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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
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56”名前を呼ばれていたなら応えていた。


 

 魔法は自力で習得して来た。

 口下手なお父様では何も分からず、一人で感覚を得た。

 魔法は、誰かに向かい魔胞子を放ち攻撃する方法だと教わった。

 それが魔胞子の使い方だと、それが人々が「想像する魔法」だと。

 だが、私だけは見える魔胞子の色と性質が大きく異なっていた。


 人間達が扱う不器用な魔胞子とは違い、操作が可能な事だが、使い方はあまり変わらない。

 この人生、人を傷つける為に使って来た事が大半だ。

 しかし、中には人に危害を加えない『魔法』も存在した。そしてその魔法を大切な大切なお母様から教わった。

 

 楽しかった思い出を保管し、再びよみがえらせる魔法。


 楽しかった頃の思い出は、この音を聞けば息を吹き返した。お母様から撫でて貰った頭、褒めて貰い抱きしめられた身体、平和に過ごせたあの森の中心で漂う自然の匂いやお母様が作ってくれた手料理の味、その全てを鮮明に思い出す。これが1コーラス。


 物心がついた時からの家族の思い出が蘇る。自分の足で旅をし、気に入った場所ではピアノを探してその場所で鳴らした。音を聴いた時にこの風景をも思い出せるように。これが2コーラス目。


 私の音色は家族から思い出の地まで思い出せる様に、気付けば長い長い演奏時間になってしまった。


 私が大人になり旅をし歩き始めたあの時までの演奏。皇種を飲んだあの日からは、ピアノを弾くことは無かった。ピアノを探す事も、思い出を書き留めようともせずに此処まで歩いて来た。


 実に長い演奏、その数3コーラス。


 私の人生、遥か昔の思い出だけが色濃くついたこの演奏だけが生涯の思い出となるのだろう。


 私の最後の3番は、ラーガと共に可笑しな条約を結び、あの日の夜にルガルド帝国で鳴らしたこの音色で私の演奏は終わる。


 ——「‥優しくて暖かい魔法もあるんだね。」


 「‥‥‥。」


 しかし、指は止まらず。音色が流れる。


 この場所で記憶を保管した音色が流れる。


 結朱との、奇妙な思い出を振り返ってみる。


 ——「思い出を甦らせる魔法。即ち、思い出をその場で創ろうとする魔法だね!書き留めてその出来事を思い出にしようとする‥‥アーちゃんのお母さんは凄い魔法を知ってたんだね。」


 ——「当然ですよ。貴方なんかよりもずっと凄いですから。」


 ——「もう!関係ないでしょ!!貴方はいつもいつも‥‥


 ふふふふ、‥‥‥‥。


 但し、途端に指が止まってしまった。だから私は演奏を再開しようとした。無様にもこれから先の思い出を作ろうと‥汚く酷い音を一つ一つ鳴らしてしまう。


 今、このピアノが鳴らす音は、ただの音。色もついていない無色な音。元々は、これからこの音が色付いて行く筈だった。


 「‥‥‥‥‥。何故走り出した。‥‥勝手な行動を慎めとあれ程言ったのに‥‥‥。??。」


 鳴らしても、色の付かない音。そんな雑音を聴いても此方は何も楽しくはない。演奏を止めて、蓋を閉める。


 魔胞子を動かし混ぜ合わせる。


 『魔法』を扱い、この蓋の鍵穴と同じ鍵を作り、施錠する。


 そして、魔胞子達を分解し、消失させる。


 もう、開ける事がない様に。閉めた。


 もう、縋る事がない様に。消した。


 もう、拾い上げる事がない様に‥‥


 ‥‥‥—————————————-パチパチパチ。


 「‥美しい演奏だったよ。」

 「‥‥‥、」

 「‥僕も弾いていいかな。思い出の曲があるんだ。」

 「‥‥‥。」


 ピアノの前で座る演奏者は無言のまま、蓋を閉めて鍵を掛ける。そして、僕の言葉に返答もなく、この教会に祀られている彫像の前、台座に向かうとそっと白い布を被った何かを抱き抱える。


