?なんだこれは。」


 若い頃、逃げ出した彼の方を追いかけて辿り着いたのがこの惑わしの森。遥か太古に存在し続けるこの大森林は、誰も入れず、ただこの大陸の行く末を見届けてきた場所。


 誰かの管理された私有地でもない。そして誰もが自由にこの大自然へと入れる事は可能。それが自然だ。異論は認めない。だが、有名な噂。この森に入れば二度と帰っては来れない。それは全ての生き物が知り、歴史と共に根付いてきた。


 私もこの生涯、触れる事はせずにいようと思っていたのだが、訳が訳、戯言を言っている場合ではなく、急いでこの森に入ろとした時ある女性に声をかけられた。


 地に足がつく程の長さに加えて、風に流されると己の上空を覆い隠す程の質量。それは、空と大差がない程に。


 「名を‥‥ハルス”シフォン。」

 「‥‥‥え?。」


 ゼファーに手渡させれた物は、シフォンから貰った蒼い欠片。


 「‥、何故貴方に渡したかなど、説明はいらない。貴方だから、「返した」のだ。」

 「‥‥‥。」


 シフォン様から授かったこの欠片があれば、この森を鮮明に見渡す事が出来た。入った目的も直ぐに見つける事が出来き、幸運にも綺麗な奥さんまでも手に入れる事が出来た。


 「その欠片のお陰で、私達は誰にも関与されないこの森でのんびりと生きる事が出来たのだ。子供が出来て、益々、平和は大きくなっていった。可愛い可愛い我が子。名をカミラだ。」


 「‥!‥‥‥‥。」


 だがよくある話。平和はそう永くは続かない。私の妻を追いかけて私たちから引き離そうと動く輩が現れ出す。


 「‥‥日に日に、加速していくのだ。彼の方は人間に嫌悪感を募らせ、息子は怖がる毎日。」

 「‥‥‥。スイレか?」

 「あぁ、知っているのですね。話が速い。まぁそれもそうか。貴方様には全て筒抜け。」

 「‥‥‥、」


 敵対関係にあった正真正銘の魔族である私と駆け落ち。国を守る騎士団が部を弁えろと、引き剥がそうとやっけになっていた。


 私以外は、この家から出る事が一切出来なくなった。目の前には美しき自然が広がっていると言うのに、手を伸ばせば届く距離にあると言うのに、今は亡きこの家の窓を境にして眺める事しか出来なくなった。


 大人になるにつれ、彼の方は人間に憎悪を増してゆく日々。それが私達は嫌だった。遥か昔から敵対関係にある人間と魔族。しかし、中には私たちをよく思ってくれる人間だっている。


 「俺みたいな奴か?カッカッカ。」

 「‥はっはっは、何を言っているのやら、貴方はそもそも該当しない。意味のない互いの敵視を、欠伸を描きながら眺める存在でしょう?」

 「??。」


 いつもの様に彼女を連れ戻す為、この森にやってきたスイレの輩。その中には、殺伐する甲冑の中に似合わぬ一人の美少年。


 「‥‥、その子だけは、敵意がなかった。怖がるカミラに‥そして牙を見せる我が君に、手を差し伸べ握手を求めた。」

 「‥‥‥。」

 「中にはいるのだ。見た目で判断しない。清きな人間が。」


 カミラは直ぐにその子に懐いた。その子はメティスの一番弟子。力も大人である私達ですら歯が立たない、そうメティスは語っていた。博識であり利口で、再結成された騎士団へ直ぐに返り咲く事になる。戦場の姫と鬼の技術を全て受け継いだ天才。


 彼の方も、次第に弟子同士仲が良くなった。


 「正真正銘、人間である子。そして、正真正銘、魔族である我が君。その二人が稽古をする姿を見て。益々、この形を世界に広げたいと」

 「‥‥‥?」


 私はそんな人間も魔族も平等に生きれる世界を実現したかった。あの頃のスイレ王国の様な形を大陸全土に広げたかった。私の息子が大きくなり自由に平和に歩ける様な世を創りたかった。我が母国、建国者であるお方が創り掛けた世界をバトンを繋ぎ私が作ろと運動を起こした。