 「‥‥‥、おーい。聞こえてるかい?」

 「‥‥‥。」

 

 白い布に包まれた小さな何かを抱き抱える者は、僕の隣を素通りしていく。


 「(ポリポリ)無視は良くないよ?‥‥あ、それとも。」

 「お前も邪魔するか?」

 「あ、なんだ。僕の言葉わかるんだね。てっきりマリーさんのリゲイトが解けて言葉が理解できないのかと思ったよ。」

 「‥何を分からぬ事を‥‥!?。何故貴様がそれを持っている?」


 振り返り声を返してくれた者は、僕の手の中にある人形を見て驚いた顔を見せた。


 「これかい?拾ったんだ。もしかして君のかい?」

 「‥‥落としていたのか。それすら‥‥。‥‥‥ふぅ。ん?種の匂い。」


 綺麗な顔、高い鼻を動かし何かを嗅ぎ取ると僕にそう言った。


 「‥、僕は天傘 敦紫。」

 「‥‥可笑しな名だ。‥‥、‥‥。??。貴様、噂の救世主様か?」

 「‥‥噂だよ。只の人間。救世主なんて言葉には似合わない人間。‥‥でも、この世界の人間ではないのだから‥普通ではないのか?‥‥。」

 「そうか、そうか。‥救世主。‥‥結局、どいつもこいつも邪魔ばかり。勝手な真似ばかり。」


 抱き抱える何かを、冷えた長方形の石椅子に優しく乗せると、少し距離を離し手を広げる。そんな時、


 「‥おい!敦紫!!。気を付けろよ。」

 「あれ、眠ってるのかと思ったよ。」

 

 今まで無言のまま敦紫の腰で身を休めていたペンドラゴラムが急に声を出した。


 「‥?。どうしたの?」

 「やべぇ‥‥、」

 「何が?」


 手を広げた男は、両手を天に持っていくと左手は広げたまま、右手は一度握り人差し指だけを指す。己の手を丁度中心の位置まで持ってくると右手の人差し指を握る。強い力、吹き上がる血管に握った左手は空間が淀み歪んでいる。


 「私が支柱となり‥‥此処に刺そう。」

 「‥‥。」

 「‥、一つお聞きしても?。別次元の人間よ。」

 「‥なんだい?」

 「‥。平和に犠牲は必要だと思うのだ。貴様にも聞いておこうか。‥‥救世主よ。」

 

 これだけは考えなくても出る答え。何故僕に聞くは分からないけど、人それぞれ『平和』に対する考えは違う。犠牲も同じく目的によりけりだと思う。この世界で生きる人間達の邪魔になる事がない様な目的なら、無駄にその者の邪魔をしない。だが‥


 「目的が大きな物だったら、犠牲は付きものだと思うよ。大きな身体で歩けば誰かにぶつかるでしょ?」

 「‥‥そうか。‥‥星が同じでも‥あの子とは似ても似つかない。」

 「??。ぶつからない様に避けて生きたい人生だよ。」


 「‥‥‥。‥‥、その考えだけが世界を埋め尽くせばいい。‥‥、」


 敦紫の腰元、ペンドラゴラムは自分からその身体を浮かし敦紫に告げる。異様なまでの異変を。敦紫に告げる。異様なまでの危険を。


 「敦紫!!俺を振れ!!」

 「え?、なにこれ。」


 その瞬間、敦紫はその目で確認する。黒い礼装に包まれた者の周りに無数の数を漂わせる不気味な鎖を。彼の周りだけではないこの教会全体に張り巡らされた鎖。


 それで終わりではなかった。可笑しな事に自分の声では反応しない魔胞子達がこの教会に存在した。色も形も自分が見て来た物とは違う悍ましい大きさに黒さ。


 ペンの声に反応する様に、敦紫は身体を動かせる。


 鳥肌が立ち、体勢を整えて戦闘体勢に入る。


 「急げぇ!!全力でぇアイツの腕を切り落とせぇ!!」

  

 戦鋼番糸戦闘武術:『地悲(じひ)


 教会で変わらず動き続ける時計、その時計の秒針が今動き出すとこの場所の石床が波を打ち、敦紫の目の色は変わり無数の鎖をくくり付けた男の前まで接近した。


 だが


 「‥‥、言ってる事とやってる事が矛盾してますよ。」

 「!?。」


 相手の第一関節に向けて全力を注いだ一撃の刃を当てるが、入らず止まってしまった。身体などとうの昔に動かない。


 「‥、何する気だ!!お前!!」

 「‥‥‥。あら??喋る剣。‥もしかして大陸兵器ですか。」

 「‥誰だお前!!やべぇぞ!兄妹と同じ‥‥いやそれ以上に‥」

 「‥大陸兵器扱えるんですねぇ貴方。あのスイレに産み落としたクソガキとはまるで違う。」

 「‥‥スイレに‥‥クソガキ??。」

 

 今、疎に轢かれたこの道に、運命が交わる。

 敦紫の攻撃を諸共せず受け止めた男の何気ない会話に全てが始める。


 「‥えぇ、スイレでお見落としたガラクタ。貴方とは似ても似つかない。」


 此処で一つ。


 「、いいんですかねぇ?こんなに別次元の人間が転移して。珍しさの欠片もない。‥結朱に‥‥、あのクソガキに。そして、貴方で三人目だ。」

 「‥‥え?、」


 此処で、また一つ。


 「揃いも揃って異世界人は私の邪魔ばかり‥‥いや、スイレの偽物の勇者様は今頃呑気にシオン村で暮らしている所でしょうか‥案外、あのクソガキだけは無害な存在だった。‥」

 「‥‥、」


 此処で知る。半年前に消息が途絶えた勇者(かれ)の居場所。自分の推理が全て合っていた事に嬉しがる暇はない。今は彼にとってどうでも良い事。それよりもこの世界では絶対に聞くはずの無い名前。ふと言葉を発した者がこの世界で生きて来た者なら知り得る名前では無い。


 「お前がオーランの言っていたアニス。なんだね。」

 「‥‥‥。」


 願いっていた人物との遭遇。ただ、それよりも。


 「‥結朱。‥‥結朱華の事かい?」

 「‥あら、お知り合いですか?」


 自分の知っている人物とこの男が言う人物の合致。


 「会ったのかい?、何処で?」

 「さぁ‥‥どうでしょうか?貴方に言う必要ございますか?家族ですか?それとも『想い人』ですか?」

 「‥‥、僕は今何処にいるのか聞いているんだ。」

 「‥‥、ふん、聞いてどうする?‥聞いたところで—」


 敦紫に向けて、口を開けた直後自分の視界下には何かが映り込む。それは、敦紫の拳。己の腹に向かい殺意が形を成した攻撃が近づく。そしてその攻撃に合わせてこの教会にばら撒かれた魔胞子を自分の腹部に集約させると、指を動かし敦紫の腕に足に首に他から干渉できぬ鎖をくくり付けた。


 しかし、


 「!?。」


 彼もまた理不尽として生きる者。下ろしていたペンドラゴラムを扱い瞬時に鎖を全て切り落とし、再び動いた身体に加速をつけて腹に向けて渾身の一撃を放つ。


 身体を一度止められ、威力は落ちてしまったがこの場所から吹き飛ばし教会の壁を破壊する。爆散した壁の破片がこの教会に飛び散り、椅子の上で白布に包まれた物へ雨の様に落ちてくると、見えぬ何かによって跳ね返された。