 「‥‥‥、創れたか?そんな世界。二人が仲良しこよしで稽古できる世界。」

 「いや、壊してしまった。」

 「‥迷ったか?」

 「あぁ、もっと早く彼の方に伝えるべきだった。」

 「??。」


 母国を飛び出した彼の人を見つけた私。本来の目的は機密に成長と情報を提供して行く事。時間が経つにつれ連れ戻す様に任務を命じられるが、何かと言い訳をつけて彼の方の自由を守ってきたつもりだった。


 「彼の方の自由を守るか、それとも母国を愛するか。迷っていた時点で気付くべきだった。そんな時、」


 ——ねぇ、イオ。私、スイレ王国に戻るわ。


 彼女の目は真っ直ぐだった。家族を残して出ていくのか!とは、言えなかった。言える分際でも無かった。ずっと彼の方を騙し続けていたのだから。


 「‥‥、直様、止めるべきだった。それなのに、私は愚かにも優先順位を付けてしまった。」

 「??。」


 我が母国では人間との平和条約を結ぶ為、行動する日々。その頑張りの末、私の事を支持してくれる者も多くなってきた。戦鋼番糸の長であるケイジュ様に頭を下げて、帝国でその議会を開く提案までに至った。


 しかし、そんな少しの希望に現を抜かししまった。


 その頃スイレ王国で何が起きていたのかもしれず、妻の身に何が起きているのかも知らず、彼の人の身に何が起きているのかも知らず。私は私が決めた未来の為に尽力していた。


 「‥メティスが消え、私が度々帰ってくるといつも一人ぼっちで待っていた我が子。四人分の料理を作って待っていた。‥‥、ずっと待っていたんだ。家族の帰りを‥‥」


 我が子が家で待っていると言うのに、孤独と戦っていると言うのに、私は我が子の為にと未来ばかり見てしまった。


 「ある時、九日もの間、我が家に帰る事ができなかった日。」


 急いで、家に帰ったさ。だが


 「‥‥家の前では、血を流し目を瞑る我が子の姿と血まみれになった我が子を抱えて泣き崩れるあのお方だった。」

 「??。」


 人間と魔族とのハーフ。それが未来において大きな鍵を握る。それなのに、‥人間によって殺されたのだ。二人の周りには夥しい数の兵士の死体。


 「‥‥、声をかけられなかった。‥彼の方に寄り添う事が出来なかった。‥‥私は最悪な生き物だ。‥我が子が死んだと言うのに、目の前で死体になっていると言うのに、‥あのお方が生きていた。それに私は」


  ホッとしてしまった。


  

  待て待て待て待て!!!



 「???。」


 「さっきから何言ってんだ!?彼の方?我が君?って誰だよ?だます?我が子は二人だろぉ??」


 「あぁ、申し訳ない。言っていなかったな。‥‥」



   あのお方。私が生きた国、魔国ディアム、第一‥‥



  ‥‥‥‥‥



 「‥、田舎臭い街ですね。‥‥」


 張り巡らし宙に浮く鎖を操り、一人の女性に固く縛り付ける。


 「‥まさかまさか、貴方が此処に生きているとは。皆さん探していましたよ。‥まぁ、無駄な詮索はしませんが‥‥、この場所に貴方は必要ありません。」


 「‥‥、うぅ、何をした?‥‥」


 「‥私の指示に従ってもらいますよ。貴女は此処から消えて下さい。」



  ‥‥‥‥‥



 「あのお方を第一に考えた筈だった。だからメティスの行動も止めなかった。」


 迷ってしまった。故に全てが壊れてしまった。妻や我が子は死んだ。残った物は、『スイレに生きる人間に半魔が殺された』と言う事実。その影響で私と同じ同種族は人間を恨んだ。私が掲げていた平等すらも遠のき、私の元からアスター様は消えて行った。