 「はぁ‥‥はぁ‥。」

 「‥おい、大丈夫か?敦紫。」

 「‥‥‥。」

 「おい‥‥聞こえてるか?‥‥。」

 「‥‥‥。」

    

 左側で喋るペンの声は届かない。左耳から流れる血、今此処で起きた事、それは敦紫の攻撃が当たった刹那、相対する二人の攻防が繰り広げらていた。届いた拳、その威力ゆえ両足が浮いた時アニスもまた彼に攻撃を仕掛けた。


 「‥おい!、敦紫!!」

 「聞こえてるよ。‥右側で喋ってくれないかな、聞き取りずらい。」


 両手を広げて敦紫の耳を叩く。アニスの行動を咄嗟に判断した敦紫は、突き付けた拳を立ててガードに成功する。しかし、ペンドラゴラムを握りしめる手は間に合わずそのまま、力の籠った掌底が敦紫の耳を襲った。よって聴覚の欠損を余儀なくされる。


 鼓膜が破れた。片耳の聴覚を失い方向感覚にズレが生じると、敦紫の身体はぐらついてしまう。少し休みたい、自分でも信じれない程の力を振り絞り殴りかかった。


 「‥大丈夫か?敦紫、」

 「‥‥、大丈夫に見えるかい?」

 

 数秒の世界に、一つの攻撃を仕掛ける敦紫に対して、黒い礼装に包まれた者は防御と拘束と攻撃を同時に起こした。即ち、敦紫よりも格上。


 「‥‥‥‥。」

 「やべぇ。アイツなんだよ。‥‥‥‥。」


 ペンドラゴラムは相手の計り知れない力に動揺するが、もう一つその要因がある。それは、今この場所で、目の前には格上の存在がいると言うのに‥天傘 敦紫は


 1ミリも笑っていない事。


 これがどれ程恐ろしい事か。この世界で隣に最も居たのはこのペンドラゴラム。この大陸兵器『代百具(フェンネル)』の持ち主は、いつだって笑みをこぼしていた。腹を裂いたあの男の前ですら笑みを浮かべた。だが今は違う。


 彼の顔は、汗を流し耳を抑えて動揺しているのだ。


 取り乱した姿を見るのは出会って初めて。ペンドラゴラムは、敦紫によって吹き飛ばされた煙が上がるその向こうの化け物に恐怖を感じる。


 「‥‥、私の鎖を切るなんて、どれ程呑まれているんですか貴方?。いや、大陸兵器のお陰か。」


 当然の様に、敦紫の一撃は効いてない。


 「‥アニス‥‥‥。結朱華は何処だ。‥‥何処に。」

 「‥‥‥‥。」


 焦っている。この上無しに。その焦りはペラペラと話しながら歩いてくる男に対してでは無く、この世界にやって来たであろう結朱華の猶予である。


 「‥早く‥‥早く結朱華を‥。」


 敦紫は、この世界の人間では無い。よってこの世の空気には適用できない。元々違う星で生きて来た人間が、次元の違う世界でのうのうと生きれる訳がない。この世界にとって敦紫達はバグの一種。


 最初の最初、敦紫がこの世に舞い降りた時説明を受けた。海を泳ぐ魚を地上に放り出せばどうなるか。


 これは仮定の話。魚が私たちに喋り掛けていたらどうする?『助けて』と、善意を持った者でも、魚が発する言葉を理解できなければ死を待つのみ。


 頑丈な身体である敦紫の身体ですら、襲う苦痛に耐える事が出来ずに気絶してしまった。体全体は重く、激しい頭痛、息継ぎの困難化、口からは内臓が飛び出そうな圧縮力。その全てが身体を襲う。吐血の量は尋常ではない。


 理解されずに、痛みだけが襲う。それが敦紫達にとっての異世界。


 敦紫達の様な異世界人は、この世界自体が毒其の物なのだ。


 「‥だから‥だから‥、早くしないと‥結朱華は死んでしまう‥‥。」

 「‥‥‥、苦痛を襲う。‥言語の理解力も皆無。‥助けも呼べない。‥、その運命が待ち受けているのなら‥結朱はどちらの方が‥マシだったのでしょうか。」

 「‥‥‥どう言う意味だ。」

 

 「はぁぁ、ラーガの言った通りブレずに歩けば良かった。‥‥」


 「!?。」


 少し離れた距離で会話をしていた筈の者は、今敦紫の耳元でこう語る。


 「貴方はお強い。‥強ければ強い程反抗心を燃やし、自尊心を大きくさせる。スイレの様に‥お母様を奪った。‥‥貴様達人間の無知ゆえの力に‥彼女は壊れた。‥‥勝手な生き物ばかり‥‥」


 敦紫の足元には、膝をつく黒服の姿。片方の手には真っさらな人差し指をこの地に差し出すと、床に添えた指からこの教会全体に水面の如く黒い力が円を描く。その力はこの場所で止まらず壁をすり抜けて大陸全土に広がって行く。


 「‥‥敦紫ィィ!!こいつの腕をぉぉ!!」

 

 左耳の機能停止に伴い、ペンの声から反応までがごく僅かに遅れてしまい動こうとするが、また彼の腕には果てしなく外へと続く鎖によって拘束されてしまう。そして今、アニスは、鎖が無数に巻かれた左手がこの床に触れた。


 「‥‥勝手に、動けぬ様に。


 勝手に、何処かへ行かぬ様に。


 私が、指示を下す。」

 

 掌がピッタリとついたその5本指を、この床になぞりながら一点に集めた。



  『支配』:|その指は生命を仄めかす《メメント•モリ》



 この教会に漂し無数の鎖。それは果てしなく続くこの広大な大地に伸びる。揺らめく鎖はアニスの動かした左手により引力が掛かり、金属の高い音を立て張力(テンション)が掛かる。


 だが、それだけだった。力が加わった鎖は音を上げたと同時に見えなくなると、またこの場所は静寂に包まれる。そしてアニスは立ち上がり、動かずにいた敦紫の身体に触れて『支配』を解く。


 「‥‥、私の邪魔をするならお好きにどうぞ。」

 「‥‥一体お前は何がしたいんだ。応えろ!!アニス!!」

 「‥‥‥‥。」

 

 砂埃を払い、石椅子に置いていたある物を取り上げると、扉に向かって行く。


 「‥‥、もう何も話しませんよ。‥私に意見があるのなら邪魔をすれば良い。それが良い。犠牲は必要だ。‥‥」

 「‥‥はぁ、はぁ。‥‥!?!?。」


   ドカァァーーーン!!


 突如として、この地が飛び跳ねる衝撃。心臓が閉まる破壊音。真っ暗な外は何故か明るく、人の声は次第に騒がしくなって行く。この教会ではなく、外で、何かが起きている。


 「‥では、さようなら。救世主様、。」

 「待てぇ!!結朱華は!結朱華は今何処に居るんだ!!」

 「‥‥、何も話さないと言った筈。‥‥結朱の友人なら‥元いた世界で‥墓でも立ててあげて下さい。『想い人』の隣にでも‥‥。」

 「!?、お前ぇぇ!!」


 取り乱した敦紫はペンドラゴラムを強く握りしめ、下から上へこの空間を切り裂くと、その力は形を作り上げる。押し出された力によりその刃はアニスに接近するが、ペンは驚いてしまう。


 「なぁ!?アイツ無茶苦茶だろぉ!」


 飛んできた斬撃を手持ち無沙汰な左手で鷲掴みにすると、力を入れて握り潰す。その刹那敦紫だけは驚く事もせずに、凄まじい速度で、空間を切り付けると斬撃の群弾が完成する。フーガの剣術を真似たのだ。