 「‥‥未来は見据える者じゃ無かった。」

 「‥‥。」

 「私は消えたアスター様を血眼になり狂う様に探した。シフォン様からお借りした大切な物を落としている事にも気付かず。亡霊の様にこの森を彷徨った。」

 「‥」


 何も見えなくなった。目が良い妻の様にはいかなかった。何も見つけられず、家族も自分すらも見失い、この森を彷徨った。


 「‥‥‥、そんな時、貴方様に出会えた。」



 蒼く輝く欠片を見つめる翔の目に、

 蒼い粒子が見えてくる。

 横から流れてくる。



 「‥考える時間をありがとう。‥アスター様が生きている事を知れた‥‥、。妻は真っ当し死んで行った。ならば最後に私も身分を捨て父親として真っ当しようじゃないか。」

 「‥お前‥‥‥身体が‥‥」


 ゼフィーの身体から纏わりついていた蒼き粒子達は離れてゆくと、微かに彼の身体は半透明になってゆく。


 「‥‥、私の身体を蝕んだこの子達が最後は私に時間をくれた。一時の時、次元を飛び越えて味方をしてくれた。‥名は知らぬが感謝する。‥‥、」

 「おい、なんだよ。それ‥‥」

 「はっはっは!!哀しそうな顔をしないでください。貴方のお陰で‥‥、です。‥‥」

 

 この状況。少なからず翔は理解していた。何故、この青い粒子がゼフィーの元から羽ばたいたのか。何故、彼が半透明になっているのか。


 「父親らしい事するんじゃなかったのか?」

 「えぇ、そうですねぇ。しかし、もう時間切れです。ほんと、私は出来損ないな父親だ。」

 「‥‥、」

 「これを‥‥‥」


 微かに残る手の輪郭、その中にはヒビが入った懐中時計。


 「‥‥、妻と子に怒られるとします。‥‥、だから、この世に生きる貴方に頼んでも良いですか。」


 「‥‥‥‥。」


 「父親らしいか‥‥と言えば嘘になる。しかしこれが私に出来る最期の愛だ。血は繋がって居ないとは言え、私が彼の人を一番見てきた。誰であろうと異論は認めない。‥‥どうかこの懐中時計を‥渡してくれませんか。」


 「あ‥‥あと‥あれだ。」

 「はい?どうされました?」

 「いや‥‥なんでもねぇ。」


 面倒くさいのは嫌いだ。やりたい事が一つあるんだ。だからその懐中時計を黙って受け取るだけにする。


 「‥‥‥‥。」

 「‥‥あ、」


 受け取ろうとするその前に、彼の手には懐中時計が落ちてきた。確認せずとも横にいた筈のゼファーの身体は、人の形をした物体としか捉えられず。触れる事など更々出来ない。

 自然を司る神起朧。自然其の物が神起朧。そんな不思議な粒子達はゼファーから離れ、自然に、風に化ける。


 風が流れて、この森はカサカサと音を立てる。

 静かな場所では、その口は開かなかった。周囲が葉と葉の擦れる音で、煩く。ボソッと呟いてみる。

 風に背中を押されて呟いてみる。


   おい。


   ?


   カミラ。っているだろ?


   あぁ、私のしん‥‥


   俺の親友だ。


   ‥‥‥‥


 この中心には、更に強い風が立ち込める。


 「ったく、どんな教育したんだか、出会った側から鳩尾に一発。俺を吹き飛ばしやがった。」

 「‥‥‥‥。」

 

 蒼く蒼く蒼く輝き、ゼフィーの顔はもうどんな表情なのかも分からない。


 「、一つ一つ話は長いし、抱きついてくるし、もっとちゃんと教育しろよな!!まぁ、でも、テキパキ動ける奴ではあるが‥‥‥。‥‥‥ふぅ。」


 もう彼の隣にいる者は、神起朧でしかない。身体の形すら残っていない。残るのは顔の輪郭のみ。


 「世界を変えるなんて託されても無視するがな。‥‥、任せろ。お前の子供は立派に生きてる。‥‥、彼奴がのんびり自由にこの大地を歩ける様に‥‥隣に立ってやる。‥約束だ。」


 「‥そうか。そうか。‥‥そうか。‥‥貴方の隣なら何も心配は要らない。‥‥あぁ、‥‥ありがとう。ありがとう。」



  私と‥家族を見つけ出してくれて。



  蒼く輝かず、半透明な雫が一粒。風には化けず、姿形が消えたその場所に残り落ち、彼の手に。


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