 「‥‥、そんなこと出来たら‥リゲイトの意味がなくなってしまう。‥そしてその刃で傷付いたらどうする?。鬱陶しい。」

 「はぁあ!?っえ?うぉぁぁ!!」

 

 無数に作られた斬撃すらも、ガラスの破片の様に一瞬で粉々になった。だがまだまだ。光りチリとなる斬撃の破片をすり抜けて、アニスの黒い瞳の僅か数センチの距離に、ペンドラゴラムの剣先。


 「‥‥‥。(パチィン!)」

 「ぎゃあああ!!」


 アニスは飛んでくるペンドラゴラムに対して、持ち手の部分を蹴り上げる。すると目の前で、前方へ飛んでいく筈の力を宙で回転させる力に変換させた。そしてその回転は一生では無い。すぐさま回転は遅くなって行くと、ゆっくり、アニスの手元にペンドラゴラムが。


 「‥、キャッチボールですか?なら。お返ししましょう」

 「ぎゃあァァァ!!」


 お返しにと、今度はアニスが敦紫に向けてペンドラゴラムを投げ飛ばす。音速と変わらない速さを誇る遠投だが、体制を沈めて敦紫も避ける事に成功すると、この地面を蹴りアニスに近づく。


 「‥すごいですねぇ。本当に人間ですか?まぁ、私には敵わない。」

 「!?」


 近づく敦紫は、向かわせるその前足にブレーキを掛けて腕を交わせる。前方、布に包まれた物を持つ手はそのまま。もう片方の手を口元に持って行き指を擦る。辺りに漂う魔胞子たちは彼の口元に。そして、パチパチと線香花火の如くアニスの口元から火が見えた。その瞬間、アニスは息を敦紫に向けて吹き掛けた。


  [魔法]:|与え背負った罪と罰(プロトメテウス)


 アニスの吐いた吐息は、業火の濁流。扇形にその火は広がり、この教会は火の海へと変えて行く。肌が爛れる様な熱さ、それに加えて敦紫の足ですら踏ん張る事が出来ぬ風力にこの濁流に溺れてしまう。


 「‥手加減も手加減‥しかしそんな私の魔法を耐えるその服、丈夫ですね。」

 「はぁ、‥‥はぁはぁ。(ブゥン!!)」

 「ほぉ。脳筋ですね。」


 燃えたぎるこの場所の火を、敦紫はペンを振り払い風で鎮火させた。この教会の被害は最小限に抑えられたのだ。そもそも、石で作られた物が多く存在するこの場所は、チリになる心配はないと想定される。大事な最深部にある彫刻も無事である。だが、地べたに敷かれた赤い絨毯は燃え広がり焦げて行く。


 そして、その火を伝いある物だけが移り火し、燃えてしまう。


 「‥‥‥。それでいい。それで。‥‥さて、そろそろ私は消えますよ。‥色々と忙しいので‥‥。」

 「はぁ、はぁ、待てぇ!!」


 動こうとする敦紫の足首には太い鎖が巻かれており、強引に引きちぎろうともビクともしない。


 「怖い怖い。あまり種同士、力を使うのは嫌なんですよ。怒られますから。」

 「‥頼む‥‥結朱華の‥‥結朱華の場所を‥‥。」

 「はぁぁ、私に構っている暇ありますかね。邪魔を好む人間は暇人と聞いた事があります。何も持たずに生きてきたのなら、私の事、邪魔できるでしょう。ですが‥‥。救世主様は違う。‥耳、澄ませて下さい。」


 辛うじて聞こえる片耳に集中させると、人の叫び声。建物が破壊される音、そして一度聞いた事がある雄叫び。


 その声に、窓から外を眺めてみると夥しい数の魔獣がこの国を暴れ回っていた。


 「私、友達が多いんです。ふふ。よく考えて行動してください。‥あ、あと、これは貰って行きますよ。‥正真正銘、私の大切な宝物ですから。では、」


 「‥まてぇぇぇぇ!!」


 残念ながら、鎖は切れずアニスは扉を開けて出て行く。


 「友人さん。次に会う事がありましたら。その時は‥‥結朱の想い人の話でも聞かせて下さい。」


 扉を開ければ外の赤い光が鋭く差し込む。それは熱気と共に。


 「待てぇぇぇ!!”アニスゥゥ!!!」


  ‥‥‥‥‥‥。



 ————————————————————————


 

 大きな足音、重い足音、踏んだ土は抉れて足跡は大きな物になる。老樹が整列し一つの綺麗な道き息を荒げながら走る‥黒色?の青年が一人。名を


 何処だァァァァァ!!!シキミィィ!!


 ‥‥‥。声が大きい。‥彼の名前は、‥彼自身の口から聞こうではないか。‥‥さて、そんな彼は惑わしの森へと入ってしまったシキミを探す。この森全域は彼の視界圏内、直ぐに小柄な人影を見つけて一直線に走り、向かう。


 彼が見つめる先、彼が向かう先は、一度訪れた場所。この惑わしの森の中心。確かにそこにシキミがいる。行方が分からなくなったシキミを見つけたのだが、焦りに焦り猛スピードでこの道を走り続ける。


 カミラと出会った場所。そこにはシキミ、それともう一人の大きな人影。


 「誰だ、アイツ。チィ、当たってくれるなよ。」


 怖がりなシキミの異変な行動。そして、シキミと接点を持つ人間は翔とカミラ以外にもう一人。


 予想は的中させたくない。その気持ちで木々が揺れる程の風を作り出し走り去る。そして辿り着く。


 「オッラァァァ!!アニスゥゥゥ!!」


 「え?アニス?」


 彼が予想していた人物、ではなかった。目を瞑り横になるシキミを膝に乗せる大きな生き物。


 「‥‥ゼフィー‥だっけ?‥‥シキミは‥」

 「心配はいらない。ただ眠っているだけですよ。」

 「はぁぁ、なんだよ。良かったァァ」


 惑わしの森の中心。この夜に一人ぼっちで、黄昏ていたゼフィーの元に、覚束ぬ足並みで一人の少年が行き着く。何故この様な場所に来たのか、他の連中はどうしたのか、ゼフィーの質問に答えぬまま、この場所に足を踏み入れた数秒後、魂が抜けた様に倒れてしまった。


 「‥‥、何か起きたのでしょう。」

 「??。」

 「倒れる前、私にこう言ったのです。「逃げろ」と。」

 「逃げる?」

 「どう言った意味かは知りませんが‥この森の外で何かが起きているのは確か。‥‥何せ、私にはハッキリと見えますから。小さな頃から‥変わらずの魔胞子を。」


 先日、出会ったあの時よりも穏やかな表情に、柔らかな声色。見間違いかもしれないが、前よりも身体は小さく、人間に近い体型。魔族だと言う証明は、頭に生える角だけ。


 「恩人よ。」

 「何言ってんだ。何もしてねぇよ。」

 「‥‥、間違いはない。私に時間を与えたのだから‥‥、」


 そうゆうと、膝の中で眠るシキミを彼に渡して立ち上がる。何も見えぬであろう明日の方角を見ながら、ゼフィーは口を開ける。


 「‥、貴方のお陰で正気を取り戻せた。‥全て思い出せた。‥‥、」


 「‥‥、なんだこれ。」


 それは、蒼く輝いた欠片。何かを割ったひとつまみの破片。


 「貴方様と同じ、同種から授かった物。‥‥、それは彼女にとって大切な物だ‥‥返して上げてくれ。」


 「‥誰だよ。‥‥、お前が返せよ。」


 「‥‥そうだな。男ならば‥‥父親ならば‥筋ぐらい通さなければならない。しかし、貴方様の色を無理にでも纏わせた私は、此処から出られない。」


 「‥‥え?」


 

   私はもう、永くは無い。



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